第20話 おらさ、オナニーとか、わがんね

 それから、明竜高校での学生生活は本格化していった。


 担任の餅鬼先生が言っていたように、各授業が本腰入れて行ったのは入学式があった週の翌週のことで、一番初めの授業では各教科の教諭が自己紹介とそれぞれの科目ごとに含蓄を講じたり、教科書を開かせたりさまざまだったけど。


『竜馬、この問題解けない教えて~(人>ω•*)』


 同じクラスの柊木は授業中もふざけた態度で、よく俺に個チャを飛ばす。

 一々相手にするのも馬鹿らしいと時にはスルーしていると。


『教えろっつってんだよイカ坊主!!(# ゚Д゚)』


 彼女はすぐに切れる。


『イカ坊主ってなんだよ』

『今朝も早くからイカ臭い白濁液をご自慢の彼女にぶっかけた痴れ者のことよ』

『俺は童貞だ、何度も言わせるなおっさん』


 しかも送って来る個チャのほとんどが下ネタともあれば、柊木はもうまごう事なきおっさんです――キーンコーンカーンコーン……四時限目の終業チャイムが鳴ると、生徒達は各々昼食のためいったんログアウトする。


「じゃあな柊木」

「おう、今から竜馬の家に向かえばいいんだね」

「家の場所知ってるのか?」


 問うと、柊木はにやにやとしたいやらしい笑みを浮かべる。


「なんなら竜馬が今日穿いている下着の色まで答えられるよ」

「おま」

「ちなみに私の下着の色は白だよ? ちらり」


 柊木はそう言い、灰色を基調とした女子スカートのすそをたくし上げる。


「それぐらいどうした、俺の家には年頃の女子の下着が干してあるんだぞ」


 今さら柊木の下着ぐらいで靡かない……! く、殺せ!


「とりあえずまた午後な」

「僕だけが知っている、竜馬のような青少年のリビドーを、アデュー」


 柊木と別れるようにログアウトしてリビングに向かうと。


「竜馬、おら、やっちまったかもしれねぇ」


 レンがもはや定型句となった台詞を口にする。

 今度は何をやった? と聞く間もなくレンは日々の失態を説明するのが日課だった。


 レンと高薙さんを交え、レンのお母さんが作ってくれた昼食を摂りながら談笑していれば、四月から始まった高校生活は、早くもゴールデンウィークに差し掛かろうとしていた。


「あ、そうだ」

「どうした竜馬?」


 レンが俺の台詞にいち早く反応し、聞く。


「俺、餅鬼先生に呼ばれてたんだ。ちょっと一足先に行って来るわ」

「おらもついて行こうか?」

「いやさすがに……たぶんクラスの用事かなんかだよ」


 という事で、自室に戻って……――ガチャリ、俺は部屋の扉をパスワードでロックした。窓も曇らせて、準備OK。


 はっきり言って! 俺はもう堪えられそうにない。


 少し小柄ながらも銀髪で威勢のいいエルフ耳の美少女からの求愛。

 高飛車な所が玉に瑕とはいえ、スタイルのいい高薙さんとの一つ屋根の下生活。

 そして今日は、白髪エルフ耳の元嫁による誘惑……!


 これらを受けて、一体誰がこの行為を制御できるのだろうか。


 オナニーと言えど、それは22世紀の青少年によって神聖化されている昨今!

 もう、我慢出来ませんでした……う!


「はぁ、はぁ、やばいな」


 超久々にオナったからか、量が凄かった。

 とその時――コンコン、誰かが部屋の扉をノックしている。


「竜馬? 母さんだけどちょっといいかしら」

「ちょっと待ってー」


 チチィ、余韻にひたらせてくれないのか。

 すぐにティッシュを処分して、後は下着だけでも穿いておけばい……?


 ふと視界の端にあった窓が気になった。

 曇りガラスにしていたのに、なんか通常モードになってないか?


 と、窓に目をやると。


「あ」


 窓の外に、レンが居た……ぬ。

 ぬぉおおおおおおおおおおおおおおぉ!?


 急いで再び曇りガラスにしたけど、レンは窓を叩いて。


「竜馬、今回はおらが悪かった、だから窓さ開けてくれ」

「どうしてそんな所にいるんだよ!」

「竜馬がさっき言ってた、餅鬼先生に呼ばれてるっちゅうの、あれ嘘だって思って」


 実際そうだけどさ……ちくしょう。


 その日、俺は先生に呼ばれているとの嘘を吐いてまで致したオナニーをレンに目撃されてしまったようだ。思えばレンとの共同生活を始める前、こういった事案が何よりもの杞憂だったんだよな、はぁ。


 言われた通り窓を開けると、レンは軽い身のこなしで中に入る。


「お前無茶するなよ、落ちたら死ぬ可能性だってあるし」

「そ、そうだな、もう今後は止めるだ。そ、それじゃあ、な?」


 と、レンは顔を紅潮させてロックが掛かった部屋の扉に向かい。

 が、が、って感じで手を引き、扉が開かないことに不思議がっていた。


「なして開かねぇ、駄目なんだって今日は、今日は危険日なんだって」

「レン、ロックが掛かってるだけだよ。今開けるから」

「お、おお、そうだったんけ、はは」


 ロックを外すと、母さんが心配した表情で居た。


「ああレンちゃん、無事だったのね良かった」

「小母さん、心配掛けたみてーでごめんさ」

「竜馬に悪戯されたりしなかった? 可哀想に、あいつ意外と性欲強いから」


 余計なこと言うなババア! く、殺せ!


 そんな昼休みを過ごした後、VR教室にログインすると柊木がアイスキャンディーを舐めていた。


「おっす竜馬、君もいるかい?」

「……いらねーよ、はぁ」

「ため息なんか吐いちゃって、君らしくないなあ……あ、そうそう」


 柊木は何かを思い出したかのようにあるデータを寄越した。

 A4サイズの画像データで、その内容は映研のGWでの予定だった。


「キャンプするの映研?」

「そうだよ、それ、兄さんが夜なべして作ったみたい」


 じゃあレンにも送っておくか……はぁ、超気まずい。

 気まずいし気が重いし、かつてこれほどまでに絶望するような自慰があっただろうか。


『レンへ、さっきは汚いもの見せてごめんな。言っておくけどさっき見たことは他の誰にも喋らないよう注意しろよ。それとGWは映研でキャンプするかも知れないんだってさ。柊木から貰ったチラシ一緒に添付しておくな』


 と、レンに個チャを送ると。

 キタっ――――――!! という、柊木が使っている受信音が聴こえた。


「ん? レンへ、さっきは汚いもの見せて……んん~?」


 ……は!? レンに個チャ送ったつもりが、宛先が柊木になってる!!


「竜馬、まさか……この昼休みでしこった?」

「な、ななななんのことかな柊木さん、女子が口にしていい台詞じゃないぞ」

「ちょっと右手貸してごらんって、不浄なる君の恋人を」


 と言う訳で、俺のオナニーは柊木にもバレてしまった。

 くそぉおおおおおおお!

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