第24話 契約の指輪

 ブラックはドラゴンを魔人の国の王として迎えよと話したが、皆が納得して対応してくれるかが不安だったのだ。

 特にジルコンは気に入らない者への態度を隠す事が出来ない性格であるのをわかっていたので、かなり心配であった。

 

 しかし、魔人の国に行ってからもドラゴンが表に出ているので、私は外の様子を伺う事は出来なかった。

 ただずっと舞の気配を感じる事は出来たので、そばに居てくれるのだと安心したのだ。

 それに舞の事だから、上手くドラゴンを扱っているのではと思ったのだ。

 よく考えると、ある意味舞は人たらしな部分があり、関わった人物は舞を悪く言う者はおらず、そればかりか舞の虜になっていく者が多いと思ったのだ。

 それは男女問わず、あのジルコンでも舞の事を心から気に掛けているのがわかっていた。

 ある意味、子供の様なドラゴンであれば、舞に預けるのが一番かもしれない。


 そして、ドラゴンもいずれこの身体に嫌気が差す時が必ず来るだろう。

 アクアを見ていればわかるのだが、本来の姿で自由に飛ぶ事が出来ないと、本当に辛くストレスが溜まる様であった。

 きっとドラゴンも同じ気持ちになると思ったのだ。

 だが、私の身体ではそれは叶わないのだ。

 いずれ、この身体から出てドラゴンの姿で飛びたいと思うはずなのだ。

 

 私はある事に気付いた。

 ドラゴンが熟睡している時は、自分が優位な存在となるらしい。

 そのため、自由に動くこともできるのだ。

 今は夜で城は静まりかえっていた。

 私は自分の身体が問題なく動く事が分かると、舞の気配を探った。

 すると、隣の部屋にいる事がわかり、ドアをノックしたのだ。

 返事が無いのでそっとドアを開けると、ベッドには舞の姿はなく、バルコニーに佇んで外を見ていたのだ。


「舞・・・」


 私は部屋に入って声をかけると、舞は驚いて振り返ったのだ。

 私は舞が声を出す前に、優しく抱きしめたのだ。


「ブラック?そうなのね。」


 私は舞の顔を見ると黙って頷いたのだ。

 本当にまた舞を抱きしめる事が出来て嬉しかったのだ。

 以前と同じに大きな黒い瞳で、黒く長い髪を下ろしていた舞は、星灯りの中とても綺麗だったのだ。

 私は舞の顔を見ると再度抱きしめて話したのだ。


「心配させてすまないね。

 舞が近くにいる事は気配でわかっていたよ。

 でも大丈夫だったかい?

 このドラゴンに酷い事はされなかったかい?」


「大丈夫よ。

 ブラックにはしばらく会えないかと思って、少し寂しく思っていたけど。

 約束通り、ずっと会いたいと思っていたわ。

 ・・・今は大丈夫なのね。」


「ドラゴンが熟睡している時だけ、私が優位に立てるのがわかったのです。

 ただ、これも長くはもたないでしょうが。

 舞、聞いてほしい事があります。

 約束の指輪は持っていますね?」


「ええ、もちろん。」

 

 そう言って私に右手を見せたのだ。

 その指輪は暗闇の中、綺麗に光っていた。


「舞には再会出来る約束の指輪と言ったけど、それだけじゃ無いのです。

 もちろん、指輪を持っている者同士を引き寄せる力はあるのですがね。」


 私は舞の手を取り、指輪に触れながら話したのだ。


「実は使い方によっては、かなり恐ろしい指輪なのです。

 この指輪は約束・・・いや、契約の指輪でもあるのです。

 指輪をつけている二人がある契約を交わした場合、それを破った者はエネルギーを指輪に吸い取られ、場合によっては消滅しかねない物なのです。

 少し危険かもしれないけど、ある約束をドラゴンと交わしてほしいのです。」


「・・・でも、ブラックの姿のドラゴンで問題ないの?」


「この契約は魂に刻まれる物なので、問題ありません。」

 

 舞は躊躇なくやると言ってくれたのだ。

 そして私は契約の方法を舞に伝えた。

 きっと舞とだったらこのドラゴンは契約を結ぶと思ったのだ。

 もしもドラゴンが約束を守るような存在であれば、今後ドラゴンの封印は必要なくなるかもしれないのだ。

 ドラゴンの民がアクア一人と言うのが、ずっと気がかりだったのだ。

 だが、この世界に害なく存在する事が出来るなら・・・。

 もしかしたら舞ならそれを可能にしてくれるのではと思ったのだ。

 

「そろそろドラゴンが覚醒しそうだよ。

 またお別れだね。

 舞、無理はしないで下さい。」


 私はそう言うと、舞の頬にキスをしてすぐに部屋から出たのだ。

 そして元いた部屋に急いで戻ったのだ。

 すぐに辺りの様子を見る事が出来なくなり、何も無い部屋に閉じ込められているような状態になった。

 ドラゴンが覚醒したのだろう。

 だが、舞に会うことも出来、周りの気配を感じる事が出来るので、私に不安は無かったのだ。

 

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