22 進行していく計画(ルーツ視点)

 霊峰ギガントに乗り込むメンバーは、俺の他に、ブルーニー、サナ王女、ジャック、リリィ、バスティアン、さらに他の班から実力のある魔道士の男女が二人、の計8名となった。


 飛空艇の甲板で、サナ王女が右手を前に突き出す。


「いでよ、コカトリス!」

 巨大な翼を持つ召喚獣が出現した。サナ王女が帝国での訓練で味方につけたとのことだった。


 8人でその背中に乗る。


「では、頼むぞ。引き続きオーデルグ一味への警戒を」

「ああ、分かった」

 バスティアンが居残り組に伝えると、コカトリスは霊峰ギガントに向かって飛び始めた。


 かつてサナ王女と共に飛んだガルーダとは違い、コカトリスは霊峰ギガントの雷雨も闇の魔力も物ともしなかった。コカトリスは山の中腹に着陸した。


 魔法に心得のあるメンバーは自らの魔力で、霊峰ギガントの闇の魔力をガードする。ブルーニーとジャックは完全な戦士職だったため、退魔の装備を身に着けている。


「あまり長居するわけにはいかない。急いで破壊神の配下を探知した場所に向かおう」

 バスティアンがそう言うと、コカトリスと共にぞろぞろと歩き始めた。闇の魔力は魔物さえも住まわせないので、襲いかかってくるものはいない。


 しばらく歩くと、バスティアンが足を止め、俺たちに合図して来た。バスティアンの前方を見ると、そこには黒いオーラを放つ鎧を装備した巨人がいた。右手には杖がある。


「あいつだな」

「ええ、間違いない」

 ジャックとサナ王女が言った。ならば先手必勝だ。サナ王女が合図をすると、コカトリスが巨人に襲いかかった。


 巨人は攻撃を察知したのか、杖を取って前にかざした。土魔法が放たれ、コカトリスが空を飛んでそれを避ける。


「召喚獣? なるほど、創造神サカズエの使徒か。私を探し出したのか」

「ここまでよ。破壊神トコヨニと合流はさせない!」

「我が名はドンドルス! トコヨニ様の手を煩わせることもない、この場で貴様らを葬ってくれる!」

 ドンドルスと名乗った巨人は立ち上がり、周囲の闇の魔力を吸収し始めた。


「ち! だからこの場所にいるってことかよ!」

「来るわ!」

 ブルーニーとリリィが叫ぶ。ドンドルスは杖を振り抜いて闇魔法を放って来た。周囲から無尽蔵に魔力が供給されるだけあって、その威力は並外れている。


 俺は創造神から受け取った剣に魔力を流して強化し、ドンドルスの闇魔法を受け流した。バスティアンも同じようにしている。その間にジャックとブルーニーがドンドルスとの距離を詰め、攻撃した。


 魔道士の4人は、創造神から貰った魔導書で覚えた光魔法を放つ。


「グォォォオオオ!?」

 光弾で撃たれたドンドルスが悲鳴を上げる。闇の化身だけあって、光魔法の効果は抜群のようだった。


「なめるなぁ!」

 ドンドルスが右手に魔力を集中させ、放った。いくつかの電撃がほとばしる。俺はすぐに反応し、狙われていた後衛のカバーに入った。土魔法を剣にまとわせ、叩き落とす。


「ぐわ!」

「きゃあ!」

 しかし捌き切れず、ついて来てくれた魔道士の男女がやられた。


「やろぉ!」

 ブルーニーが怒り、ドンドルスとの距離を詰めて攻勢に出た。ドンドルスは魔力をまとった杖を振り回し、ブルーニーを潰そうとしている。


「ブルーニー、無茶するな!」

 バスティアンが叫んだ。確かにブルーニーは頭に血が登っているように見える。


「サナ王女! もう一発!」

 リリィが叫んだ。二人はもう一度光魔法を撃つ準備を始めた。


「またあれか! させぬわ!」

 ドンドルスはサナ王女とリリィに魔法を撃とうとしたが、俺とジャックの近接攻撃で妨害する。


「邪魔だ!」

 ドンドルスは魔法を撃つ相手を俺たちに切り替え、放って来た。俺とバスティアンの魔法剣がそれを弾き飛ばす。


「皆、どいて!!」

 サナ王女の声が響く。サナ王女とリリィから光魔法が放たれ、ドンドルスに直撃した。


「ぐわぁぁぁああ!!」

 ドンドルスが大きくよろめいた。


「やったか!」

 バスティアンが言った。しかし、まだ決定打ではない。追撃が必要だ。しかし、それは思わぬ方向からやって来た。


「詰めが甘いわね、サカズエの使徒の皆さん」

 どこからともなく声が聞こえた。そして、青い服を来た女が戦闘に割り込んで来た。そのまま、ドンドルスを両手に持った短剣で斬りつける。


「ぐふっ!?」

 ドンドルスが悲鳴を上げ、仰向けに倒れた。そのまま動かなくなる。


「え……?」

「倒した……の?」

「何者だ!?」

 皆が口々に言う。そのはずだ。いくら光魔法で弱っていたとはいえ、あのドンドルスを一撃で倒してしまったのだから。


「魔道士オーデルグの同志、ヒルデ」

「オーデルグの同志!?」

「どこから現れた!?」

 バスティアンとジャックが叫んだ。飛空艇での警戒は全くの無意味だったのだ。


「私ごときの気配を察知できなかったのなら、まだまだ甘いわね。うかうかしていて良いのかしら?」

 ヒルデは、懐から紫の水晶を取り出した。


「それは、オーデルグが使っていた!?」

「ドンドルスを吸収する気ね! そうはさせない!」

「遅い!」

 ヒルデは短剣を持ったままの左手を前に突き出すと、俺たち全員に魔力を飛ばしてきた。俺はそれをスレスレで避けた。しかし、周囲からは悲鳴が響いた。


 見ると、サナ王女、ジャック、リリィ、ブルーニーの身体に魔力がまとわりついている。


「こ、これは……!」

「う、動けない……!」

 魔力を直接使っての拘束術だった。今フリーに動けるのは、俺と、同じく回避に成功したバスティアンしかいない。


「バスティアン! ルーツ! 彼女をめて!」

 サナ王女が叫んだ。


「行くぞ、ルーツ!」

 答えるようにバスティアンが怒鳴った。俺もバスティアンと共にヒルデに斬りかかる。


「あら、避けちゃったのね」

 バスティアンと俺の魔法剣による攻撃を、ヒルデは両手の短剣で難なく捌く。ヒルデも魔法剣を使っている。


「く! こやつも手強い!」

「私程度で苦戦していたら、オーデルグには一生勝てないわよ」

 ヒルデはバスティアンに蹴りを放った。


「うあ!」

 バスティアンが吹っ飛んでいった。女の物理攻撃とは思えない威力だ。


「はい、終わり」

 ヒルデは俺の攻撃を横ステップでかわし、バスティアンに魔力を投げつけて拘束してしまった。


「ルーツ!!」

 サナ王女が俺の名前を叫んだ。どうせ魔法を使うことを期待しているのだろう。しかし、俺はそんな気はサラサラ無く、魔法剣だけでヒルデと戦うつもりだった。


 俺の剣戟をヒルデが受け止める。


「おお、使?」

「……」

 ヒルデは意味深な笑みを浮かべる。何か言いたそうだったが、俺は無視して強打を放った。


「はぁっ!!」

「おっと」

 ヒルデは俺の強打を大ジャンプで避け、ドンドルスが倒れている場所に着地した。


「時間ね。お疲れ様」

 ヒルデがドンドルスの上に置いてあった紫の水晶を拾い上げた。すると、ドンドルスがあっという間に吸収されてしまった。


「なっ!?」

「まさか!?」

 ブルーニーとリリィが叫んだ。


「私の仕事は終わり。じゃあね、サナ王女」

「ルーツ、めて! ルーツ!!」

 サナ王女が必死に怒鳴る。


 俺は剣に魔法をありったけ伝わらせ、ヒルデを斬りつけた。ヒルデは右手の短剣でそれを受け止め、蹴りを放って来た。それは魔法剣のように魔法をまとった蹴りだ。俺の腹部に直撃し、身体が後方に吹っ飛ばされる。


 ヒルデは岸壁まで走っていき、飛び去って行った。俺たちはオーデルグの同志を取り逃がし、戦いは終了となった。


 ヒルデが去ったことで、皆を拘束していた魔力が消え、次々と自由になる。サナ王女がズカズカと俺の元にやって来た。


「ルーツ!! 一体どういうつもりよ!? 魔法を使わずに逃しちゃって!!」

 サナ王女は凄い剣幕で俺の胸ぐらをつかむ。


「バスティアンの方が魔法剣は上だとか私が言ったから!? 嫉妬でもしてるっていうの!? ふざけないでよ!! 今はそんな場合じゃないでしょ!!」

「……君には、分からないさ」

「!? このぉ……!」

 俺に殴りかかって来そうなサナ王女だったが、リリィが羽交い締めの形で俺から引き離す。


「お、おいルーツ……」

「ジャック、お前も俺を糾弾するか? この件で?」

「い、いや……」

 そうだろう。そう言っておけば何も言えないさ。ジャック、お前は優しいから。


 サナ王女はなおも何か叫んでいたが、俺はサナ王女とバスティアンを無視する態度を取り、他の皆と撤収準備を始めた。


 サナ王女が口走ったことで、俺が魔道士であることがこの場にいたメンバーの知るところとなってしまったが、もう口止めしなくても大丈夫な頃合いだ。そろそろ、は次の段階に移るのだから。

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