マイナスからの成り上がり ~異世界バトルロイヤルは神様からのオーダー!?~

マルルン

 異世界召喚の章

第1話 これが噂の異世界転移ってか?



 地下鉄のホームって、何か独特な雰囲気があるよね。地元に地下鉄って無いから、この妙な圧迫感さえ新鮮に感じてしまうけど。

 周囲の生徒たちも、恐らく俺と似通った感想なのだろう。馬鹿話に興じる騒々しい奴らに関しては、普段と違った周りの景色すらどうでも良いのかも知れないが。

 いやでも、一応は修学旅行だし興味持とうぜ?


押野おしの仁科にしながこっち見てるぜ、春樹はるき……やな奴らだな、担任でも無いのにねちっこく教師面しやがって」

「生徒指導として張り付いてやるって、旅行前から言ってたもんな……視界に入れたら負けだぜ、光哉みつや

 無視して楽しもうぜ、せっかくの旅行なんだしさ」


 いや失敬、こっちも雰囲気を楽しむどころではない学友がいたみたい。光哉は近くに居座る、生徒指導の教師にいつも通りに苛ついている模様。

 それを諭す直史なおふみも、平常心とは言えないテンションみたいである。確かに高校二年の最大イベント、初夏の修学旅行には、楽しみとワクワクを一番に持ってきたい所ではある。

 激しく直史に同意しつつ、俺も小声で学友に付け足す。


「強制排除する訳に行かないし、直史の言う通りだよな。グループ行動になったら、皆で一斉にダッシュして撒きに掛かろうぜ?

 しかしウチの連中、騒がしいったらないな!」

「おのぼりさん丸出しだよな、恥ずかしい……押野と仁科も、こっちばっか気にしてないで向こう注意すればいいのに」


 押野は体育教師、仁科は古典教師で生徒指導と言う、強面こわもてで生徒の嫌われ者である。人に紹介するにはこれで充分、大抵はどこの学校にもいるネチネチ性格の教師たちだ。

 こいつらに目を付けられたのは、別に俺達が校則破りの常習犯って訳だからじゃない。今年に入って暫く後に、俺たち3人とヤンキー軍団とで軽い小競り合いが発生して。

 それを偶然、このネチネチ教師に見られてしまったのだ。


 タバコ常習のヤンキー軍団の方が、明らかに目を付けられて然るべきな筈なのに。頭の配線がおかしいのか、何故か生徒指導ズは俺たち3人を目の敵にし始めて。

 ヤンキー軍団も、一応は停学寸前までの騒ぎに発展していたらしいのだが。そいつらと騒いでたとの認識の下、俺達も要注意人物へと昇格したらしく。

 こんな嫌な管理下に置かれる破目に、人生って切ないよね。


「ようっ、皆轟みなごう……グループ行動はどこ回る予定だよ? 何なら護衛役に、一緒に回ってやろうか、おい?」

「余計なお世話だよ、反町そりまち……向こう行ってろ、それとも押野と仁科に目を付けられたいのか……?」

「ははっ、ごもっとも……大変だよな、隠れた人気者はよ?」


 肉厚で長身の4人の生徒たちがいつの間にか近付いて来たかと思ったら、捨て台詞を残してあっという間に去って行ってしまった。脳筋軍団だ、野球部の反町と菊井、それからラグビー部の浜部と藤谷。

 捨て台詞を残して行ったのは、一番胸板の分厚い藤谷だった。4人とも同じクラスだが、俺とそれ程に親しいと言う訳では決してない。

 ってか、むしろお互い敬遠し合ってる仲なんだけどなぁ。


 切っ掛けは、恐らく俺が高校2年目で所属していた剣道部を自主退部した事だろうか。他人の事だし、更には他の部の事だし放っておけよって感じなんだけど。

 向こうはそうは思っていないらしく、俺を裏切り者だと批難しているそうだ。俺に直接言って来ないのは、ぎりぎり最低限の理性が働いたのだろう。

 どっちにしても、絡まれて来られても困るんだけどね。


 スポーツをやってる連中は、上下関係どころか妙な連帯感を醸し出して来るから苦手だ。その癖、後輩には可愛がりと称して平気で鉄拳制裁を加えているそうだし。

 いやこれは、飽くまで反町や藤谷の内部告発なんだけどね?


 俺も実際、そんな硬派気質の存在する部活に辟易へきえきして辞めた口だし。詳しくは言えないけど、足腰が立たなくなるほどぶん殴ってやりたい先輩は幾らでもいる。

 元々、俺の通う高校は何故か血の気の多い連中の度合いが濃い気がする。別に普通の公立校なんだけどね、偏差値的にも平均よりやや上の筈だし。

 まぁでも、確かにスポーツ系の部活動は活発ではあるけど。


 熱血より度の過ぎる反町や藤谷のお陰で、部活動が居辛い場所になってる気がするな。それはいいけど、間違ってもその熱意がこちらに向く事が無いように願う。

 おっと、挨拶が遅れたかな? さっきから周囲に話し掛けられている俺は、皆轟みなごう春樹はるきと言う名前の普通の高校二年生だ。

 現在修学旅行中で、他県に遠征中の身である。


 ちなみに俺が2年から厄介になっている部活動だが、何と文芸部である。元から本を読むのが好きだったし、部活に無所属も何だかなぁと思っていたので。

 自分的にはグッドチョイス、これによりややオタク寄りの友達も増えたのはアレとして。俺としては、充分に高校生活を楽しんでいるのだけれど。

 脳筋軍団の反町や藤谷は、それも気に入らないみたいだ。


 本当に、放って置いて欲しいんだけどな……断っておくけど、地元の道場で剣道はずっと続けている。ここの先生が面白い人で、個人的に大好きなのだ。

 剣術も当然ながら物凄いレベルの笹川先生は、御年七十越えの達人師範である。剣道と言うよりは人生の大先輩と言った感じで、足しげく通う生徒さんは実際多い。

 俺を含めて、皆に愛されている大先生である。


 より良い出会いって大事だよね、生徒指導の先生や脳筋軍団は論外だけど。ついでにヤンキー軍団は、事あるごとに揉めるので旅行中は顔を合わせたくない。

 ちなみに光哉と直史は、部活とは無関係の友達である。分類するなら高校1年からの腐れ縁と言う奴かな、高校2年の現状でも同じクラスな訳だ。

 それでもこの2人は、喧嘩もそこそこ強いし頼りにはなる。ヤンキー軍団や脳筋連中から、目を付けられている現状では特に。それを無視しても、まぁ気の合う連中には違いなく。

 班も一緒だし、旅行中は世話を焼いて貰おうと思ってる。


「おっ、電車来たみたいだな……」

「んっ、電車の音はしないけど……?」


 地下鉄の通っていない地域で生活しているため、光哉の呟きに俺は多少の違和感を覚え。地下鉄ってレールを走る音とかしないのかと、思考は変な方向へ。

 実際、地下道をやって来たそれは、光の奔流そのものだった。異質なその存在は、現世のあらゆるしがらみを呑み込むようにホームへと雪崩れ込んで来た。

 ――それが向こうの世界での、最後の記憶だった。







 気が付けば、広大な真っ白な部屋にいた。何だか記憶もあやふやだ、人の気配は随所でしているけど。それが見覚えのある高校の制服だったので、俺は奇妙な居心地の悪さを覚えた。

 何しろ同じ高校の仲間の前で、随分と気を失っていたらしいので。しかし連中は、そんな自分に全く気を配る素振りもなく、静かに列に並んでいる。

 どうやら受付けに並んで、何かの順番を待っているようだ。


 見知らぬ白い部屋には、市役所のような受付け窓口が4つほど並んであった。現状把握の追い付かない事態だな、まるでホームにいた人々全部が召喚されたみたい。

 夢とかそんなオチでなければ、一番ありそうなのはやっぱりそれ? まさか拉致とか、そんな意味無く大掛かりな事は誰もしないと思うけど。

 パッと見た限り、この大きな部屋に出口は無い様子。


 素材すら分からないし、照明が見当たらないのに明るさに不自由は無いと言う。まるで夢の中の出来事のよう、受付けの窓口も丁寧に白一色だし。

 天国ってパターンもありそうだ、ようやく身を起こしてじっくりと周囲を窺いつつ。他に目立つのは、部屋の中央にそびえる柱と、その上の大きなタイマーくらい。

 デジタル式で、残り三十分程度とカウントダウンされている。


 どうやら時間制限があるみたい……何の事やらと近付くと、丁寧にも案内書きが添えられていた。要約すると、皆さん落ち着いて時間内に窓口に並ぶようにとの指示書らしい。

 時間を過ぎると、この空間は閉じてしまうそうだ。受付けでも簡単な説明を受けせれるけど、今回の転移は過去にない大人数……時間を省略するために、皆さんのスマホに専用アプリをインストール済みですとの書き込みに。

 随分と身勝手だなぁと、俺は内心で憤慨しつつ。


 これは異世界小説とかでよく見かける、集団転移とかって事態だろうか。人権侵害も甚だしい、だって死んだ後の命ならともかく、俺たちあの時点でピンピン生きてたし?

 ……それともものすごい震災が起きて、全員死んでしまったのだろうか? 覚えてないのは、余程のショックを受けた為って考えれば、一応辻褄つじつまは合うけれど。

 それでも、他人の人生を好き放題に横槍はやり過ぎ!


 文句を言おうにも、相手側の責任者の姿は一向に見当たらない。くだんの窓口には、確かに見知らぬ衣装の女性が受付け業務を頑張ってこなしているけど。

 割り込んで説明を求めても、恐らくらちがあかないだろう。ってか、並ぶにしても思いっきり出遅れた感は否めない。どの列も十数人の制服姿、または背広姿の人々が並んでいる。

 あの地下鉄ホーム、修学旅行のウチの高校生徒が多数と、一般利用者が少々の割合だった筈。


 おっと、タイマーの下に別の数字が表示されているな。第十三期メンバー56/178とあるので、今回連れてこられた総人数なのだろう。

 56は、受け付けに並ぶ残りの人数か。


 目算したところ、大体そんな感じの人数だ……つまり、既に百人以上が受け付けを通過して別の場所へと移動し終わっているって事になるな。

 恐らくは、碌な場所ではないだろう。異世界小説の粗筋を考慮して先読みするなら、ズバリ『戦闘アリアリ格差マシマシの異世界』って事になるのだろうけど。

 とっても嫌だな、楽観出来ない未来に暗澹あんたんたる思い。


 案内書を読み進めて分かったのだが、窓口で“スキル”なるモノが各自の好みで貰えるらしい。数に限りがあるのでお早めに……って、俺ってほぼ最後じゃんっ!!

 今から並んでも、恐らく碌な奴は残っていないに違いない。


 完全に出遅れた俺が取れる策は何だ、焦っても良い事は無いしとにかく考えろ! ってか、どうして俺だけ、こんなに意識を取り戻すのが遅かったんだろう?

 推測が無駄のは分かっているが、何か糸口が欲しいのは確か。タイマーに目をやれば、時間は残り二十分程度。しかも残り人数も三十名を割っていた。

 俺を残して、スキルの受け渡しはスムーズに進んでいるっぽい。


疑問なのだが、何で無理やり連れて来られた連中は、今の境遇をすんなりと受け入れているんだ? おかしいと言えばその通り、少なくともウチの高校の連中は、騒ぎ立てたり暴れ出す輩が十名単位で存在しててもおかしくは無い。

 それとも、既に騒動は起きていて、俺が寝過ごして見ていないだけなのだろうか。その時の向こう側の対応も気になるが、どこを見渡しても警備員っぽい風貌の役員はいない。

 不信感だけが募る中、列に並ぶ人数はどんどんと減って行く。


 スキルを選び終えた連中は、窓口の左右に設置されたカーテン付きの通路の奥へと従順に進んで消えて行く。何の不満もなさそうに、逆にそれが胡乱うろんで仕方がない。

 試しに列の最後の、顔も覚えてない同級生に話し掛けてみる。返事はあったが、何とも夢遊病患者のような所作で頼り無い限り。目の焦点も合ってない感じで、ちょっと怖い。

 意識はあるけど、感情は希薄って感じだな。


「おいっ、お前は何で並んでんだ……?」

「スキル、を貰うんでしょ……並ばなくっちゃ、ちゃんと“探索者”しないと……」


 探索者って何だ、いや、さっきの掲示板の下の案内書きにあったような……取り敢えずこの生徒は、目的は分かって並んでいるつもりらしい。問題なのは、その目的が他者に無理やり与えられたモノっぽい事。

 どうも、拉致から兵士誕生まで1セットらしいね。


 育成は完全に放棄なのかな、それともあのカーテンの奥で次なる何らかのステージが? 取り敢えず、相手側の真意は不明だが信頼出来ないやからなのは確実だろう。

 スキルを選ぶと案内書に書かれていたが、どうやら本当に早い者勝ちらしかった。今気づいたけど、4つの窓口の上に巨大な掲示板が設えてあったのだ。

 そこにスキルの名前と、何らかのポイントが書かれていて。


 ちなみに通路の奥を隠すカーテンも、掲示板も全て白で見分けが付き難い事この上ない。或いはそれが目的かも、集団に暗示か何かを掛ける為の。

 穿うがった見方だが、列に並ぶ人々が全く言葉を発しないのが不気味で仕方がない。日本人は礼儀正しく列の順番をきちんと守るとか、世間一般では言われているらしいけど。

 何事にも限度はあるし、今は非常事態と言っても過言は無い状況。


 俺だけこんな、意識がはっきりしているのも、何だか村八分みたいで気持ちが悪いな。どうせなら、いっそのこと全てが終わるまで、正常な思考は棚上げにしておいて欲しかった。

 手術中に、麻酔が切れて痛い思いをするようなモノだ。しかし参ったな、本当にどうすればいい? 素直に列に並ぶのもしゃくだし、掲示板のスキルでも見ていようか。

 選ばれ済みの、今は既に灰色表示の奴ばっかりだけど。


 ちょっと観察してみたが、それで幾つか推測が出来た。案内書の説明と照らし合わせたところ、どうやら一人頭20Pまで選択が可能らしい。

 実際にセット出来る範囲は、その人の力量に掛かって来るようだけど。つまり15Pの強力なスキルを交換で得ても、使えずに持て余す可能性もあるって訳だ。

 説明によると、個々の力量平均は10P前後らしい。


 それを踏まえて1~15Pの各種スキルの中から、自分の好みのスキルを20P分選ぶって寸法だ。安いスキルは使い勝手は良いが、威力に欠ける。15Pの高いスキルは、物凄い性能だけど扱い辛い。

 そんな感じで、選択は結構悩ましいみたいだ。


 半ば操られ状態の連中は、そこまで深く考えているかははなはだ疑問だけど。4つ並んでいた受け付けの列は、いつの間にやら終焉へと向かっていた。

 さてさて、考えるんだ俺! 素直に人形状態の連中に続くのは、恐らくは愚策に違いない。せめてこの壮大な人攫ひとさらい集団の、上役の顔くらいは拝んでおきたい所。

 そして出来れば、文句と拳骨の一つも喰らわせたい。


 それで立場が良くなるとは思えないけど、黒幕の存在や力量を知るのは有効な反撃の手立てだと思う。そんな訳で短い時間で作戦会議、裏に潜む奴らをいぶり出してやる。

 俺はようやく立ち上がり、勢い良く窓口に突進した。


「おいっ、もうほとんど高ポイントの強力スキル残ってないじゃないかっ!? 不公平だ、話が違うぞっ! これじゃあ“探索”とやらの手助けにもなりゃしない!」

「あら、先ほどまで気を失っていた方ですね……そのぅ、低いポイントのスキルも使い方次第ですよ? 安いスキルも、成長次第では強力なものへと変化する可能性もありますし。

 むしろ序盤では、安いスキルを数多く揃えられた方が有利ですし?」


 そうなのか、ちょっと良い事を聞いてしまった。いやそれで納得してしまったら、こちらの思惑が立ち行かなくなる。俺はクレーマーだ、嫌という程ゴネてやる!

 とにかくそちらの不手際だと、聞く耳持たずに早口でまくし立ててみる。安いスキルしか残っていないのなら、20Pと言わず倍は欲しいと。

 それが誠意ってモノでしょ、違うかね?


「そっ、それは……私の判断では出来兼ねますし、残り時間ももう少ない事ですし? 一度落ち着いて、20Pで良いセット内容を一緒に考えると言う事で……」

「残り時間が少ないのに、じっくり考えてる暇も無いってもんでしょ? それじゃあ妥協案だ、文句は言わないから残ったスキルを全部詰め合わせてくれ!」

「それこそ無茶ですよ……!!」


 騒ぎを聞きつけたのか、既に終了した他の窓口の係員も、こちらにちらほらと視線を送っている。これだけ騒いでいるのだから、まぁ当然とも言えるけど。

 俺は譲るつもりは無いですよと、真っ当なクレーマーを真に演じてみたり。半泣きの若い窓口の姉ちゃんは気の毒だが、さっさと上役に相談でもしてくれ。

 その俺の願いが叶ったのは、タイマーが残り3分を告げた頃だった。





 ――2人の護衛を従えた、スーツ姿の男がいつの間にか俺の側にたたずんでいた。








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