社畜女が転生したら、聖女と賢者と勇者を同時に持って生まれましたが世界は救いません。最強? いいえ、仕事量三倍です。もう酷使されたくない。逃げろ!

きつねのなにか

第一章

第1話 恥……ではなく、労働の多い人生を送ってきました

佐原雪さはらゆきさん、死亡を確認しました」


 いや、まだだ、まだ脳細胞は生きてる。死ぬまで猶予はある。しかし死ぬのは確実、何を考えれば……。


 思えば働き過ぎの人生でした。


 学生時代は青春なんかせずに猛勉強に明け暮れ。寝不足で倒れたことも何度か。

 良い大学には合格したものの、それまで勉強しかしてこなかった私には何をすれば良いのかわからず。やったことは彼氏を作った、位かな。

 

 新入社員として入社した会社はブラックで、毎日サビ残をこなさないといけないし、こなしてもこなしても業務が降ってくる、上司の罵倒とともに。心身ともに疲れて逃げるように病気からの退職コンボをかました。


 次に入ったところは内容は普通だけど激務に次ぐ激務で。この頃彼氏とお別れした。私には何もなくなった。もう働く以外に道は残されてなかったのである。

 ぽつーんと心に穴が開き、この会社を辞めて次の会社へ。精神的に辛い環境の職場で、日に日に体はやつれ、心もさらに摩耗していった。


 からの、このくも膜下出血による死亡コンボである。


 35歳まで猛烈に働いて体壊して、くも膜下出血で死んだだけの女になってしまった。この人生ちょっとひどすぎないか?

 ああもう意識が薄れていく。次、とかあるのかなあ。楽園や地獄にでも行くのかなあ、それとも消えておしまい、かなあ……。



 ――あったしーかみさまーぽえーん。ゆきっちちょっち悲惨だからー輪廻転生先をちょっと違う宇宙に変えてあげるねーぽよよーん。よいものもつけといてあげるねーわたしやっさしー――



「おぎゃ、おぎゃ、おぎゃー!」


 え、なに?


「生まれた! 生まれた!」


「おぎゃ、おぎゃー!」


 これ叫んでるの私だよね? 私が叫んでる。おぎゃあって、赤ちゃんになって。

 は? よくわからん。とりあえずくも膜下出血の激痛が消えたので眠りにつこう……。


「はーいお乳の時間ですよーユキちゃん」


 なんかゆすり起こされた。おっぱいの時間みたいだ。目の前に脂肪の塊がある。


「ユキ、たくさん飲んでね」


 私の顔に押しつけられる脂肪の塊。不肖佐原、35歳にして再度母乳を飲みました。あんまり美味しい感じではないかな。あんまり味覚が発達してないのかな、私……赤ちゃんだよね?

 うんせうんせ飲んでると、だんだん呼吸が荒くなるもので。おっぱいから唇を離しゲプーしなくてはならない。


「ぷはぁ。あうあうー」


 母親らしき人に背中をさすられてゲップをだし。すると眠くなってくるわけで。

 あぁーなぜ赤ちゃんになってるのか、話している人が地球の北半球の主流言語とはまるで違う言葉なのかわからないのに理解できているんだけど、とりあえず眠いし寝まーす。



 赤ちゃん生活をして多分半年くらい。わかったことがある。

 赤ちゃんはなろうとして出来るものではない。気がついたら赤ちゃんをしているのだ。人の赤ちゃんとは実にか弱き存在。どれだけ知性が35歳であろうと、赤ちゃんの体力や出来ることの前では知性など存在しない。生きるので精一杯である。

 それでも半年で兄弟姉妹の数や名前は覚えた。


 一番上の兄ちゃんが「ガスホ」16歳。既に働いておりこの家にはあまり帰ってこないようだ。

 2番目に姉ちゃんで「ニーア」14歳。赤ちゃんの目なのでよく見えないんだけど、羽根が生えてる。

 3番目の兄ちゃんは「ルーク」8歳。多分騎士団に入りたいんだと思う。それっぽい単語が頻繁に出てくる。剣も常に持ち歩いているし。

 4番目の兄ちゃんが「マーゲス」4歳。5番目のねーちゃんが「シルビ」3歳。双方ともに私を嫌いなようでお母様に隠れては蹴る殴るしてくる。仕返ししねえとな。


 お母様の名前は「マール・サースパンダー」。とても優しいのでこの人生お母様に捧げてもいいかも。なぜか始まった二度目の人生なので楽に生きたい。


 半年はすぐに経ち一歳に。

 誕生から一年たって少し余裕が出来たので、「アレはなんですか?」という単語「まぶぽ?」を覚えた。言葉ははっきりとしないし耳もまだまだ発達中だけど、積極的にまぶっては単語を覚えている。大体の物が「あべすぱ」とか「あばばい」とか言われるんだけど、なぜか日本語訳が一瞬でわかって理解できる。でも理解できてもまだ正確にはしゃべれないんだけどね。


 二歳になった。お母様との意思疎通は出来るようになってきた。というか日本語でしゃべっても現地語で翻訳されるようになってる。


 言葉はある程度もうわかってしゃべれる年齢だと思うんだけど、二歳でいきなりペラペラと話し出すのは違和感があるので乳幼児のふりをすることにした。んだけど……これがつらい! 私は今まで社畜として働いてきたけどそれでも有能社員として働いてきたんだ、それが怠け者を演じるなんて……精神的にきつい。

 ダメになりそうなほどきつくなったら、お母様に抱きついてあやしてもらう。うびゃー幸せでござる。

 マーゲスとシルビのいびりは、防御的動作をするとなんかこう、ゲームの魔法みたいな効果が出てくるので対処できるようになった。顔を防御すると目の前にバリアっつーか、防御壁が出現したりする。多分この体、一般人とは違う。


 家の間取りなんかもよちよちだが歩けるのでわかった。

 ボロ小屋である。それでも間取りは大きく6メント*8メントくらいはある。4つの敷居でしきられている。こっちはメートル法じゃないのでメントの大きさがどれくらいか苦労したが、大体1.1~2メートルくらいだと思う。ニーアお姉様のように人となにかが交ざっている人間も存在する世界ではあるけど、人の大きさが似ると単位も似るのだろう。


 外に出てみたいが四男マーゲスが邪魔するので出られない。こいつの邪魔ってのが


「垂直落下かかと落とし!!」


 などという、お前二歳児に何やってるんだアホかという熾烈な攻撃なのであまりうかつなことは出来ない。仕返ししてやろうかと思うんだけど、攻撃的魔法のような物が発動して死んじゃったらやばいし。

 こんなことを繰り返し「大うつけの二歳」を乗り切る。そんな慣用句あるかは知らないけど。


 晴れて3歳となった。この1年でなんとなく把握できたんだけど、こっちの1年は600日。一ヶ月が60日あってそれが10ヶ月あるようだ。季節はちょっとわからない。時間は地球の一日よりはるかに長いけど、二四等分割りなのは一緒。指10本だと考えることも同じなのかな? 馴染んでるから助かった。


さて、3歳にもなったのでここできっちりと決心をしていこうと思います。


私は

この世界で

二度目の人生を生きる!


もうこの世界にも慣れました。社畜はどこに行ってもその環境に慣れるもんなんです。

正直社畜の時より生活は楽です。ひもじいけど、35歳+の知恵を駆使すればそこそこ食べ物を収穫できます、上の子に持って行かれますが。やればやっただけ見返りが来るなんてなんて素晴らしいのでしょう、社畜時代にはなかった。預金通帳も増えなかったし、彼氏には逃げられ……うん。

この生活を満喫しましょう。脱社畜! あばよ社畜! ノーモア社畜!




「さあ、ユキ。そろそろお時間ですよ。支度は出来てますか?」

「はいお母様。職業・スキルがどんな物であっても私はお母様を支えられれば十分です」


 そう、今日は職業・スキルを鑑定して貰うために村の神殿まで行く日なのだ。

 お母様に連れられて村の神殿へと行く。途中村の若い男達と遭遇する。


「おいマール。今度はそれがお前の作品か」

「俺にもやらせてくれよなあ、させこのマール」

「ハーフジャイアント族は本当に子だくさんだな。こどもだけを産むしか脳がねえ」


 お、ころすか? お?


「おかあさまはすてきなおかたでふ! おまえらくそいかどもより――」

「やめなさい、ユキ。丁寧なご挨拶どうもありがとうございます、それでは」


 足早に立ち去る私たち。男どもがなにかを叫んでいるが罵倒してんだろうな、くらいしかわからなかった。


「おかあさま、ハーフジャイアント族って?」

「そうね、男は大きくなって体長3メント、筋肉がとても豊富な頑強な種族よ。女性も大きくて子だくさんなのが特徴ね。私はあまり大きくないけど、とても子だくさんなのは受け継いでいるわ」

「へぇーなるほどー」


 うん、お母様多分娼婦なんだろうな。

 産まないことも何度もしただろうけど、ハーフジャイアント族の子だくさんという特性で、

 ま、お母様がどうであれ、私の優しいお母様であることには変わりがない。


 さて、特筆すべき所もない村に入って、白い石材で出来た神殿に入る。

 そして神殿長からぼそぼそとしか聞こえない洗礼を受け、職業・スキルを判別する……機械だなこれは。機械に触れる。

 すると。


 機械が粉みじんになって爆発した。ええぇ……。

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