ショーウインドーに映る姿
ふと、アンヌはショーウインドーのガラスに映った今の自分の姿を目にする。
(……私、いつのまに…こんなに老けたのかしら? よく見ると目じりに皺があるし……肌も乾燥してるわ……何故?肌の手入れを欠かした事なんて一度も無いのに……私はもっと美人なはずよ?)
田舎町では美人の奥さんで通っていたアンヌであったが、三十代半ばの今は、肌はカサカサで潤いがなく、髪も艶がなかった。それというのも、アンヌの使用している化粧品が彼女の肌に合っていない事が大きな原因でもあった。王都に引っ越してから買いあさった化粧品の中には品質の悪い商品が数多くあったのだ。アンヌに友人がいれば指摘したり、忠告したりするのだが、生憎、友人どころか、知り合いすらい有り様だ。
(肌が若返るっていうから買ってあげたのに!なによ!全然効いてないじゃない!寧ろ、悪くなったんじゃない?そうじゃないとおかしいわ!あの女は若々しかった!)
アンヌは、先日見たヴィクトリアを思い出していた。頭のてっぺんから足の指先まで綺麗に手入れがされている姿。艶やかな髪に、シミ一つない白い肌、贅を凝らしたドレス、高価なアクセサリー。奥方様というよりも、どこかの良家の令嬢といった姿であった。ヴィクトリアは実年齢よりもずっと若く見えていた。
(相変わらず豪華に着飾っていたわ。昔から、あの女は良いドレスを着て見せびらかすかのように侯爵邸を訪れていたわね。似合いもしないドレスを着て。私の方がずっと似合っているって、同僚から言われたものだわ。あの女よりも、私の方がずっと綺麗で、アーサーとお似合いなのにって…。それなのに…この差は何なの? あの女と比べて、今の私はなに?)
アンヌはショーウインドーのガラスに映る自分を観察した。見るからに庶民とわかる服、木で出来た硬い靴、貧乏くさい鞄。節約のため、今までのオシャレな服等は全て売りに出して、安くて実用性を重視した物ばかりを残した結果だった。
(それに…もしかして、ううん、もしかしなくても、私、太った?)
ガラスに映る自分の姿をじっくりと見る。顔に二十顎が出来るだけでなく、お腹もポッコリしていて、足も腕も大根のように大きい。
(そういえば、最近、よく食べるようになったわ…以前はそんなに食べたりしなかったのに…)
アンヌの思っている通り、彼女は以前よりはふっくらしていた。
それと言うのも、ストレスの捌け口を食べることによって昇華していたからである。以前は買い物でストレス発散が出来ていたが、今は、それが出来ない状況だ。彼女が食事に発散方法を見出していても全くおかしなことでもない。
ただ、そのことを本人も、家族も気付いていなかった。
(…お腹周りに肉が付き始めたこともあって、ゴムのスカートを履くようになったわ。だからかしら? これはダイエットする必要があるわね…)
ヴィクトリアの姿が再び脳裏に浮かんだ。
(成り上がり女は昔よりも細かったわ…。十三年前は童顔のちんちくりんにしか思えなかったのに。もう、三十に届く年齢のはずだっていうのに、まるで十代の少女のように若々しかった)
貴婦人らしい落ち着いた衣装の中に、少女のような可愛らしい装飾が施されていた。
それは、ヴィクトリアによく似合っていた。着こなしが難しいドレスで、恐らく、ヴィクトリアにしか着こなせないのではないかと思われる。
アンヌはそのことに気付いていた。
だからこそ、余計に癪に障るのだ。
ヴィクトリアによく似た子供の存在も忌々しさに拍車をかける。
(あの女の子供達…。あの女によく似てたわ。あんな平凡な顔の子供よりも、エミリーの方がずっとずっと綺麗なのに! それなのに平民の粗末な服しか着せてあげられないなんて!レースをふんだんに使ったドレス、可愛らしい髪飾り、柔らかそうな靴、あの女の娘が着飾るよりも、私の娘が着飾った方がよっぽと似合うわ!)
美男美女として有名であった両親の元から生まれた娘のエミリー。
幼いながらも大変な美少女であった。
エミリーが貴族階級に生まれていたら、間違いなく、社交界の花になったであろうほどに。
(私ったら、あの時どうしてアーサーと
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