Dr.ペスト~ボク達の青春は殺人鬼に奪われた~

をりあゆうすけ

第1話 目撃~被害者.城田加奈子~

 さあ、始めようか。


 このナイフを真っ赤に染めよう……女子高生の新鮮な血で。



「もしもし、ママ。……うん。そう、友達としゃべってたら遅くなった。迎え?いいよ、もう向ケ丘公園むかいがおかこうえんだから。もうすぐ家に着くよ。……うん、じゃあね。」


 城田加奈子しろたかなこは、ブレザーのポケットにスマートフォンをしまうと、家路を急いだ。


 昼間はまだ蒸し暑いが、夜になると吹く風は冷たい。公園の遊歩道に溜まった枯葉が、カサカサと音を立てる。加奈子は肩をすくめた。


 ここは森林に囲まれた自然豊かな公園だ。この小さな町の中では一番広い。

 昼間は子供連れのママさんやジョギングする人、散歩する老人などで賑わう。公園の中心には噴水があり、子供達が水遊びではしゃぎ声を上げている。

 しかし……夜になると一変、人通りも少なく、生い茂った木々が園内を不気味に覆う。


 まばたきをしている電灯の元に蛾が集まっている。

 その奥に、不気味な人影を見つけた加奈子は、ピタリと足を止めた。


(え?誰かいる。……なんか、怖っ)


 不穏な空気が流れ、得体の知らない感覚にに襲われた。


 次の瞬間……


 不気味な人影は、猛ダッシュで近づき、そのままの勢いで加奈子に体当たりを食らわせた。

 派手に突き飛ばされた加奈子の上に、すかさず馬乗りになる。の右手には、刃渡り12cmはあろうサバイバルナイフがギラリと光っている。


「きゃあああっ!」


 加奈子は、目を見開きおそおののいた。

 男なのか女なのかもわからない、はたまた人間なのかもわからない。

 不気味な黒いマスクを被り、黒装束を身にまとったソイツは、加奈子の胸の当たりを目掛けて、ナイフを振り下ろした。


「イ、イヤッ!」


 加奈子は両目をつぶり、咄嗟とっさに両手上げて体をかばった。

 振り下ろされたナイフは、加奈子の左腕に突き立てられた。


「ぎゃあああっ!」


 加奈子の左腕から、真っ赤な血がドロリと流れた。



 その時、九条菜々花ボクはハンカチを口にくわえ、洗面台で手を洗っていた。

 高二になっても背が伸びないボクは、手を洗う度にブレザーの袖口を濡らしてしまう。


(やっぱり公園のトイレは怖いなぁ…。虫は沢山いるし、幽霊とか出そぉ……早く帰ろう)


 手を拭き、汚れた鏡で短い前髪をなおした。その時……耳をつんざく女の悲鳴が響いた。


「きゃあああっ!」


 ボクは身体をビクつかせ、公衆トイレの入り口から顔を覗かせた。


(……え、何?)


 ボクは目を疑った。黒い人影が、人の上にまたがり、ナイフの様なものを何度も振り下ろしている。

 チカチカと瞬きをする電灯が、まるでカメラのシャッターを切るように、その様子を写し出している。


(え……映画の撮影か何か?いや、でも撮影してる人も見当たらないし、こんな真っ暗な公園で撮るワケないか)


 ボクは、ワケも分からず震える手でポケットからスマートフォンを取り出し、その様子をこっそりと撮影した。


 しかし、わずか十数秒で我に返る。

(ハッ!こんなことしてる場合ではない。本当に人が襲われているなら助けなきゃ……とにかく警察を呼ばなきゃ! )


 ボクは、慌てて緊急通報のアイコンをタップしようとした。しかし、手が震えスマートフォンを落としてしまった。


(し、しまった! )


 ガシャッという落下音に、黒い人影はこちらを振り向いた。


「あ、ああっ……」(ヤバい……)


 ボクは、あまりの恐怖に身体が硬直していた。

 ソイツの元に倒れている人は、もうピクリとも動かない……

 黒いソイツはボクを見ながらゆっくりと立ち上がった。


 ため息をついたように項垂うなだれると、首を左右に動かす。

 そして、準備体操は終わったとばかりに……ボクに向かって猛ダッシュで駆け寄ってきた。














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