第033話、イメージは大事だよね


「ぴ、ピンクですか!? えと、それは可能ですけど、ほんとうにそれでよろしいのですか?」


 『ピンクの毛』かぁそれは予想してなかったな、ほんとうにその色でよいのだろうか。


「はい、ピンク…… ピンクならどうにか耐えられそうなんです、ピンク以外の色であれば、たとえ病気が治ったとしても私は…… 私は……」


 なるほど、部屋を見てもわかるがリリーお嬢様はピンクがお好きなんだな、『自分の心臓に毛が生える』 それを受け入れるためにせめて色だけはピンクで、そのプラスイメージを生み出すとは俺はまだまだ女心がわかっていない、精進せねば。


「わかりました、ピンクにします」


「あ、ありがとうございます、あと毛の雰囲気は柔らかい感じでこのぬいぐるみのように可愛らしく、あと艶があってなでたくなるような美しい感じでお願いします」


 なんかすごい注文が多いな、それは可能だけど誰かに見せるわけでもないのに。


「は、はい、大丈夫です可能です、だだ先程もお伝えしましたが体の外へ出ることはありません、なので人に見られることもありません、治療への効果も変わりませんのであまり意味はないようにも思えますが」


「それでもお願いします、体の中に可愛らしい色をした、可愛らしいものが入っていると思えば強く生きられそうなのです」


「なるほど、わかりました」


 ふぅ、森での特訓で毛のことを深く考えているうちに性質や色を変化させたらどうなるのか、とかも考えて練習をしておいてよかった、こんなところで役にたつとは。


「では治療を始めさせて頂きます! そのままベッドで横になってください」


「……はい」


「ではエステン師匠、体の状態を検査魔法(スキャン)で確認お願いします」


「了解なのじゃ!」


 エステン師匠はお嬢様の胸に触れ、検査魔法(スキャン)をかける、お嬢様の胸が淡く光だす。


「ふむ、予想通りじゃ! 心臓以外は特に問題はない、毛で繋いで心臓へエネルギーを分け与えても大丈夫じゃな」


 よかった、それなら今回の治療方法は使えるな、仮に他の臓器に問題があれば心臓へエネルギーを分けることで二次被害になる恐れもある。 いまからが本番だ、リリーお嬢様へ声かけをして治療を開始する。



「それではいまから心臓へ手をかざします、直接は触れませんのでご安心してください」

 

「……はい」


「では……」


 俺はリリーお嬢様の胸付近まで手を伸ばして、毛魔法をかける体勢をとる、後ろで領主様がかなり苦々しい表情をしているのが雰囲気で伝わってくる、大丈夫です決して触りませんので。


「毛魔法!『臓器活性』」


 リリーお嬢様の胸が光りだす、先程よりも強く強烈にピンク色に輝いている。



「終わりました」


 治療は完了した、領主様はリリーお嬢様の状態を確認する


「えっ? もう終わったのか? 見た目は全然かわっていないが、リリーどうだ? なにか変わったか?」


 無言で自分の胸を押さえているリリーお嬢様、しばらくしてポロポロと泣き出した。


「えっ!?」


 俺は泣き出したリリーお嬢様を見ても動揺した、治療は失敗したのか? まだ苦しいのか? 理論上は可能なはずだ、どこか間違えたのか。 俺は頭の中がぐるぐるしている。


「……胸が苦しくない」


「リリー?」


「胸がとても楽なの、お父様!」


 リリーお嬢様は初めて笑顔を見せてくれた、涙をポロポロ流しながら明るく笑ってくれた、そしてベッドから降りて部屋の中を歩いてみせた。 よかった、治療は成功していた。


「全然苦しくない、こんなに動いても息が切れない、体が軽い!」


 嬉しそうに部屋の中をぐるぐると周りだすリリーお嬢様、その姿を見て俺も嬉しくなり自分の治療に満足した。


「そ、そんなに動いて大丈夫なのか? もっと落ち着いてゆっくり動いてくれ」


 領主様はリリーお嬢様のはしゃぎっぷりにハラハラしている、こんなに嬉しそうに激しく動く娘を見たのは久しぶりなのだろう。


 しばらく動き回ってたリリーお嬢様は動きを止めて俺の顔を見ながら改めて笑顔を向けてくれた。


「ありがとうございます! こんなに変わるなんて……」


「無事に治療できてよかったです、ただし激しい運動はまだ禁物ですよ、歩くとかなら大丈夫ですが走ったりはお控えください、運動は徐々にお願いします」


「わかりました!」


 とても表情が豊かだ、リリーお嬢様は本来こうなのだろう、今までは病気のせいであんなにも暗く動きのない無表情になってしまってたんだろうな。 領主様も俺の顔を見ながら礼を言ってくれた。


「ありがとう、私からも改めて礼を言いたい、最初は声を荒げてすまなかった」


「いえ、まだ未知の治療方法ですから、」


「これから何かあれば言って欲しい、可能な限り君をバックアップするから」


「ありがとうございます、その時はよろしくお願いします」



***



 定期的にリリーお嬢様の様子を診察しに来ることを約束して俺は領主様の屋敷をあとにした、帰り道でネネタンからとても感謝された。


 そこまではよかったのだが『居酒屋 のんだくれ』に着いたら、お礼にとか言ってネネタンが脱ぎ出したから上半身を黒のアフロ毛で覆い24時間たてば消えるようにした、ただし24時間が経過するまでは抜いても剃っても無限に再生するように設定した、更には再生の時にはネネタンの体力を奪うので毛を剃れば剃るほどヘロヘロになる。 反省するように。



***



 俺は家に帰宅した、今回の治療を通して毛魔法は万能だと改めて実感した、特訓のおかげで色や性質や付与など様々な効果を追加することができる、イメージが大事だとエステン師匠から教わった、ということは家でも頭のなかでトレーニングできるのでは? そう考えて今日からは毛のイメージトレーニングを寝る前の習慣にしようと思う。


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