19 敗走(サナ王女視点)

 私は救護テントで治療を受けていた。バスティアン、ジャック、リリィも一緒だ。幸い、大怪我に至った者はいなかった。


 もうダンジョンに用はなかったので、外ではキャンプ地の撤収が進んでいる。ルーツは槍の魔物相手でも全くの無傷だったので、率先して片付けをしてくれていた。


「はぁ……」

 私はため息をついた。あのオーデルグという魔道士との戦いにルーツがいたら少しは違っていたかと思ってしまう。そういえば、魔道士としてさらに成長したであろうルーツの実力を私は把握できていない。少し、話をしないといけないと思う。


 私たちの治療が終わると、全員で飛空艇に引き上げた。まずは、創造神サカズエに報告と、今後の相談をする必要がある。飛空艇の次の目的地はメルトベイク帝国だ。


 上空で船が安定状態になると、チーム全員が大会議室に集まった。ルーツが反帝国同盟に連絡を取ってくれて、得られた情報を皆に提供している。


「ブラストという男は確かに反帝国同盟にいた。俺も会ったことはある。出身地不明、これまでの経歴も不明ということで怪しい奴扱いされていたな。小さな派閥を作っていて、情報によると派閥の全員が消えたそうだ」

「消えた?」

「じゃあ、そいつらが」

「ああ、破壊神トコヨニの協力者ということなんだろうね」

「オーデルグという魔道士は?」

「反帝国同盟の者ではない。俺も、全く検討がつかない」

 全員に沈黙が流れる。


 私が召喚魔法を封じられていたとはいえ、それも含めての敗北だ。バスティアン、ジャック、リリィを擁するメンバーで完敗したことが、皆に不安をもたらしているのではないか。


 やっぱりルーツが優秀な魔道士であることを明かした方が良いのではないだろうか。そうすればきっと士気が上がる。対オーデルグの切り札となりうる。私はずっとルーツに目配せをしようとしていたが、ダンジョンから戻って以来、ルーツは私と目を合わせてくれなかった。


「情報ありがとうルーツ。この会議は終わりにしよう。まずは創造神サカズエに報告だ。皆、それまで身体を休めてくれ」

 私が何も言えずにいると、バスティアンが仕切ってくれた。ルーツは何も言わずに部屋を出ていってしまった。


 話をしないといけない。私はルーツを追いかけた。


「ルーツ!」

 私が呼びかけると、ルーツは足を止めた。しかし、振り向くことはなかった。


「何か用?」

「あのオーデルグという魔道士。戦えるとしたら、きっとルーツしかいないと思うの」

「あの、ごめん。今そういう話はやめてくれないかな?」

「え……?」

「さっきのことがあって、すぐ君とアレコレ話さないといけないのか? 今度にしてくれ」

 ルーツはそのまま歩き去ってしまった。


「……何よ」

 確かにさっき私はあなたを振った。でも、破壊神トコヨニの問題は世界の問題だ。個人の気持ちを優先していたら世界を救う使命なんて果たせない!


 私はルーツの態度にイラつきながら部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ。


「痛たた……」

 服を上げてオーデルグの触手に強打された腹部を見る。少し赤くなっていたが、大した怪我ではない。闇魔法で攻撃されたバスティアンとジャックの方が治療は大変そうだった。


「バスティアン……」

 この3年、どんなに傷ついても私を支えてくれた。今は、ちょっと慰めてほしい気分だ。


「サナ、いるかい?」

 ドアがノックされる。こうやってタイミングよく来てくれるのもバスティアンのいいところだ! 私はドアを開けるなり、バスティアンに抱きついた。


「サ、サナ……?」

「いらっしゃい!」

 愚痴を聞いてほしい! ルーツに嫌な態度を取られたことを慰めてほしい! 怪我が大丈夫ならこのままベッドに行ってもいい! そうして、私はバスティアンとの一時を過ごした。



    ◇



 帝国に到着すると、私とバスティアンは創造神サカズエの元に向かった。依然、場所は秘密のままだったが、特殊な方法で案内されるのも慣れたものだった。


 宮殿に到着し、サカズエの元に向かうと、そこには皇帝の姿もあった。報告は事前に上がっていたし、皇帝も事の大きさを感じ取ったのだろう。


「反帝国同盟に潜んでいたか、破壊神トコヨニの協力者は。事前に同盟を潰しておいた方が良かったか」

「いや、そう簡単には行かなかったでしょう。私たちが封鎖していたダンジョンにも入り込まれていましたし、恐らく逃げ道は用意されていたはずです」

 皇帝とバスティアンが話している。


「謎の魔道士オーデルグか。一体何者なのか。世界が滅びてしまえばそやつも共に滅びることになるのに」

「オーデルグも、動機は話してくれませんでした」

「ふむ。人間が敵に加わるというのは、過去のトコヨニとの大戦ではなかったことだ。これまでのノウハウが、直接は役に立たないかもしれない」

 サカズエは空中を見据えて言った。


「サナ王女たちは、引き続き破壊神トコヨニ自身と配下を探すが良い。その協力者たちは帝国軍の精鋭部隊にも探らせる。相手が人間であれば、サカズエとトコヨニのことを秘密にしたまま任務に当たらせることもできよう」

「ですが皇帝陛下。彼らも破壊神の配下を狙っています。私たちの行く先で遭遇するかもしれません」

「それもそうだな。サカズエ様、何か彼らに力を与えることはできませぬか?」

「過去の大戦で使われた伝説の武器と魔導書を与えよう。本当は人の世に残してはならない強力なものだ。此度の大戦の間だけ使用することを許す」

 サカズエは右手を掲げると、地面にいくつかの武器と本が出現した。剣や槍、斧といった武器だが、確かに強力な魔力を感じる。


 数に限りがあるので、チーム内の上位メンバーに渡して使いこなしてもらうしかないだろう。魔導書は、魔道士たち全員で訓練に使えそうだ。


「ありがとうございます」

「サナ王女、忘れるな。そなたは破壊神トコヨニに敗北してはならない。心してかかれ」

「はい……」

 サカズエはいつものように言ったが、強調しなくても良いではないかと思う。無駄にプレッシャーがかかるだけだ。私にばかり言わないでほしい。



    ◇



 私はバスティアンと共に飛空艇に戻った。チームに事情を説明し、バスティアン、ルーツ、ジャック、ブルーニーに武器が渡され、また他数名の前衛にも渡された。後衛の魔道士たちは、これから魔導書を使ってのレベルアップを図る、ということになる。


 そして、次の破壊神の配下を探すため、飛空艇は飛び立った。

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