第6話 ショコラの街へ到着

 気が付いたら、朝になっていた。昨日は大泣きしちゃって、ちょっと恥ずかしい。むぎゅっと抱っこしていたまおちゃんは、私の頭の下にいる。


「わわっ、まおちゃんごめんっ! いつの間にか枕にしちゃってた」

(我が勝手に枕になっただけだがな)


 まおちゃんには申し訳ないけれど、幸せ気分で起きられた。それくらいまおちゃん枕は気持ちがよかった。まおちゃんから視線をずらすと、また沢山のドロップ品が散らばっていた。


「わわっ、もしかしてまた襲われたの!?」

(ああ。ちょっとな)

「まおちゃん、本当にありがとうね」


 沢山あったドロップ品は、まおちゃんがぱくんと食べて仕舞ってくれた。今日も大量でびっくりだけど、そんなに私って狙われやすいのかな? それとも、そんなに魔物が多いのか……どっちだろうね。怖いから聞かないでおこう。


「朝ごはんも昨日のパンで良いかな?」

(うむ、構わんぞ)

「ショコラの街で少しお買い物出来るかな。お外でもご飯が食べられると良いよね~」

(そうだな。それは良いな)

「まおちゃんのお陰で、今もご飯が食べられてるけどね。まおちゃんが持っていてくれるから、とっても助かってるよ。ありがとうね」


 ご飯を食べ終わったら、ショコラの街へ向けて出発する。今日もまおちゃんが先頭でぽよぽよと跳ねて、その後ろを私が付いて歩いている。今日も癒される後ろ姿で、疲れも吹き飛んじゃう。


「後どれくらいでショコラの街へ着くかね~」

(後半日くらいか?)

「ショコラの街は港町なんだよね。魚介類も食べたいよね~」

(魚介類? 旨いのか?)


 まおちゃんがくるりっ! と勢いよく振り返って首を傾げた。魚介類の説明をしてあげたら、よだれが垂れそうな顔になった。ボタンの目を付けただけなのに、そんなに表情が分かるのがあまりにも可愛くて、思わず笑ってしまった。


「ふふっ。きっとおいしい物もあるから、屋台も行こうね」

(もちろん行くぞっ!)


 お昼前くらいにやっと林を抜けて平原に出た。かなり先の方に海が見えた。その手前にショコラの港町が見えた。やっぱり私の足だと一日半掛かるんだね。


「やっとショコラの街が見えたね」

(旨い物食べるぞ!)


 まおちゃんの跳ねるスピードが上がった。私も港町が楽しみで、まおちゃんと同じく足取りが軽くなった。


「今日はまずは、夜中まおちゃんが倒してくれた魔物のドロップ品を買い取りして貰おうか」

(うむ、そうだな。そのお金で旨い物を沢山食べるぞ!)

「後はサメのぬいぐるみの材料を買わなきゃだね」

(ユア、頼んだぞ。サメのやつを封印するのだ)


 そんな話をしながら歩いていたけど、まだまだ遠かった。途中で休憩しながら3時間くらい掛かってやっと辿り着いた。門で手続きをして貰い街の中に入る。街の中はまおちゃんが踏まれたら嫌だから、抱っこする。


「ん?」

(どうした?)

「なんだか街の様子がおかしくない? 活気がないっていうか……なんだろう?」

(うむ。確かになんだかおかしな雰囲気だな)


 街を歩いていても活気がない感じで、街の人達の表情が暗くて硬い。

 とりあえず、買い取りして貰う物も沢山あるし冒険者ギルドに行ってみようかな。

 冒険者ギルドに着いて中に入ると、昼間なのに冒険者達が沢山いる。ギルド内の酒場で昼間っからお酒を飲んでいる。昼間の時間には依頼に行くと思うのに、どうしてだろう?

 買い取りカウンターで買い取りをして貰いながらお話を聞いてみよう。


「こんにちは。買い取りをお願いします。それと少しお話しても大丈夫ですか?」

「ああ、良いぞ。今はギルド内は暇だからな」

「暇、ですか?」

「ああ。今は海の方の依頼が全部ストップしてるからな」

「そうなんですか?」

「ああ。海にサメの魔物が出るようになって、海底ダンジョンへも行けなくなってしまったんだよ」

「それは大変ですね」


 サメの魔物が出るというけど、どんなサメなんだろうね。まおちゃんがサメのぬいぐるみを作ってほしいっていうのと同じなのかなぁ。


「海に近づくと襲われるから漁にも出られないんだよ」

「そうだったのですね。今日街に着いたのですが、活気がなかったのでどうしたのかと思っていたんです」

「そうなのか。他の街へ行くのだったら、なるべく早く出発した方が良い思うぞ」

「はい、ありがとうございます」

「買い取り金額はこれな」

「はい、ありがとうございました」


 冒険者ギルドで買い取りを済ませたので、外に出て手芸屋さんへ向かおう。途中、屋台が沢山ある場所を通りかかったけれど、屋台がやってない。


「まおちゃん、大変!」

(ユアっ、どうした!?)

「屋台がお休みだよっ!」

(何っ!? それは一大事だ!)


 やっぱり海にサメが出て漁に出られないから、お店が開けないのだと近くのおばさまが教えてくれた。


(ユア。早くサメのぬいぐるみを作るぞっ!)


 まおちゃんが、私の腕の中でサメの形に変わった。早くぬいぐるみを作ってほしいってことみたいだ。確かに、街がこの状態では大変だもんね。


「まおちゃん。サメのぬいぐるみを作るのは良いけれど、もしかして海に出ているっていうサメを……えーっと、捕まえに行くの?」

(うむ。サメのやつを封印しないと、屋台のご飯が食べられないのであろう。だから早く行くぞ!)


 まおちゃんが思いっきり頷くから、早く封印しに行こうっていう事なんだろう。サメを封印しに行くって、普通に考えてすっごく怖いんだけど。


「大丈夫……かなぁ?」

(何がだ?)

「サメってすごく怖そうなんだけど……」

(我がいるから問題ないぞ。我の配下だからな!)


 とってもとっても怖いけれど、まおちゃんが大丈夫だというから……きっと大丈夫なのだろう。まずはサメのぬいぐるみを作らないとね。


「よしっ! がんばって行ってみようね。だけど、その前に手芸屋さんだね」

(うむ、そうだな)


 手芸屋さんに着いてとっても驚いた。シロップの街にあった手芸屋さんの3倍くらい大きかった。これは色々な物がありそうで、入る前からとても楽しみだ。


「サメを作るなら何色が良いかなぁ。まおちゃんがピンクだから、青か水色と白が可愛いかなぁ」

(あやつはそこまで可愛くなくて良かろう)

「こんにちは。見せて頂いて良いですか?」

「いらっしゃいませ。ごゆっくりどうぞ」


 生地はやっぱり触り心地が一番大事。やっぱりむぎゅっとして気持ちの良い子が良いよね。お店の中をあちこち移動して、次から次へと生地を見ていく。


「あっ、この青いタオル地みたいなの気持ち良いっ」

(ふむ。良さそうではないか)


 同じ生地の色違いで白があったから、これに決めよう。店員さんに生地を切って貰っている間に、目になるボタンを探そう。

 ボタンもショコラの街の倍以上あるし、素敵なボタンが沢山あってすごく迷ってしまう。その中でも目を引いたのが、まおちゃんの黒いオニキスの目と同じような感じで、紺色のボタンを見つけた。


「これ素敵だね!」

(うむ)

「すみません。このボタンを2つ下さい」

「それはアイオライトのボタンなのよ。綺麗よね~」

「はい、とっても!」


 まおちゃんはオニキスの目で、サメはアイオライトの目ってシリーズみたいになっていて良いかもしれないね。後はふわっふわの綿も沢山お願いした。お金を支払い、商品は私のバッグに仕舞っておいた。

 手芸屋さんを後にして、今日の宿へ向かう。冒険者ギルドでおすすめの宿も聞いておいたから、そこへ向かおう。手芸屋さんから少し歩いた所で宿を見つけた。


「こんにちは。今日泊まりたいのですが、空いてますか?」

「こんにちは。一人部屋で良ければ空いてるよ」

「この子も一緒なのですが、大丈夫ですか? ご飯も一緒に食べたいのですが」

「おや、可愛い子だね。従魔は小さい子なら値段も変わらないし、一人部屋で大丈夫なら問題ないよ」

「ありがとうございます。では、よろしくお願いします」


 手続きを済ませたら、少し早いけどまずはお夕飯を食べちゃおう。食堂へ着くと、女将さんがご飯を持ってきてくれた。


「やっぱりあったかいご飯はホッとするね」

(そうだな。やはり人間達のご飯は旨いな)


 今日もまおちゃんに食べさせてあげながら、仲良くご飯を食べる。まおちゃんが嬉しそうにぽよぽよ揺れるのが、見ていてほっこりする。幸せ気分でご飯を食べ終わったら、お部屋に行こう。

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