第29話 試験開始

 一部の目撃者は晃司とラミィが冒険者ギルドからの派遣試験者、実力がある程度あると警戒した。


 また、アモネスの従兄弟であるエリーを従者にしているラミィは、いかにもといった冒険者の格好をしているのと、晃司も冒険者の格好だ。

 だから平民だと一発で分かるから尚更である。


 試験は左隣に座るのが従者なので、姫騎士の1人を従者として連れている晃司は注目の的だった。

 その姫騎士は所作も何もかも既に降っている感じで、椅子まで引いていた。


 幸いこの会場にいる受験者は貴族をスポンサーとしていて、主従が逆転している。

 また、従者は会場内で口を開くのは試験管の許可がいる。

 1度目は注意、2度目は警告、3度目は退場と厳しい。


 これは過去に散々トラブルがあった為で、魔力を持たない従者の貴族がふんぞりかえり、受験者に絡むトラブルが後を絶たなかったからだ。


 そうして席に座るもラミィは晃司の後ろだ。

 試験が始まるまで少し時間があり、晃司はウトウトしていて、周りがぎょっとしていた。

 従者の方は実技試験については簡単な試験だが、筆記試験は同じ問題を受ける。

 だが、従者の合格ラインは主人より緩い。

 特に計算問題が厄介で、貴族も頭が痛い。


 普段から自分で財布を管理しており、お金のやり取りをしていればそうでもないが、四則計算ができるのは帝王学を学んでいたり、商人などは別だが敷居が高く、皆ドキドキしている。


 余程の事が無ければ試験は合格になるが、試験の結果でクラスが決まるからだ。

 上位のクラスにアモネスが間違いなく来るが、同じクラスに慣れたりすると、王族とパイプが出来る可能性がある。

 その為皆必死に挑むのだが、余裕をかましていると思われたのだ。


 そして試験管が入ってくると、慌てたネリスが肩を揺すって起こす。


 そして試験管が問題用紙と解答用紙を配り終わると大きな砂時計を反転させ、試験の開始を告げた。


 砂時計が落ちるまでが時間で、試験の終わりを告げると途中でも解答用紙を提出だ。


 晃司は難しいと聞いていた問題に目を丸く、いやにんまりした。


 やはりかと。

 他からもうそっ!とかうわーとか悲鳴に近い唸りがあり、皆問題に頭を痛めていた。


 過去の不正から試験が終わるまで出られない。

 一応トイレには行けるが、試験管が同行したうえ、用を足すところを見られながらになるから余程の事がない限り試験中にトイレには行かない。


 これは不正からで、賢い奴が解答用紙を複製し、それを出来の悪い奴が覚えて回答する事案があり、過去のやり方では不正のやりようがないようにせざるを得なかった。


 ただ、晃司からすると試験はあまりにも簡単過ぎた。

 試験の時間は1時間半だが、晃司は15分で終わらせてしまった。


 なんと試験の開始15分で講義場にいびきが響き渡ったので皆が唖然としていた。

 そしてネリスはそれが晃司からだと分かり固まり動揺した。


 誰もがあいつ終わったなと思うも、様子を見に来た試験管の1人が解答用紙を見てつい漏らした。


「何!全問正解だと?」  


 はっとなり解答用紙を裏返し、隣に座るネリスに告げた。


「発言を許可する。いびきをかいたら起こしてやってくれ」


「あっはい。主がご迷惑を」


「昨夜も必死に勉強していたのだろう?お前の試験が済んでからで良いからな。出来れば解答用紙を裏返してからな」 


 ネリスは頷き、15分後からは起こしに掛かった。


 それはつまり、受験者の殆どがまだ解答用紙が埋まっていない時に、ネリスが解答用紙への記載が終わった事を意味する。


「晃司様。起きてください。他の人にご迷惑が掛かりますわ」


 晃司はその度にネリスに会釈をし、またうつらうつらとし、ネリスに起こされるのを繰り返した。


 因みに通年、受験者の半分は最終問題の回答にまで至らない。

 それほどの難易度だ。

 だから晃司について驚きを隠せず、何とか回答出来たラミィもやはりこの人は違う!と、晃司と仲間になった事を幸運だとしみじみと思うのだった。

 

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