第5話 ついに兵士を呼びに行くビートル

お父様が亡くなって、彼女は伯爵家の当主に、私はただの平民となってしまったのだ。今まで家から出て行ったきり、帰っても来なかった彼女だがお父様が亡くなれば彼女が伯爵だ。それがこの国では当たりまえ。


ちなみに、アルフレイ様は侯爵家の息子ではあるがタニラの元へ婿入りした身なので身分は伯爵の夫となっている。


「本当によろしいのですか?」


ビートルがタニラの命令に初めて口を開く。その瞬間に私は彼がにやけているのを見逃さなかった。彼は兵士たちをこの屋敷に呼んで私を連行させるのではなく、彼女たちを連行させるのだろう。客観的に見れば法を犯しているのは彼女たちの方なのだから。


いくら伯爵とはいえ、犯罪を犯せば兵士にだって連行される。彼女たちは3か月もの間不法占拠を行ってきたのだから。


「良いって言ってるでしょ!今すぐに、今すぐ呼んできなさい!」


タニラはいつまで経っても動こうとしないビートルにイライラしながら再度命令を行う。


「かしこまりました。兵士を呼ばせていただきます。」


そう言うと、ビートルは部屋を出て行ってしまった。


「これであなたもおしまいね!せいぜい、牢の中で生きることね。でもよかったじゃない、檻の中なら食べ物には困らないわ、だってタダだもの。」


タニラはようやく、シーラを追い出すことが出来ると高笑いを決めている。そんな彼女を見てアルフレイ様も笑い始める。


「くくっ、ダメじゃないかタニラ。彼女がかわいそうだよ、くくっ、あははっ!」


可哀想と言いながらもアルフレイ様も同様にシーラのことを笑っているのだ。本人は笑いを隠しているつもりかもしれないが全然隠せていない。口ではかわいそうと言いつつも、本心ではそのようなことを思っていないことが丸わかりだ。


そんな二人を見てシーラはひどく滑稽に感じていた。彼らは本当に真実を理解していないのだと。


二人が笑い転げていると部屋の前のドアが騒がしくなってくる。


「こちらです、ここにいる人間をさっさと屋敷から追い出してください。屋敷に侵入してからというもの出ていこうとしないのです。」


先ほど出ていったビートルが帰って来たのだ。ようやくこの勘違い野郎を追い出すことが出来る、彼らと話したところでもはや意味などないのだ。

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