第2話

 気づいたら、ベッドで寝てしまっていたらしい。


 俺は目を覚ますと、慌てて玲奈の方を向く。


 そこには俺をまるで親のように見ている玲奈がいた。


 ぷっと、笑いを堪えきれずに笑い出す玲奈。


「梓くん、か〜わいい!」

「俺って何時間ぐらい寝てたんだ?」


 もしかしたら、ずっと俺が起きるのを待っていたかもしれない。

 それは流石に申し訳ない。


「う〜ん、一時間ぐらい?」


 あまり自信はないような表情をする。


 とても申し訳ないことをしてしまったようだ。

 別に一人暮らしをしているため両親が来るとかそういうわけではないが。


 ……そんなに待たせてしまっていたのか。


「す、すまん……なんなら先に帰っててもよかったのに。ずっとここで待っていてくれたのか?」

「うん、そうだけど……ずっと梓くんの顔を見てたよ〜」


 まさか、スマホを使っていたわけでもなく俺を見ていたとは、予想外すぎてびっくりだ。


「お前なあ……本当か?」

「うん、そうだけど」


 玲奈は首を横に傾げて。


「それが何か問題でも?」


 驚いた、表情からして嘘をついているようには見えないしどうやら冗談ではないらしい。


「別に問題があるわけではないが」

「うん! だって、梓くんの疲れ果てた顔……めちゃくちゃ可愛いかったんだもん!」


 いや、あれは玲奈がめちゃくちゃエロいと思ってだな。

 仕方がないことなんだよ。


 はい、と俺にスマホを向ける。


「ん?」


 スマホを覗くと一枚の写真が……。


 俺はスマホを触り、一枚の写真を消去ボタンを押す。


「はい、おっけい」

「うん、可愛いでしょ……って、消えてる!」

「当たり前だ」


 むーっと口を膨らまして。


「梓くんの意地悪っ!」


 なんと可愛らしいことか。


 ドキッと来てしまった。


 いかんいかん、俺たちは付き合っていない。

 いや、文字を変えれば突き合ってはいるが。

 身体だけの関係、変な気持ちは持つべきではない。

 そもそも、俺と玲奈じゃあ天秤が釣り合わない。


 ちなみに、玲奈が見せてきた写真は俺が疲れ果ててぐたーっと涎を垂らしながら寝ていた写真だった。


「意地悪じゃない。恥ずかしいからそういうのは俺に言わずに自分だけの物にしておけ」

「はい、ラジャー!」

「わかればよし!」


 時計を見ると時刻は六時近くなっていた。


 ゴミ箱を見ると一つのゴムが捨ててあった。


 ……俺、めちゃくちゃ出してるな。


「ねえねえ、梓くん」


 玲奈が俺に身体をくっつけてくる。


 とても温かくモチモチしていて気持ちがいい。


 なぜか、クラスの男子たちにごめんと言いたい気分になる。

 実際、こんな美少女とヤっていること、こんな美少女の本当の素顔を知っている自分が信じられない。


「ん、なんだ〜?」

「最近、月見くんがうざい」


 月見こと月見幹也つきみみきや、今日、明塚と話していた男子だ。


「私、ああいう感じでグイグイくる人嫌い。あ、でも」


 ニシシと笑顔で。


「梓くんとの行為の際のグイグイは好きだよ!」


 か、可愛すぎるだろ。


 頬が少しピンク色に染まっているのが自分でもわかったため、俺はそっぽを向いた。


「う、うるせえ……ま、まあ俺もああいう感じの人は好きにはなれんな」


 他者のペースに合わせずに自分のペースで突き進む、俺はそういうやつらの気がしれん。


「だよね! 自分のペースで突き進む人って……他の人のペースにも合わせて欲しいよね!」


 やっぱり、玲奈のそういうところが俺は好きなのかもしれない。


 ヤっていくうちに少しずつ玲奈を好きになっているのがわかる。

 玲奈の身体をほぼ全部舐めてきた、玲奈という人間がクラス一わかる自信がある。

 これ以上はダメだ、玲奈と俺はセフレであり恋人ではない。

 もしかしたら、恋人より一つ先に行っているのかもしれない、とても変な気分だ。


「まあ、私、可愛いから仕方ないけどね!」

「帰り、どっかで食ってくか?」

「うん! もちろん、ごちで!」

「割り勘な」

「じゃあ、私、高いやつた〜のも」


 ……こいつ。


「じゃあ、俺はそれより高いやつを頼む」


 ぐぬぬ、とこちらを睨む玲奈。


「意地悪っ……」


 俺はニヤリと微笑み。


「言ってろ」

「言ってるも〜ん!」


 ああ、これから先もこの関係がずっと続いて欲しい。

 そう思ってしまった夕方だった。

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