第21話 晃司の怒り

 アモネスは淡々と話し始めた。

 古の予言により数年後に復活する魔王の脅威に備え、勇者召喚をした。

 だが、召喚時に事故が発生した為に召喚者、つまり晃司が行方不明になった。

 また、帰る見込みはない。

 勇者が死ねば再召喚ができるが、再召喚出来なかったから晃司が生きている事が分かり必死に探した。


 例えば晃司が無能者だったとして、殺して再召喚した場合だが、殺した者の所属する国に重大な呪いが課せられるので、生かしておく必要がある。

 その為、最重要人物として厚遇する事になっていたのだという。


 自分の他に3人の女性を勇者の女として宛がう為、幼少より能力を厳選している者がおり好きにしても良い等だ。

 それと何故召喚時に事故が起きたのか調査した結果として、要は鼻をほじった奴の血が垂れたと。

 魔法陣に血が垂れていたのが判明し、魔法陣にいた6人はその位置から遠く、どう足掻いてもその位置に血が付着しない。

 また、飛散具合から高い位置から垂れたとしか思えず、当日の警備関連の配置から犯人というか、やらかした者が判明した。

 何故そのような事をしたのか不明だ。わざわざ手袋を外すのだ!それを落とす危険を犯してまで我慢できなかったのかと関係者が落胆していた。

 

 可哀想に?その者は既に鉱山送りになっていると言われ、次にこのメイドもどきの話になった。


「勇者様はこの世界に来た時の事を覚えておいででしょうか?」


「確か神殿浴場に落ちて、その後は理不尽に尋問されたぞ。殴る蹴るなど好き放題にされ、面倒くさいから鉱山送りとかふざけた事を言って鉱山送りにされ、死にそうになって髪の色も黒から白に変わったぞ」


「申し訳ございませんでした」


 またもやメイドもどきが土下座をする。


「この者ネリスが当時の神殿浴場の警備責任者でした。また、姫騎士の分隊長であり姫騎士の副長でございます。勇者様に無礼を働いたのは彼女です。騎士の1人が勇者様にとんでもない事をしでかしてしまい、国を代表して謝罪します。煮るなり焼くなり、犯すなり御自由になさってください。私にそうしたければ、それでも結構です。それと勇者様は2日気絶しておりました」


 晃司はあの時の屈辱と痛み、鉱山へ移送中に感じた理不尽な状況、獣に追い掛けられていた時に死ぬ!と小便を漏らしながら必死に逃げ惑った恐怖を思い出し・・・理性が飛んだ。


 晃司はいきなりネリスを無理矢理立たせ、胸ぐらを掴んで壁ドンをした。


「思い出したぞ!お前!お前!お前!散々殴ったり叩いてくれたよな!俺は冤罪だって言ったよな!?見ろこの髪を!俺の髪は真っ黒だったんだぞ!あの時の恐怖であそこの毛まで真っ白になったんだぞ!ざけんな!」


 ネリスを壁に押し当て、更に両手で胸ぐらを掴んで責め立てた。

 彼女は涙を流し、ひたすらごめんなさいを連呼する。

 それでも晃司は殴るのを必死に堪えていた。

 彼女の胸ぐらを掴むのが精一杯だったのだ。


 晃司の怒りは城全体が揺れる程だった。

 いや、実際街全体が少し揺れたのだ。

 眼の前のネリスはその威圧に直接晒されて恐怖した。

 間違いなく殺されると。


 しかし、誰も引き離そうとしない。


 晃司はネリスの頭の横の壁を叩き、拳がめり込み文字通り壁を砕いた。


「なんでだよ!家に返してくれよ!俺はオリンピックに出るはずだったんだ!これまでの人生の全てをスキーに捧げてきたんだよ!なあ、頼むよ!日本に返してくれ!」


 ふと晃司は手を止めた。

 己の股間が濡れたからだ。

 しかもツーンと小便の臭いがする。おかしい、俺は勿論漏らしてはいないぞ!ハッと思うと今の自分はこのネリスに体を押し当てていて、彼女の股間に己の股間が当たっている感じだ。


 つまり、失禁したのはこのネリスだ。

 体越しに分かるのは、この女は心の底から俺の事を怖がっているのだな!だ。

 震えもダイレクトに伝わってくる。

 勿論女性らしい柔らかさもだ。


 体を離して彼女の服を見ると下腹部を中心に濡れており、脚を伝った小便が床を濡している事が見て取れた。


「あんたには何もしないよ。俺はそんなに怖いか?」


「申し訳ありませんでした・・・」


「怖いんだな。俺は女に暴力を振るわないよ。それよりこれ程怖がらせてしまって悪かったな。あんたには色々文句を言って殴りたかったが、もういいや。あんただろ?俺が目覚めるまでずっと看病していたのは。俺の下の世話もしていたんじゃないのか?」


 ネリスは頷いた。


 晃司はため息を付きつつ、アモネスを手招きしてその耳元へ呟いた。


「俺も取り乱したけど、彼女はその・・・着替えを2人分頼みたい」


「これはネリスが粗相を!ライラ、ライラはいませんか?」


「はいお嬢様」


 青髪のショートカットのメイド服を着た18歳前後の侍女が現れた。キツめな顔立ちではあるが美少女だ。

 身長は155cm位だろうか。

 中々均整の取れたスタイルのようだ。


「ライラ、悪いのだけど、メイド服を1着と勇者様のお召し物をお持ちして、準備ができたらお召し替えを手伝ってさし上げて。それとネリス共々浴場にて体を洗ってもらって。彼が何者かはまだ公にはできません。それとこれは尿瓶の中身を誤って溢した、そういう事にしてください」


「畏まりました。少々お待ちください」


 程なくしてメイドというか、侍女が来るとアモネスとラミィは一旦部屋を出た。

 俺が着替える為だ・・・

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