ハズレ王子 Ⅱ 〜輪廻の輪から外れた俺は転生させられて王子になる〜

さつき けい

第1話 流れること


 俺はコリルバート、十七歳。


四方を険しい山々に囲まれた小国ブガタリアの第二王子として産まれた。


父親は国王ガザンドール、母親は側妃カリマ。


王族は他に正妃ヴェズリア様と、その第一子で現在王太子のヴェルバート兄と、その妹アラヴェリエ。 そして、俺と同じ両親を持つ妹セマリュがいる。


兄様は俺の二つ上で十九歳、二人の妹たちは夏生まれの誕生日で六歳になったばかりだ。




 そして、俺には別の世界で産まれ、十四歳で死んだ記憶がある。


前世で死んだ時、俺は神の案内人の手違いで輪廻の輪に乗り損なってしまった。


その時、俺の魂は本来ならちりになって消えるはずだったんだけど、


『この世界では無理だが、他の世界の輪廻の輪なら乗せてやれる』


って、輪廻の神様が言ってくれた。


新しい世界で普通に生きて、ちゃんと死んで、今度こそ輪廻の輪に乗せてもらう。


そのつもりで、俺は今までと全く違う、魔法と剣と、魔獣のいる世界に転生した。


 だーけーどー。


王子として産まれるなんて予想外だったよ、神様。




 今は夏。


隣国ヤーガスアとの揉め事から丸三年が経った。


内緒だけど、実は俺、あの騒動の最中に一回死んじゃったんだよな。


 前世と同じように、命を落とした十四歳の初夏。


他の世界で生き直してても、俺の命はそこまでしか用意されていなかったらしい。


寿命ってやつだったんだと思う。


 だけど、そんな俺を輪廻の神様はもう一度助けてくれた。


俺が今世で深く魔獣たちに関わって生きてきたせいで、神様にも予想外のことが起きたんだ。


あの時、俺が国の争いに巻き込まれて命を落としたせいで『魔獣たちが暴れて人類が絶えそうになった』らしい。


それを回避するために俺の命を戻してくれた。


俺は輪廻の神様に、もう一度、今世での修行を続けさせてもらえることになったのである。




 俺が今世で生き返った後、グリフォンと馬の間に極稀に産まれるというヒッポグリフという魔獣の世話を頼まれた。


ブガタリア王族は代々『魔獣の王』グリフォンを騎獣としていて、王族専用厩舎には父王と兄様の二体のグリフォンがいる。


この魔獣は出生や繁殖といったものが一切不明。


王宮の魔獣飼育担当のじいちゃんでも分からないことが多い魔獣なんだ。


 俺のヒッポグリフもいつの間にか厩舎に居たらしい。


出現して三年経つが、未だに身体は幼体のまま。


栄養も運動も十分なはずなんだけどなあ。


 ヒッポグリフは鷲の頭に馬の身体を持ち、グリフォンと比べると少し小さいが翼もある。


馬型の魔獣なので翼で空を飛ぶというより、飛ぶように早く駆ける意味合いが強いと思う。


だけど、俺のヒッポグリフは片翼が傷付いていて、バランスが上手く取れない。


普通に走る分には問題ないんだけどね。




「さて、散歩に行くか」


ヒンヒン


俺は銀の毛色の仔馬魔獣を連れて、王族専用の魔獣厩舎から騎獣用の運動場に向かう。


 運動場に出ると一体の魔獣が近づいて来た。


グルッ


弟のように可愛がってるゴゴゴというトカゲ型魔獣だ。


「どうした、グロン。 一緒に走るか?」


俺は幼い頃から自分専用の厩舎を持っている。


以前はゴゴゴが三体だったけど、今は六体に増えていた。


 俺が育てたゴゴゴのうち、グロンは騎乗用魔獣だ。


最近はグロンも親になり、自分の子であるムネキとミツキの教育をしている。


キーキー、ガーガー


グルグルッ


この三体とも体色が真っ黒で、グロンは目が赤く、子供の二体は普通の黒い目をしている。


ゴゴゴの幼体は産まれて一年も経てば体格だけは一人前になるけど、成体になって人間が騎乗出来るようになるには訓練が必要だ。


 俺がグロンに騎乗してヒッポグリフとグロンの子供たちを走らせる。


「グロン、あんまり本気だすなよ」


グ、グルウ


王宮で最速を誇っているグロンも最近はあまり速度を出せていないし、ストレスが溜まってるのかもしれん。


子育てで忙しかったからなあ。


そのうち、どっか連れて行ってやろう。




「コリルー」


王宮からエオジさんが来るのが見えた。


「なに?」


ちょい中年のエオジさんは俺の母さんの従兄弟いとこで、近衛騎士だったが怪我を理由に辞め、今は俺の専属護衛。


なんの怪我だったのか不明だけど、身体の動きを見る限り後遺症とかはなさそう。


 というか、この人はめちゃくちゃ強い。


ブガタリアは脳筋国家でガチムチ男性が多いけど、エオジさんは中肉中背なのに他の兵士に負けない。


動きがしなやかで攻撃は流され、弱点をしつこく突いて攻撃してくるので、やりにくいんだ。


俺も小さい頃からそれを学ばされて、今ではエオジさんから合格をもらっている。


合格っていっても「基礎は終わったから、あとは自分で勝手にがんばれ」ってことだろうな。


うん、怠けたら絶対、再指導が入ると思う。




「陛下がお呼びだ」


「はあい」


俺はグロンを止めて、その背から降りる。


「ツンツン、チィチィ」


キュルル


チィチィ


薄い緑色の身体に眼球が無いツンツンと、白い体色に赤い目のチィチィが俺の足元に現れた。


 実はこの二体、いつも気配を消して俺の身体に張り付いている。


ゴゴゴの中でも身体が小さい上に目が見えないせいか、危険を回避する能力に特化してるんだ。


まあ、訓練にもなるから良いけど、俺でも気配が全く分からないから踏み潰されないようにしろよ。




 俺はチィチィをヒッポグリフに乗せ、ツンツンにはグロンに乗るように頼む。


この小さなゴゴゴたちを乗せていれば、グロンやヒッポグリフは無茶な走り方はしない。


「しばらく走らせてやって。 身体が汗で冷える前に厩舎に戻るんだよ」


キュッ


さすが、付き合いの長いツンツンは分かってるな。


魔獣飼育担当のじいちゃんの姿が見えたので、ついでに頼んでおく。


しばらくの間、俺はじいちゃんと一緒に魔獣たちが走るのを眺めてから、エオジさんと王宮に向かった。




「陛下、お呼びと伺いましたが」


父王の執務室に入ると、ヴェズリア様とヴェルバート兄も居た。 


 十九歳の兄様はもうすっかり青年と呼べる大人だ。


顔は王妃様似だけど、体格はガチムチの父王に似て来た。


大国イロエストの王女だった王妃様が色白で金髪青目なので、ヴェルバート兄も金髪で白い肌。


今は王太子教育としてヴェズリア様に付いて政務の手伝いをしている。


「おう、来たか」


父王ガザンドールは、ブガタリア民族らしい黒髪で大柄な身体付きをしているが、肌の色は少し薄い。


俺は古い部族出身の母さん似で、黒髪に色の濃い肌色。


俺たち親子三人共通の赤い目が王族の血の繋がりを表していた。




「コリル、お前に招待の打診が来ておるぞ」


父王の言葉に俺は眉を顰める。


「また義大叔父おじ様ですか」


三年前、隣国ヤーガスアは崩壊した。


企てたのは大国イロエストで、主導していたのは王弟殿下だった。


ヴェズリア様の叔父、俺にすれば義大叔父おおおじに当たる。


その人が何故か俺を高く評価していて、何かあるとすぐに呼び出される。


「そんな嫌そうな顔をするな。 お前が縁組みしたんだろうが」


「まあ、そうですけどー」


ふふふ、あれは我ながら良いアイデアだったな。




 義大叔父おおおじはヤーガスア国を俺に継がせようとしていた。


ヤーガスアとブガタリアは元々同じ民族だから違和感がないと思ったらしい。


でも、俺は逆に独身だった義大叔父おおおじを結婚させて「自分でやって」と押し付けたのである。


 ヤーガスアとは反対側にある隣国シーラコークの第五公女シェーサイル姫。


若いが女王様みたいなカリスマ性のある美人だ。


彼女は、その異常な人気のお蔭で、父親である公主陛下が贔屓ひいきするあまり他の子供たちを排除しようとしていた。


そのことに気付いて助けを求めて来たんだ。


あ、俺にじゃない。


俺の実質の婚約者で、シーラコーク国の外相の娘であるピアーリナ嬢がシェーサイル姫の友人なんだ。


それで、俺はブガタリアで王弟殿下とシェーサイル姫を偶然を装って見合いさせ、縁談をまとめた。


姫を紹介したら、大国の王弟殿下でも一発で落ちたよ。


 現在、義大叔父おおおじはイロエスト国の自治領となったヤーガスアの領主をしている。


大国の公女を嫁にもらったからには、彼女にはそれ相応の立場が必要だ。


王弟妃だけでは足りない。


俺はそこを主張させてもらった。


お蔭で俺のヤーガスア王族入りは免れたよ、ふう。




 父王がニヤリと笑う。


「子供が産まれたそうだ。 わしの代わりに行って来い」


はあ、やっぱそうなりますよねー。


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