隻腕の剣士〜腕を失った少年、剣神に拾われる〜

御霊

プロローグ

1 あの日から


 同じ夢を幾度も繰り返し見た。

 その夢の中で少年はいつも走っていた。

 辺りでは煙が立ち、空は赤く染まっていた。

 そして地響きを伴う轟音が街を襲っていた。

 齢五歳の少年には何が起きているかも理解できなかった。

 そして母に手を引かれ走り続ける。

 

 「お母さんっ、疲れたよ」


 「もう少し、もう少しだから――」


 「お父さんはどこに行ったの?」


 「お父さんは私たちを守っているのよ」


 「守ってる?」


 「そう、だから今私たちに出来ることは走ることよ」

 

 手を引かれるがまま走り続ける。

 少年の足はもう限界だった。

 しかし母は足を止めようとはしない。

 

 「もう歩けないよ」


 「頑張ってマレ――」


 すると母の足がぴたりと止まった。

 少年は視線を前に向けるとそこには大きな影が見えた。

 ハッキリ見ることは出来なかったが確実にこちらに近づいてくるのは分かった。


 「やった、やったわ!」


 不安そうな母の顔が笑顔に変わった。

 

 「やったわマレ!こっちです!助けて下さい!」


 大きく手を振り助けを求める母。

 少年も真似をして手を振る。

 すると母が少年の手をゆっくりと離した。

 

 「嘘……」


 「お母さん?」


 「マレ、今から言う事をよく聞きなさい。私が貴方の背中を押したら走りなさい。絶対に振り返ってはダメよ。誰かと出会うまで走り続けなさい。分かった?」


 「お母さんは?」


 「お母さんとはここでお別れ。大丈夫よ、必ずまた会えるから」


 「お母さんも一緒に行こ?」


 「それは出来ない」


 「そんなの嫌だよ…」


 「マレ、泣かないの。貴方は強い子よ。この先どんな辛い事があっても決して泣いてはダメ。諦めなければかならず報われるのよ」


 「よく分からないよ…」


 「今は分からなくて良いの。いずれ分かるようになるから。もう時間がない、ここでお別れよマレ」


 「うぅ…」


 「マレ、愛してるわ――」


 母は少年を抱きしめ額にキスをした。

 そして母は少年の体の向きを変えると力一杯背中を押した。


 「マレ、走りなさい!!」


 母に押され勢いで走った。

 後ろから何かが潰れる音、断末魔が聞こえても走り続けた。

 少年はただひたすらに走った。

 

 何故この時走ってしまったのか。

 走らなければ母は助かっていたのだろうか。


 ――否、齢五歳の少年に出来る事は無かっただろう。


 だから今度は後悔しない。

 後悔しないために今できる事は何か。


 僕は目を覚ますと木剣を掴み素振りを始めた。



 

 


 

 

 

 


 


 


 

 

 

 


 

 


 

 

 

 


 

 

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