13 破壊神討伐チーム(サナ王女視点)

「ではサナ王女、破壊神討伐チームは正式に発足です。細かい調整は我々がバスティアン殿と行います」

「はい、ありがとうございます」

 私は帝国の役人から、チーム発足の通達を受けていた。大悪魔ジャークゼンの討伐を行った帝国士官アカデミーのクラス全員がメンバーとなる。


 私は役人が帰っていくのを見送ると、バスティアンの部屋に向かった。


「バスティアン」

「サナ王女」

「もう、ここには私とあなたの二人だけよ」

「ん、ああ、そうだな、サナ」

 二人だけの時にサナと呼ぶ。バスティアンとはそういう決まりにしていた。私たちの関係は、まだチーム内の誰も知らないのだから。


 私はベッドに腰掛けているバスティアンの隣に座る。


「難しい顔をして、どうしたの?」

「ルーツに言われたよ。メンバーの選定方法が、帝国らしいやり方だって……」

「そう。手厳しいわね」

 確かに帝国らしいやり方だと私も思う。だけどバスティアンを責めるのは間違っている。彼の心は繊細なのだから、無意味に傷つけないでほしい。


 そう思いながら、私は身体を横に向け、胸をバスティアンの腕に押し付けた。バスティアンが反応してビクっとする。そして、私の方に顔を向ける。


「あなたは皇帝や他の帝国人とは違う。凄く優しい人。ルーツだけじゃない、皆すぐに分かってくれるわ」

「サナ……」

 バスティアンは私の唇を奪い、そのままベッドに押し倒して来た。彼の鍛え抜かれた肉体を肌で感じる。


「ん……」

 バスティアンに身体をむさぼられ、私は声を上げる。チーム発足の準備のため、最近は取れなかった二人だけの時間だ。誰にも邪魔はさせない。そんなことを思いながら、私たちはお互いの身体を求め合った。


 営みを終え、二人でしばらく同衾しながら会話をする。しかし、バスティアンがいつになく強く私の身体を抱きしめているのに気がついた。


「バスティアン、どうしたの?」

「不安なんだ……」

「不安?」

「ああ。君はやっぱりまだあのルーツのことを好きなんじゃないかと。私の元から去ってしまうのではないかと」

「バスティアン」

 私は少し身体を起こし、バスティアンの目を見た。


「ルーツとのことは昔のことよ。私の気持ちは変わらない」

「サナ……」

「私たち、3年も一緒にいたのよ。既にたくさんの思い出を持っている。あなたがルーツを怖がる必要はないわ」

 そして、その3年の間、召喚魔法の訓練が始まってからは、共に死と隣合わせの戦いに挑んだといっても過言ではない。ヒュドラを味方につけた後も召喚獣との戦いは続いた。結局これまでに味方にできた召喚獣は3体。全て激闘だった。その間、バスティアンはいつも私を支えてくれたのだ。


「バスティアン、愛してる」

「サナ……。ありがとう、私も君を愛している」

 口づけを交わすと、再びお互いをむさぼる。快楽に身を委ねる。熱のこもった時間が過ぎていった。


 お互い、やらなければならない仕事もあるので、2回目で逢瀬おうせを切り上げ、私はバスティアンの部屋を後にした。


 身体ので歩くのが少し辛い。もう少し自重した方が良かったかと私は反省した。各班を回り、帝国の役人から受け取ったバッジを配る。それは、帝国の中で大きな特権を行使できるものだ。破壊神討伐チームである以上、メンバー全員にそれくらいの権利を持たせる必要があるという、皇帝の判断だった。


 反帝国同盟の活動に利用されてしまう可能性もあるだろうに、そこまでの決断を下せるところが、帝国をここまでの強国にした皇帝の恐ろしさだ。


 ミストロア王国班にもバッジを渡すため、私はルーツの部屋へ向かったが、廊下でバッタリと出くわした。


「あ、ルーツ。ちょうどあなたの部屋に行こうとしていたところよ」

「サナ、どうした?」

「これ」

 ルーツにバッジを渡す。事前に説明してあるので、ルーツはすぐにそれを受け取った。


「ねえルーツ。魔法を解禁するのはやっぱり難しいかな?」

「俺には反帝国同盟としての立場もあるからね。剣士として通しているから、魔法剣までが限界だよ」

「そっか」

「ここだけの話、あの組織は全く一枚岩じゃないんだよ。俺が魔法を使い出したら、多分それを理由に怪しい奴だなんだと言われて、立場を引きずり下ろされる」

「そ、そうなんだ……。でも、そんなこと、ここで言っていいの?」

「サナは、誰かに言ったりしないと思って」

「うーん、ま、そっか」

 そのままルーツと笑い合う。こういう風に会話ができるのは昔のままだと思う。もちろん、今の私はあの時とは違う。しかし、その気持ちとは無関係に、私はルーツに接近した。


「でも、ここぞという時は助けてね。きっと、恐ろしい戦いが待っているから」

「あ、ああ……」

 ルーツは少し動揺したかもしれない。バスティアン以外の男に触られたくなどないから、身体は寄せすぎないように注意した。これくらいのことでルーツがやる気を出してくれるのかは分からないが。


「じゃあ、また」

 私はそう言うと、ルーツが何かを言う前に踵を返し、ジャックとリリィにバッジを届けに向かった。



    ◇



 翌日、私たちはジャークゼンと戦った街を後にした。私のいた宮殿には戻らず、飛空艇で帝国士官アカデミーに直接戻る。チーム全員が季節外れの卒業ということになった。


 ブルーニーは、学年1位の魔道士と決着を付けるため、その日に模擬戦を行ったが、結局勝てなかった。まだ少ししか見ていないが、ブルーニーも優れた剣士だと思う。そのブルーニーに勝つというのはかなり優秀だ。それでも、魔道士としての強さは確実にルーツが上だろうと思う。


 一日の休日の後、私たちはある飛空艇の前に集まった。破壊神討伐チーム用に準備された飛空艇、つまり私たちの船だ。


「本当に船が与えられるのかよ……」

「す、凄い……」

「ここまで特別扱いだなんて……」

 メンバーたちが次々と驚きを口にする。私も、与えられた船を直接見ると驚きの気持ちを隠せない。


 私たちは荷物を持って乗船し、各員に割り当てられた部屋に移動した。同じ班同士、つまり同郷の者が同室となっているケースが多い。皆が関係を知っているジャックとリリィは同じ部屋だ。羨ましい。私は個室だが、私も早々にバスティアンとの関係を晒して、同室にしてもらうべきだった。


 全員が乗船した後、しばらくして飛空艇は飛び立った。

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