第5話「上総の愚連隊(ヤンキー)」

「父上。今度ばかりは父上に失望しました」

「しょ、しょうがねぇじゃないか。あの後暫くしてから、その…」

 親子喧嘩は安房国あわのくにに入っても続いていた。

 それもその筈。船は頼朝を置き去りにし出港、一足早く安房に入り頼朝佐殿を待つ形になったのだ。

「もう良いでしょう。ご両人、お止めなさいよ」

 時政と共にちゃっかり先に安房への上陸に成功していた総一朗が間を取り持とうとしたその時だった。

 屋敷の一室からただならぬ気配を振りまきながら出てきた立烏帽子が渡り廊下に居た三人に当たり散らす。

「もう!あんたらったら人のことを持ち上げといてなに先逃げちゃってんの!こっちは途中で平氏に見つかりそうになったり用意された舟は沈みそうな本骨ポンコツで自分で漕がなきゃならんし、水汲み出さなきゃ沈みみだすしさぁ……ぁああぁんもう!!」

「頼朝殿!生きてるだけで丸儲けというではありませんか!ここは一つ、源氏の頭領としての懐の深さを…」

 カオスと言うべき状況の真っ只中に物腰の柔らかそうな武士が仲裁の為に割って入ってくる。頼朝の幼馴染みで館の主人でもある安西景益だった。

「景益がそう言うなら…しかし、儂は絶っ対忘れないからな!今回のことぉ!」

 眼をカッと見開き威嚇する頼朝。


 それから数日後、千葉常胤と上総介広常が源氏が坂東武士達と共に憎き清盛を倒すという彼らなりには面白そうな話を聞きつけ景益の館を訪問する。

「…で、その流人がこの俺に力を貸して欲しい、と」

 話を一通り聞き終わった広常は頼朝に近づくと雪隠でしゃがむ姿勢のまま愚連隊ヤンキー喧嘩相手を睨むメンチを切るかのように頼朝を数秒ほど睨みつけると立ち上がり部屋から出ていった。

「な、何ですか。あの威嚇するような風貌と態度、本当に味方に引き入れて良いのでしょうか…」

「上総介広常殿は一昔、京を騒がせた玉藻前に化けた九尾の狐を大岩に封じ込めたほどの実力者。平家方に加担されたら、こちらが封じ込められてしまいますぞ」

 意見が真っ二つに分かれる頼朝勢。

 確かに源氏の大将を初対面にしてヤンキー座りにメンチ切りでご挨拶とは度胸が据わっているのか単に愚か者なのか、その両方でしかないと判断されても仕方がない。

田原総一朗たはらのそういちろう殿は上総介をどのような人物と捉えられたか?」

 困り果てた義時が総一朗に意見を求める。

「千葉さんは確実に此方に与してくれるだろうけど、上総介さん?僕はあの人、確かに強いと感じたけどね、ん~、自分が大将かその直属として扱ってもらえないとヘソ曲げそうな人に見えるんだよね。だから、使い所とタイミ…状況に合わせて誰かが立ち回りを決めないと色々苦労させられそうだよ。」

「と、言うことは?」

「そういうのは、ほら、頼朝さんが決めないと。僕は軍師じゃないんだ」

「えっ?儂???」


 突然決定権を委ねられた頼朝はキョドりながらも最終的に広常の力を借りることにした。

 後日、まさにその通りになった場面が幾度となくあったが、戦上手の広常を召し抱え、富士川での合戦の後に奥州から馳せ参じた牛若丸こと源義経と豪快な仲間たちと合流できた頼朝軍は鎌倉で幕府を開く段取りまでこじつけることに成功する。

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