第12話 おらさ、エスコートとか、わがんね

「にしても旨いなここの焼肉」

「んだな、こりゃ箸が止まらねぇべ」


 レンとのファーストキスの味? そんなの焼肉の塩だれレモンでどっか行ったよ。

 俺はカップル優遇メニューのためにレンとキスしてしまった。


 恋愛禁止を公にしている俺達にとってそれは背徳的で。

 けど、それ以上に食べ放題の焼肉の味の方が罪深かったという謎理論を展開する。


 美味、美味、美味、もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ。


 一時間後、俺とレンは焼肉で胃袋を一杯にして、次の目的地を目指し歩いていた。


「ぷぅー、こんだけ食っても二人合わせて二千円で済むなんて、やっぱり思い切ってキスしてよかっただな」


「それはもう言うな」

「なして?」

「あの約束を忘れたのか? 俺達は恋愛禁止だったはずだろ」

「……そうだっただな」


 俺達は約束を今さら思い出し、繋いでいた手を離した。

 そもそもレンと手を繋いでいたのは、アンティーク店の時限定であって。


 その後も手繋いでいたのは、約束を失念していたからだ。


「あ、ちょっと待って」

「どした竜馬?」


 次の目的地を目指していると、通りにホワイトデー特集をやっているお菓子屋さんを見つけてしまった。通りに出ていたディスプレイによると、お菓子を袋に詰め込んで物量で攻めてみよう! なんてうたい文句だ。


「ここで母さんと高薙さんのお返し用の品を買っていく、割と安価だし」

「そこ、重要な。ホワイトデーだからってチョコくれた女もそこまで期待してねぇべ」

「そう言えばレンは割とチョコ貰ってたよな」

「ああ、なしてだろうな。おらが使ってたアバターだっせぇのに」


 俺も理由はわからないけど、高薙さん効果じゃないかなと思っている。高薙さんはクラスでも人気篤いし、その彼女がレンへの好意を裏で口にしていたのであれば、それを耳にした女子がレンに興味を持った。とか?


「って、お前、何してるんだよ?」

「なんだよ、オラだって竜馬にチョコあげたろー?」


 見るとレンも専用の袋を手に取り、自分用のお菓子をせっせと詰め込んでいた。


「お前には別のお返しを想定してたのにな」

「え゛、それっておらだけ特別ってことか?」

「……まぁな」

「竜馬はおらを特別視してるのか?」

「しつこいぞレン」


 と言い、お菓子に向けていた視線をちょっと流してレンの顔を見やった。

 レンは顔を若干赤らめて、瞳を輝かせながら、俺を凝視している。


 そんな顔して見詰められると、恥ずかしいのだが……!


「どうしよう竜馬、おらてっきり、おらの分もこれで用立てるものだと思って」

「今さらだし、しょうがないからそれも払うよ。割と安価だし」

「……不思議だな」

「何が?」

「どうしておめえさみてーな男が、今まで誰からも言い寄られてなかったのか、クラスの女子達は見る目がねぇべ」


 どうしてって、俺は陰キャだったし。


 例えば小学校の頃、授業科目の中に自由時間ってあっただろ? ある生徒は室内で駄弁っていたり、またある生徒はその当時流行っていたゲームで遊んでいたが、俺の場合は親から与えられたコードのデバッグ作業を一人で黙々としていたような感じだった。


 その時、俺に「将門くんは何してるの?」って聞いて来た同級生に対しデバッグ作業の辛酸を言ったことがあったけど、聞いて来た同級生は途中から目が死に絶えていたっけな。俺はトイレの間もずっとデバッグしていたら、中学のVR林間学校で将門は便所デバッグをしていた強者だぞって言われて笑われたぐらいだし。


「もしかしたら、おらのせいだったりするかもな」

「そうだな、俺達影では付き合ってるって噂されてたみたいだし」

「そうだったんけ? こっぱずかしいだな」


 まぁ、今さら過去は変えられない。

 ことさら俺は今年進学する高校で高校デビューするつもりもない。


 高校では中学の時とは同じような感じ、とはいかなさそうだった。

 そう言えばレンは高校からアバターを本来の姿の者にするんだった。


 中学の時のレンは女子からちょいちょい話しかけられてちょっと嫉妬したけど。

 高校にあがった時は、別ベクトルの嫉妬を覚えそうだ。


 ……正直、他の誰かに取られるぐらいなら――という気持ちはセーブしないとな。


「なぁレン」

「んだ?」


 お菓子屋で会計を済ませていた時、俺はレンにこう言った。


「お前へのお返し、そのお菓子でもよろし?」

「別にえぇけど、さっきは別に用意してる口振りだったべ?」


 一体どこさ連れて行くつもりだっただ? などと聞かれ、逡巡した。どうやらレンは――俺の同士であるエルフ耳の美少女はイヤリングが好きなようで、今彼女の両耳には紺碧色した簡素なイヤリングがしてある。


 レンのこと、好きかどうかって迫られると、口籠ってしまうが。

 レンのエルフ耳が好きかどうかって好きです!!

 俺はエルフ耳を愛してます!!


 であるから、彼女の耳に華を添えるイヤリングは、是非とも贈ってやりたい。

 この際本体じゃなく、レンのエルフ耳にお返しするつもりでいよう。


「わかったよ、やっぱりお前の耳に似合うイヤリングは必要だよな」

「え? ってことは竜馬はイヤリングを贈るつもりでいたのか?」

「そうだよ、キリ」

「ありがとう竜馬、やっぱおら、この戦争が終わったらお前と結婚する」


 じゃあ行こうかエルフ耳、じゃなかった、レン。

 不肖、将門竜馬、今回は懐事情を推してエルフ耳をエスコートすゆ!


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