第29話 おらさ、ラブホとか、わがんね

 GWキャンプ二日目、小一時間ほど映研の悪戯に付き合わされたけど。

 残った午後の時間、俺はひたすら休養することに充てた。


 隣にはレンがいて、レンはゲームをやっている。


 これは中学の時散々目にして来た光景だ、それが故に。


「レン、ゲームもいいけど、宿題ちゃんとやれよ」

「竜馬の見せてくれねぇんけ?」

「だーめー、今回は見せない」

「なしてさ? 愛情の裏返しって奴か竜馬」

「俺はそれが愛情ならストレートに伝えたい、今回は俺に鞭打たせた罰だよ」


 とその時、リビングの方から柊木の奇声があがった。


「んほぉおおおおおおおおおおお! 竜馬はどっこっかなどこっかな~」


 その台詞に一応掛け布団で姿を隠したけど。


「竜馬ー? あれいない……おっかしいなー、レンちゃん竜馬どこ?」

「知らね、例え知ってても教えね」

「もー、嫁放っておいて何してるんだあいつは、けしからーん!」


 柊木はそう言うと、掛け布団に隠れていた俺を思いっきり抱きしめた。

 それで頬ずりしたり、股をすりすりと擦り付けている。


「んっほほほぉ! んー、いい! 何だろう、まるで本物の竜馬みたいな感触がする、んほぉおおおおおおお! んほーほー! あ、やばい、僕もうそろそろイクかも、竜馬、竜馬、竜馬竜馬っ、嗚呼っ!」


「柊木! やっていいこととやっちゃいけねぇことがあんぞ!」


 柊木のダイナミックオナニーにレンはぶち切れて、柊木もそこで謝ればいいのに。


「ごめん、僕が僕の嫁に何しようがレンちゃんには関係ないよね?」

「だから竜馬はおめえの嫁じゃねぇっつってんべ!」

「嘘だ!!」

「嘘なもんか、なぁ竜馬」


 そこで俺に振るなー! たく、都合がいい。


「俺、最近本気で思い始めてることがあるんだよ」


 掛け布団を取り払い、上体を起こして顔を出すと、柊木の頬は朱色に染まっていた。


「あ、急に起きた。おっはよー竜馬」

「例えば柊木」

「あいあい、お風呂? ゴハン? そ・れ・と・も、あちしざますか?」

「この際だからはっきり言っておく、お前もやっぱり大事な人だよ」

「……うん、逆に僕も竜馬は世界で一番大切な人だよ」


 けど、俺の傍にはもっと大事な人がいて。


「例えばレン、お前は俺にとってもっと大事な存在だ」

「竜馬……いつか言ってくれると思うとったけど、じゃあおら達は」

「だけど! 俺は高校の三年間、恋愛禁止の約束を設けててよかったと思う」


 柊木も大事だし、レンも大事だし、今の俺には選べない。


「俺は二人とも大事だし、選べないんだよ」


 と言うと、柊木とレンは小声で会議し始めた。


 ――竜馬のこーゆうとこさ、どうにかして治す方法はねぇかな?

 ――弱虫だよねー、それに卑怯、さすがは竜馬、そこに痺れる憧れる。


「そーゆう話し合いは俺の居ない所でどーぞ! それよりも今日の晩御飯どうする?」


 と聞くと、柊木は出前を頼めばいいじゃんって言うけど。


「出前って何を?」

「寿司とか」

「寿司か……じゃあそれで行くか、人数分の寿司、頼んでおくからな」

「私のは特上寿司にしてねー、雲丹、光物、アナゴ、うへへへへ」


 やはり柊木の中身はおっさんで間違ってなさそうだ、好きなネタがおっさんだ。


「レンは?」

「おらはそこまで食欲ねぇから、普通のでいい」

「じゃあ特上を三つ、上を二つにして頼んでおくよ。部長や高薙さんには伝えておいてくれよなー」


 柊木は相槌を打つ一環で着ていたTシャツを上にたくし上げ。


「ブッラジャー!」


 外見は俺の理想かも知れないが、言動が残念過ぎて萎える。


「あ、そうそう、それでさ、僕、またマル秘情報を入手したんだ」

「それって疲れるような内容じゃない?」

「他人によっては衝撃的だね」


 衝撃的な情報? なんだろう?


「兄者と高薙氏、すでに寝ちゃってたみたい」

「……え? あれ嘘じゃなかったの?」

「あれー? 竜馬はすでに知ってるんだー、なら話は早いね」


 と、この時その話を初めて聞いたレンは物凄く驚いていた。


「高薙は部長とヤっちまったのけ? けぇー、おらすんげぇ驚いただ」

「そうだろそうだろレンちゃん、この情報、ハウマッチ?」


 柊木に払う金などない。


「いいかレン、このことは本人が口にするまで聞くなよ?」

「そ、そうだな。にしても高薙の奴なして部長となんかと」


 俺はその内容を知っている。

 高薙さんは部長を誘惑し、行為に及んだあと、こう言ったのだ。


 ――これで許して頂けませんか?


 この台詞は相手に対する畏れや、不信感が感じられる。

 高薙さんはきっと部長のことを理解し切らないまま、事を焦ったと推測している。


 でも、本当の所は結局、高薙さんにしかわからない内容なんだよな。


 して、寿司の出前が届いたみたいだ。

 身体が思うように動かない俺はレンにお金を渡し、出前に対応してもらった。


「みんなー、寿司さ来たぞー、食べるベー」


 柊木はいの一番にレンから寿司のパックを奪っていた。


「僕の特上寿司ぃいいいい! パカ、ああ、輝いている、目が潰れちゃいそう」

「こっちは竜馬の分だべ、特上寿司でよかったよな?」

「サンキューレン」


 寿司が届いたことだし、高薙さんと部長に個チャを飛ばす。


『今晩の晩御飯が届いたよ高薙さん、今どこ?』


 それと部長にも。


『寿司届きました、お前のようなクズにも寿司を食うチャンスをやろう』


 これでヨシ!

 特上寿司の中には見慣れないネタまであって、レンが隣で興奮していた。


「おお、なんだそれ?」

「良かった食うか?」

「じゃあおらにあーんしてくれ竜馬」


 ええ? さっき恋愛禁止って改めて伝えたじゃないか。

 レンは期待した目で俺を見詰めている、ぐぅカワだった。


 その時、高薙さんから返信が届いた。


『申し訳ありません、今夜はそちらに帰れそうにないので、私の分は好きにしてください』


 なぬ?


『今どこにいるの?』

『ホテルです、部長さんと一緒にいます』


 ……絶句しかしなかった。


「竜馬さ、何してるだ、おらさっきから口開けて待ってるのに」

「え? い、いや、高薙さんと部長、今日は帰って来ないって……」

「二人してか?」

「あ、うん、なんか今ホテルに一緒にいるらしい」


 俺の台詞に、柊木ががっつりと食いつく。


「えっ――――! 兄さんが高薙氏と、ホテルぅ!? 地球が滅んでしまう!」

「高薙の奴、一体どうしちまったんだろうな」


 レンも高薙さんの行動は今までと比較すると異常なものだと口にしている。


 二人とも、親から言いつけられた許嫁のことを気にしているのかな。

 もしも俺がレンと許嫁関係を親から強要されたら、甘え切っていたかな。


 俺にはエルフ耳の美少女の許嫁がいるんだ! ってな感じに、周囲に自慢して。


 恋人を作ることが難しい俺みたいな非モテ系にとっては、ある意味ありだな。


 柊木はもの凄い勢いで寿司を平らげる。


「竜馬、お茶!」

「口に物含んで喋るなよ、ほら」

「竜馬、ゴム!」

「食事中だぞ、やめろ」

「竜馬、愛してまーす! レンちゃんも、少し、愛してまーす!」


 柊木が暴走し始めた、実の兄に高薙さんという存在が現れたからだろうけど。


「という事でして、兄さん達の所に寿司届けに行かないかい?」

「止しとけよ、他人の恋路の邪魔するのは」

「それが普通の恋路だったら僕もねー、でも相手が相手だし」


 ……なるほどな。


「相手があの兄さんだし、高薙氏が不憫でならないんだよ僕はさ!」


 お前どんだけ兄貴見下してるんだよ、なるほどな。


「いいんじゃねぇか? おらも少し気になるし、様子見に行ってみっべぇ」

「だよねレンちゃんそう思うよね!? 竜馬、チ〇チ〇!」


 レンにマジで? って感じで見ると。


「おら……その」


 その? 何をもじもじとしてるんだレン、答えろ。


「ラブホっちゅう所に前々から興味あったし、後学のために見学してぇ」

「そもそも二人がいるホテルってラブホだったのか?」

「違うのけ?」

「俺は高級ホテルをイメージしてたよ」


 と言っていると、柊木は席を立ちあがって。


「とりあえず僕準備して来るね、トイレで!」


 鼻血を出しながらトイレに向かうのだった、変態エルフが。


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