第35話 合否判定会議

 試験をするという事は、受かる者がいれば落ちる者もいるという事だ。


 幸いと言えばよいのか、晃司の実技試験は最後だった。

 なのでこの騒ぎで試験を受けられなかった者はいない。


 立場上アモネスは晃司の無事を確認したくても許されず、早々に王宮に引き上げていた。

 だが、協力者の講師から便宜上倒れて貰ったが、本人はのほほんとしていると告げられた為、引き上げた後も大人しくしていた。


 晃司の魔力を間近で味わったアモネスは、その禍々しい程の力に恐怖すらした。

 ただ、味方ならばこれ程頼りになる者はいまいと、絶対に敵に回しては行けない者だと今更ながら思い知らされた。

 

 アカデミーはてんやわんやだった。

 試験の合否判定の会議の場で晃司の事が議題に上がっていたのだ。

 だが晃司の事は魔道具の不具合による異常事態との結論が出された。

 側で見ていた協力者からの話で、際限なく魔力を吸い取り、それによりあのような大きさになったが、そもそもそれ以上の魔力を持っていないとああはならないと意見を述べた。

 つまり晃司の魔力はあの禍々しいファイヤーボールを放つ事が可能な魔力を持っているのだと理解した。


 理事長がため息をついた。


「彼の事を教えてください」


「はい。アモネス殿下はご存知ですわよね?今年の受験者の1人です。通常王族の子女がアカデミーに通う場合護衛として何人か一緒にアカデミーに来ます。その護衛の主人になり更に殿下の守り手としてアカデミーに通う者を冒険者ギルドに相談し、そこで派遣されたのが彼、冒険者晃司です。流石に冒険者として活躍している者と言えます。調査によると毎朝神殿浴場の魔導具にフルチャージをそれも男女共しているとの事」


「ちょっと待ってください。私もそうですが、この場にいる全員、男湯の方ですら誰1人として魔力チャージの完了に至らなかったのですよ!それを毎日男女共にとは有り得ませんよ!」


「なればあの魔力も説明がつく。まさか我がアカデミーが誇る魔導結界が破壊されようとは」


「ひょっとして彼が勇者様だったりするのか?確か今回の試験を受けた者の中にいると噂されておるが?」


「実際に召喚直後の勇者を見た者の中に、あのタルーアーミ家のレナがおります。ですが、彼女がアモネス殿下について晃司を責めておりましたから違うかと。もしも彼がそうであれば、彼女は抱きしめているものと思われます。それに黒目黒髪だったとの事ですが、彼は白髪です。彼は生まれてこの方髪の色を染めたりした事はないのです」


「ぬう。本当に勇者様が我がアカデミーに来るのか?それはともかく、晃司とやらは間違いなく勇者様のお役に立つであろう。確か筆記も殿下よりも上だったのであろう?」


「はい。それについては試験官より、開始15分で終わらせてしまい、更にいびきをかいていたと聞き及んでおります。しかもついつい解答用紙を見たとの事で、パッと見全問正解だったそうです」


「不正を働いたのでは?」


「有り得ませんぞ!その時間で終わらせておるならばカンニングもありますまい」


「はい。従者にいびきをかいたら起こすように指示をしております。しかも従者は姫騎士の副隊長との事」


「やはり何かしらの不正をしたに違いない。どうやってか問題と回答を事前に盗んだに違いない!」


「それも有り得ません!厳重に管理されており、盗まれた痕跡は一切有りませんでした!」

 

「ならばここに呼んで、不採用になった分の試験をやらせば問題が無いかと思います」


「それ!それじゃ!そもそも全問正解などあり得ぬ!」


「誰ぞ呼んで来るのだ!」


 そうして不正を疑われた晃司を呼ぶべく、30歳代後半の講師が1人、試験申込み時に書かれていた逗留場所の宿に向かった。



 晃司については白髪の高身長だから目立つと聞いていた。

 実技試験で見てはいるが、遠目だった為に顔はよく分かっていなかった。

 つまりその他の情報による特徴から人物を特定しなければだった。

 そこで一緒にいると思われるラミィとネリス、ギルドの受付嬢のエリーの特徴を伝えられたので、特定するのはそれ程難しくはないだろうとなったのであった。

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