第13話 マウントを取りたがる理由

 それから少し遊んで、王都が茜色の夕日に染まるころに解散となる。


 天幕を荷車で教会に運んだ後、聖堂の門の前にシスターと子供たちが集まって見送りをしてくれた。


「今日は炊き出しの手伝い、子供たちの相手とありがとうございました。あなた方に、神の祝福があらんことを」


 シスターの代表らしき人が十字を切って祈りを捧げる。


「ばいばーい!」


 子供たちも手をぶんぶんと振って挨拶してくれている。


「おっぱい大きいお姉ちゃん、ばいばーい!」



 クリスティーナも顔色一つ変えずに手を振り返した。


 カーラが歩み出て、僕とクリスティーナに深く頭を下げた。


「ご無礼を、お許しください。それとアンジェリカ様の婚約者を…… 見誤らないよう、お願いします」


 帰り道。さっきのカーラとの会話を、かいつまんで彼女に聞かせた。


 カーラの父親は浮気を繰り返しているという。そのせいで自分の母親が泣いている姿を子供のころから見ていた。


 そのせいで家がぎすぎすして、家から逃げるように教会に通って、シスターたちの手伝いをするようになって。もう教会が第二の家、という感じらしい。


 マギカ・パブリックスクールでは保健室登校をする子もいるけれど、カーラにとっては教会がそれに近い感じか。



 最近は父親の浮気癖も収まってきたらしいが、いまだに食事は家族で別々に取っているという。だから浮気や妾と聞くと嫌な感情が沸き上がって、そのせいでクリステ

ィーナに辛く当たっていたらしい。


 だがクリスティーナは死んだ魚のような目で淡々と答える。


「大体、そんな感じかと」


「知ってたの?」


 彼女は首を横に振った。その勢いで、水色の髪がふわりと舞い、また落ちる。


「平民の中には、貴族の浮気相手もいる。家の近くで馬車から降りた貴婦人が近くの女性を問い詰めるのを見たことがあって。その時と雰囲気が似ていたから」


「カーラを手伝ったのも、そのせい?」


「うん。アンジェリカが言っていたことを確かめたかった」


「美味しいものを食べさせてくれる人に、悪い人はいない。そのアンジェリカが悪い子じゃないと言っていたから」


 白い石畳の道に、僕とアンジェリカの影が二つ、東へと向かって長く長く伸びた。

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