第14話 二名様お帰り~

「ほ、本当だ。まさかここまでの根回しをしていたのか、俺たちがここで止めようとするのを見越して。」


「そうでないと3カ月がたってからすぐにここにきていますよ。何のために期限から7日も経ってから来たと思っているんですか。あぁ、それと彼女に関しても問題ありません。伯爵とは言っても誰も貴族の知り合いなどいませんから口をはさむ人間を心配する必要ありませんよ。


むしろ、侯爵様がこんなことになったのは彼女のせいだと言って周囲の貴族達に圧力をかけて徹底的に排除しようとしているので彼女が連れていかれたところで何も問題はありません。むしろ、ここで彼女をかばってしまえば侯爵に目をつけられてしまうかもしれませんね。」


「そ、そうか。そう言うことであれば我々は手を出せないな。とにかく我々は何も見なかった。それが一番だ。うん、今日はいつも通り、巡回を行っていたため、この屋敷には来ていない。」


そんな彼らとの三文芝居を見せられ、ようやくタニラははめられたことに気が付いてしまう。


「シーラ!わ、私達をはめたの!私たちは家族でしょ、どうしてこんなひどいことをするの!助けて、いやー!」


「う、嘘だ、僕のことを父が見捨てるわけがない!離せ、いやだ死にたくない!」


しかし、そんな彼らの命乞いを気にする男たちではない。彼らの言うことなど気にもせず、連れて行くのだった。


「さて、姉さん。俺たちはこれで失礼します。そうだ、ボスも姉さんに会いたがっているのでぜひ、いらしてくださいね。おっと、この話はボスには内緒ですぜ。」


「はいはい、分かったわよ。まったく、何であんたたちのボスはこんな私に興味があるのよ。意味が分からないわ。」


それは3か月前のことだ、彼らが借金の取り立てに来た際に、シーラが3カ月だけ遅らしてほしいと訳を話し、説明したところ、この男の判断だけでは無理だと言われ、彼らのボスに直訴しに行ったのだ。


そこで、なぜか今までの境遇を話したところ、気に入られてしまい何回も食事の誘いを受けている。別に、相手は闇金などや違法な金貸しではなく、きちんと法にのっとった正規の金貸しだ。だた、その規模があまりにも大きく、その代表を務める彼らのボスという存在が貴族以上の権力を握っているというだけだ。


そんなわけで、別にシーラの財産を狙ってというわけでもないので何度か食事を共にしていた。そうやって何回も過ごしているうちに、ますます気に入られてしまったようだ。


「何言っているんですか、あのボスが他人に興味を持つなんて珍しいんですから頼みますよ。姉さんといる間だけはボスの機嫌も良くて俺たちも怒られなくて済むんですから。」


「あなた、それは部下としてどうなの?まったく、あなた達のボスにチクるわよ。」


「そ、それだけは勘弁を。そ、それでは俺たちはそろそろお邪魔だと思いますので消えさせていただきます。また、いらしてくださいね。」


そう言って、男たちは去っていくのだった。彼らが去るとともに、兵士たちも何も見ていなかったと詰所へと帰っていく。これ以上関わり合いになるのは彼らにとってデメリットしかないからだ。


いつの間にか貴族に目をつけられそうな件に首を突っ込んでいる。今回の件で最も被害を受けたものは彼らと言っても過言ではないだろう。こうして、屋敷は元の平穏を取り戻したのだった。

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