スキルも碌に使えないと追放された封印術師ですが、ぬいぐるみの中に魔物を封印出来るみたいです~みなさん魔王を討伐に行くみたいですが、私はぬいぐるみのまおちゃんと待ってます~

猫野 伽羅

第1話 封印術師

 今日、私(アレクシア)は8歳の誕生日を迎えた。この世界では、8歳の誕生日を迎える日に教会で自分に合った職業を教えて貰う事になっている。

 私も両親に付き添われ教会に馬車で向かっている。私は自分が作った丸いクッションを抱きしめて緊張しながら馬車に揺られている。本当は座る時に使おうと思っていたんだけど、緊張のあまり抱きしめたままだった。


「お父様。私もお父様のような魔術師になりたいです!」

「そうか、シアは魔術師になりたいのだな」

「はいっ! そして街の人達を守れるようになりたいです」

「そうね。アルも魔術師の職業を頂いたんですもの、きっと大丈夫よ」

「アルフォンスお兄様と一緒が良いです。でも、とてもドキドキします」


 お父様もお母様も神様から頂いた職業が魔術師だ。お父様は辺境伯としてこの街を治めている。

 このファッジの街の周りは厳しい山々に囲まれていて、魔物も強くいつ襲われるか分からない場所だ。強い魔物が沢山来た時にはお母様も戦いに参加したりもするらしい。私が生まれる前はお母様も戦場へ行ったことがあると聞いた。


 ちなみにお兄様は王都にある学園に通っている。ここでは貴族の子供は10歳になると王都にある学園に通うことになっていて、私も10歳になったら学園に行く予定だ。

 お兄様は寮に住んでいるので、長いお休みじゃないと会えないのが残念な所だ。


 そんな事を考えていたら、馬車が止まった。教会についたみたいだ。ドキドキしながら両親と一緒に馬車を降りる。

 教会の中に入りお父様と一緒に挨拶を済ませたら、一人で祭壇へ上がる。祭壇へ上がると、目の前に透明なクリスタルの石板が置いてある。この透明なクリスタルの石板に手を置くと、クリスタルの中に職業が浮かび上がってくるらしい。


「さあ、こちらへ手を置いてください」

「……はい」


 神官様に促されて、少し震える手をクリスタルの上にそっと乗せる。魔力が引き出される感覚がして少し待つと、クリスタルの石板が一瞬光った。

 次の瞬間にはクリスタルの真ん中に「封印術師」と書いてあった。その文字を読んだ瞬間、自分が転生したことを思い出した。


「え……その……封印術師……ですね」


 そう語尾が小さくなりながら神官様が言うと、後ろから悲鳴が聞こえた。お母様の声だ。


 この世界では封印術師というのは使えない職業ナンバー1だ。だって、どうやっても魔物も何も封印する事が出来ないのだから。

 だから、封印術師の職業が出た人は職に就くことが出来ない。中には冒険者でなんとか生活出来ている人もいるみたいだけど、生活していくことが出来なくなってしまう人が多いらしい。


 そんな職業だなんて、転生させた神様恨みますよ?


 どんな顔をすればいいのか分からず、下を向きながら両親の元に戻る。そして、無表情なお父様と泣き崩れるお母様の数歩後ろを歩いて神殿を出る。

 両親に続いて馬車に乗ろうとしたら、お父様に突き飛ばされた。


「きゃっ!」

「お前はもう私の娘ではない。どこへでも行くがいい!」

「えっ?」


 ぽんっと私が作ったクッションを投げ渡されると、そのまま馬車は私を置いて走り去っていった。


「……ありえなくない?」


 思わずぽかーんとしてしまう。こんな8歳の子を、職業が不遇職だからって捨てるとか酷すぎでしょ!

 でも、怒っても仕方がない。でも、これからどうしたら良いんだろう。


 とりあえず私が作ったクッションをむぎゅっと抱っこして、とぼとぼと歩き始める。

 前世の記憶を取り戻していて本当に良かった。そうじゃなかったらと思うと、怖い……怖すぎる。どうにも出来なかったよ。

 だって貴族の生活って、自分じゃほとんど何もしないんだもの。着替えすら人の手を借りるくらいだ。


 今の私は前世の記憶があるから、自分である程度のことは出来ると思うんだよね。前世では20歳くらいまで生きた記憶がある。だからある程度の事は自分で出来るし、対応も出来るはず。


「まずは暗くなる前にどうするか方向性を決めなきゃね」


 今持っているのは、このピンクのもふもふクッションだけだ。それと来ているこの高そうな服だけ。まだ8歳だから、アクセサリー類も持っていない。

 とりあえず、この高そうな服を売って動きやすい服を買おうかな。どこかで売れると良いんだけど、どうなんだろう。


 きょろきょろしながら歩いていると、洋服屋さんを見つけた。とりあえず中に入って聞いてみよう。


「こんにちは」

「はい、いらっしゃいませ」

「あの、すみませんが……この服って買い取りして貰うこと出来ますか?」

「えっ? えぇっと、出来ますけど、こんな素敵な服よろしいのですか?」

「はい。それで、買い取りして貰ったお金で動きやすい服は買えますか?」

「ええ、それはもちろん。でも庶民用の服になりますが宜しいので?」

「それでお願いします」


 お姉さんが服を選んでくれて、下着から一式2着ずつ買えた。長く履けるようにハーフパンツと少し丈の長めのシャツだ。

 試着室に鏡があって、自分の全身を見ることが出来た。背中まである銀の髪に青い目のお人形さんみたいな外見。さっきまでのドレスから庶民の普通の服になったけれど、前世の記憶を思い出した今なら気にならないしとても楽だ。


 買い取りして貰った金額からお洋服を買ったけれど、まだ余っている。私が着ていたドレスってどれだけ高かったんだろうか。お姉さんにお礼を言って洋服屋さんを出る。


「なんとか少しお金も出来たから、ちょっとホッとしたね」


 次は冒険者ギルドに行って、この先どうするかを決めようかな。この街には知り合いもいるし、私が家を追い出された事もすぐに知られるだろう。このままこの街にいるのは嫌だ。


 冒険者ギルドに入ると、お昼過ぎだからか空いている。中に入ってカウンターにいるお姉さんに声を掛ける。


「こんにちは、少しお話しても大丈夫ですか?」

「あら、こんにちは。どうしたのかしら?」

「えっと、他の街に行きたいのですが、何か必要なものとかありますか?」

「えっ? もしかして、一人で?」

「はい」

「そう……通行証は持っているかしら?」

「いえ、ないです」


 街に出入りするためには、通行証が必要らしい。これは貴族なら貴族証、市民なら市民証、後はどこかのギルドのギルドカードが通行証の代わりになるらしい。

 この中だったら、冒険者ギルドのギルドカード一択だ。元々貴族だったけれど、貴族証なんて持っていない。


「冒険者ギルドに登録は出来ますか?」

「今何歳かしら?」

「8歳です」

「そう……だったら大丈夫よ。冒険者ギルドは8歳から登録出来るわ」

「お願いしますっ」

「じゃあ、これに記入してね。字は書けるかしら?」

「はい、大丈夫です」


 名前は今までのアレクシアではなく、前世のユアにした。これなら私だってすぐにバレないだろうし、良いんじゃないかな。

 後は地図を買うことにした。私が知っているのはこの街の周辺だけだから、地図は大事だよね。あとは私が泊まれそうな宿屋を教えて貰った。


 隣の港町までは歩いても1日あれば着くらしいので、明日の早朝に出発すれば良いかな。

 とりあえず、旅の準備をしないとかな。1日歩いて着くなら、必要なのはお水と食料だけで良いかな。まずは雑貨屋さんで水筒と斜め掛け出来るバッグを買った。これで明日は手に何も持たずに歩けるだろう。

 後は、とりあえずお肉屋さんで干し肉を少し買っておいた。一応食料も持っておかないと、何があるかわからないからね。


「よし、準備はこんなもんかな。宿に向かおう」


 準備が出来たので、宿に行って泊まる手続きをして貰った。部屋に入ってベッドでのんびりする。前世の記憶を少し整理しておこうかな。


 苗字は忘れたけれど、結愛だったな。年齢もよく思い出せないけれど、お仕事していたんだよね。

 色々な物を作るのが好きで、愛用のミシンで色々なものを作っていたんだ。だから、この世界でもこのピンクのもふもふクッションを作ったんだよね、たぶん。

 これだけでもあってよかったなぁ。もふもふは癒しだよね!

 今日はこのクッションをむぎゅっと抱っこして寝るんだ~。


 神様に会った事は覚えているけれど、なんで転生したかとか覚えてない。その神様から貰った封印術と手芸のスキルというのはもちろん覚えている。


「ステータス」


 ステータス画面が出るのか分からないけれど、つぶやいてみた。

 私の頭の中にステータスが思い浮かんだ。


 名 前:ユア

 年 齢:8歳

 スキル:封印術、手芸(型紙省略、手ミシン)、料理

 職 業:封印術師

 称 号:異世界転生者


「本当に基本的な事しかわからない感じだね」


 明日からどうなるかわからないけれど、頑張って生きていこう。でも、前世の記憶を思い出した後だと、あの両親を両親と呼べたか分からない。気分的には知らない人だ。

 だから、きっとこれで良かったんだと思う。せっかく転生したんだし、自由にのんびり生きていこう。


 地図を見ながら色々と考えていると、窓の外が騒がしくなった。そっと覗いてみると、見覚えのある騎士達が何かを探しながら歩き回っていて、思わず顔を引っ込めた。


「あれって……この街の騎士達だったよね。もしかして……私を探してる?」

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