紗也、魔法少女を目指す

◆Side 紗也


 私の名前はあかつき紗也さや。ちょっと中二病を患っている高校一年生である。

 中二病と言ってもきっかけや程度は人それぞれ。私の場合は、従兄あにである和也と一緒にアニメを見たことがきっかけだった。そのアニメは、主人公が凄く強い能力を授かった上でゲームの世界に落とされ、そこで得た能力を使って成り上がっていくというストーリーだった。

 ストーリーは凄く分かりやすく、基本的には『悪いことを企む人の悪事を暴き、問題を解決する』というストーリーだったので、ゲームやアニメに詳しく無かった私でも、理解する事が出来た。また、主人公が女性だったこともあり、共感しやすかったというのも、アニメを楽しめた要因の一つかもしれない。

 さて、このアニメだが、実に中途半端なところで最終回を迎えてしまった。『第二期製作決定』とのことだったが、私は続きが気になってしょうがなかった。せめて、もう少しすっきりしたタイミングでワンクールを終わらせてほしかった……。

 そんな風にかず兄に愚痴を言うと「これ、ネットに小説版が上がってるから、気になるなら最後まで読めるぞ。しかも、完全に無料で」と教えられた。「無料って大丈夫なの?」と疑ったが、「違法な物じゃないぞ?」と教えられた。

 そして、私は小説版を読み切った。また、お勧めに上がった他の小説も読んだ。面白い!本当に面白い!!ありとあらゆるジャンルの小説を無料で閲覧できるのだ。本当に驚きだった。

 そんな中学時代を過ごした私は、『俺TUEEE』『チート』『魔力』などの用語を理解するようになったし、自分も主人公になりたいという欲求が生まれるようになった。

(その後、自分が主人公の私TUEEE系小説を書いたことは、黒歴史の一つである)


 なお、高校生にもなった今は、周囲に自分の趣味をオープンにしたり、ましてや押し付けたりする事は無くなった。



 さて高校生活最初の中間試験が終わったその週。6月の中旬に非常にワクワクする出来事が起きた。なんと、自分の家の蔵に隠し部屋があって、そこから古びた書物が見つかったのだ!

 この冒険心をくすぐられる展開に、私は色々な妄想が頭をよぎった。「埋蔵金を求めて大冒険」とか「異世界への行き方が記された書物」とか。冒険の始まりを期待したのだ。

 もちろん、本気でそうなると思ったわけではない。「そうだといいな」と妄想し、頭の中で自分(達)が主人公となったストーリーを思い描いただけだ。


 その内容は、本の発見から数日後に明らかになった。かず兄が漢文を現代語訳したのだ!かず兄は古文漢文に長けていて、将来は学者さんにでもなりそうな優秀な人。彼にとっては、漢字の羅列を現代語に直すのはパズルゲームのような物なのだ。私にはそういう特技が無いから、本当に尊敬する。

 さて、肝心の本の内容は『魔法の使い方』だった。我々の先祖は陰陽術の師範だったらしく、我々一家にはその才能が受け継がれているそうなのだ!

 こんなことを聞いたら、試したくなるよね。そう思って色々魔法を使ってみようとしたけど、発動はしなかった。まあ、本にも「最初は上手く発動しない」って書いてあったし、希望は捨てないでおこう!


 その後、信じられないことに、かず兄が魔法を使えるようになったと言って、実践してくれた。水温を操る事が出来るようになったそうだ。実際、彼が触れた水は、急激に温まったり、逆に急激に温度が下がったりした。

 それを見て、疑問を抱いたのは慧姉けいねぇだった。水中に何かの化学物質を溶かしているのではないかと疑ったのだ。あ!慧姉とはかず兄の姉で、私にとっては従姉。いわゆるリケジョで、魔法なんて信じない性質たちである。

 だが、成分分析を行っても、怪しい点は見つからず、慧姉も魔法を信じたようだ。すぐに、かず兄の身体を検査したいと言って、彼女が通う大学へ連れて行った。


 かず兄曰く、深夜テンションで練習を繰り返したら、いつの間にか使えるようになったそうだ。私も練習したら使えるようになるのかな?なるわよね?


 今晩から、練習を始めよう!! 目指すは、笑顔が素敵な魔法少女!



 慧姉とかず兄はその後毎日のように大学へと行っていた。fMRIというのを撮影しているそうだ。これは、脳のどの部位が活動しているかを調べる事が出来るらしくて、魔法の発動に使う脳部位を特定しようとしているようだ。


「魔法の発動にはブローカー野、つまり運動性言語中枢が関わっているみたいなんだ。本来、言葉を発する事に使われる領域なんだけど、魔法の発動にも関わるらしいな。起こしたい現象を言語化する事が重要なのだろうか……」


 と慧姉は説明してくれた。よく分からなかったけど、コンピュータ上でかず兄の頭部モデルがグルグル回ってるのは面白かった。


 そんな彼女らを横目に、私は魔法の発動に挑戦した。かず兄が実演してくれたように、水の温度を操ろうとしているのだが、一向に成功しない。成功する気配もない。

 正直、「実はマジックだったのでは?」なんて疑ったりもした。だけど、慧姉が真剣に研究しているのを見て、「それはないか」と思った。そもそも、わざわざ私を騙す必要性が無いもの。


 さて、かず兄の魔法だが、水温調節以外は成功していないそう。他の魔法を発動する為にも、さらなる文献が欲しいと言っていた。

 そして、その週の金曜日、かず兄と慧姉が「今週末は祖父ちゃんの家に行こうな!」と誘って来た。普段はわざわざ誘ったりしないのに、である。きっと、「さらなる文献」を探す為であろう。


 出来れば、それまでに魔法を成功させたい。タイムリミットは明日。今晩の間に、どうにかして魔法を成功させよう!





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