キミへおくるアジはコイ

DITinoue(上楽竜文)

第1話 高級の中の下級

 君たちは上野と言われれば何を思い浮かべるだろう。西郷隆盛像、動物園、

博物館、美術館、アメ横。駅だという人もいるかも知れない。その駅の周りには

たくさんの人間が日々集まる。だが、上野の町の中でも街角というのは中心部

ほどは人が集まらないと「俺は」自覚している。街角の魅力といえば当然ココだ。


拉面炒饭团子食べまくりの館ラーメンチャーハンギョーザたべまくりのやかた」である。俺が勤めている中華料理店だ。その名の

通りラーメンもチャーハンもギョーザも食べまくれる。もちろんそれだけではなく、

シューマイ、肉まん、焼きそば等々中華料理を食べつくせる店だ。ここは中国人と

韓国人、そして日本人の店員でできているのだ。中国、韓国にも店はある。

3国の人間が集まって中華料理店を営んでいるという事実と、絶品すぎる料理が

有名だ。芸能人や著名人もたくさんやってくる。


 そんな店に勤める1人の料理人が僕だ。名は林司、性は森。この店は芸能事務所

のオーディションのような面接を受ける。それはとても厳しいもので、90%“合格”

できない。そんな中、僕は奇跡的に10%の中に入ってしまったのだ。

店に入ると店員は日本語で歓迎してくれた。その中でたくさんのメニューを作るわけ

だが、その時にやられた。

みんなのレベルが高すぎる――

そこはやはりレベルの高い店だった。みんなの料理は僕の料理よりも美味かった。

「下級生」と意地悪なやつにはからかわれた。その時初めて自分の才を思い知ったのだ。


先輩たちはいい品を作るのでそれに負けないようにと励むと、だんだん上達して

いった。下級生のことには変わりないのだが、最近は「高級の中の下級」という

言葉が回った。日本全国では上級生なんだから、胸張っていけよと。しかし、

ある女性との出会いを皮切りに「ただの下級」の気持ちに堕落した。


 冬も終わり、春がやってこようとする3月。そのいつの日かにとある客がやって

きた。

「いらっしゃいませー!!」

ドアのベルがカランコロンと鳴ると、店員全員が挨拶をする。

「ふーん、活気がある店ね」

「あちらのお席にお座りください」

その時、彼女の正体は僕は分からなかった。

「あ!あなたは、稲吉香蓮いなよしかれんさんではありませんか?!」

店長はすかさずこの1言を発した。

「すぐ分かってくれて嬉しい。そう、私は稲吉香蓮だよ」

「おお!!!!」

店員の多くが拍手した。良くわからないが、僕も拍手した。


「店長、あの人だれなんですか?」

店長は日本人だ。田橋征仁たばしまさひとという。

「あの人は、美食家だよ」

「そうなんですか」

僕の反応があまりに薄かったのか、店長はスマホを見せた。

「Twitter・・・・・?って、フォロワーの数すごいじゃないっすか!」

Twitterに関してはよく知っているのだ。フォロワーは僕にもたくさんいるが。

でも、美食家がここまでとは・・・・・数は209万。ありえない数字だ。

「これも見ろ。Twitterだけじゃない」

店長のスマホを操作しているとこんなことが分かった。

YouTubeでも、Facebookでも、Instagramでもフォロワーの数は万に達している。

(こんなこと僕知らなかったのかよ・・・・・)

グルメに関する人はたくさん知っていると自負していたがまだまだだった。


ジュージュージューカッカッカ

フライパンと包丁の音が鳴っている。機械的な音だ。これは呼び出しベルなのだ。

「行ってきます」

서아ソアという韓国人女性のウェイトレスが出て行った。

1分ほどすると・・・・・・

「はい、注文来たよ!」

この後、予想もしない仕事が飛び込んでくることは考えていなかった。

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