第5話 双子の妹に見られて修羅場

「あのさ……」

「どうした?」

「いや、その……」

「なんだよ」


 急にもじもじし始めた瑠汰に俺は首を傾げる。


「変じゃない?」

「何が?」

「……かみ」

「は?」

「だから髪の毛変じゃないかって聞いてんだよ!」


 顔を真っ赤にしながら怒鳴りつけてきた。

 どれだけ短気なんだこいつは。


「変じゃないよ」

「でも、元の顔も純粋な日本人っぽくないから、似合ってないんじゃ?」

「いや全然。むしろめちゃくちゃ綺麗だよ」


 母親がどこの国の人か知らないが、色白で鼻筋も通っている。

 そこに若干日本人らしく眉毛の位置が高いのがいい。

 変にクールな印象を持たせず、柔らかさを生み出している。


「き、綺麗ってなんだよ。美術品じゃあるまいし」

「あ、あぁ。じゃあ可愛いよ」

「……んぅぅぅ!? 別にそんなこと聞いてねーんだけど!? アタシは似合ってるかどうかを聞いてるだけで、可愛いとか綺麗とか、そんな事は聞いてない!」

「……ごめん。似合ってる」

「それでいい」


 ふんっと鼻息荒く腕組をする瑠汰。

 今の俺の発言のなにが地雷を踏みぬいたのか全く分からない。

 まだぶつぶつと隣で『キモい』だの『恥ずかしい』だの言っている。


「そう言えばカラコンって言ってたけど、お前視力悪くなかったっけ?」


 話を変えるべく聞くと、瑠汰は頷いた。


「度入りカラコン」

「高そうだな」

「まぁね。でも幸いお父さんの仕事柄多少の贅沢はできるし、周りから浮いたりする方が嫌だったから。ほら、転校初日に知り合いと再会するとか思わなかったから」


 俺以外の奴と会話をしている場面を見たことはないが、友達の少ない瑠汰は周りから注目されるのとか苦手なのかもしれない。


 俺は小学校中学校と注目を浴びてきた。

 三咲鋭登という人間に対する興味ではなく、完璧美少女を演じる萌夏の兄としての注目だ。

 兄妹で全然違うね、と事あるごとに言われる人生。

 かなり嫌な感じだった。

 ちょっと違う注目のされ方だが、俺も苦手だしな。


 だからこそ、今のぼっち環境は少し楽でもある。

 友達も欲しいが、萌夏との関係がバレて奇異の視線に晒されるくらいなら、今のままで十分だ。


「どしたの?」

「なんでもない」

「悲しそうな顔で言われても説得力ないんだが?」

「……双子の妹は可愛いのに、俺は不細工だなぁと思ってただけさ」


 少し誤魔化しながら言うと、瑠汰は怪訝そうに眉を顰めた。


「本気で言ってんの?」

「え?」

「鋭登は結構イケメンだよ? そりゃモデルスカウトされるかって聞かれたら、そういうのじゃないけど」

「お世辞はよせよ」

「本当だってば。卑屈なのやめな~?」


 俺が卑屈? これに関しては事実だろう。

 俺と萌夏は二卵性双生児で、顔は全くと言って似ていない。

 両親ともに不細工ではないが、母の方が美形であり、妹は母親似だ。

 そして俺は父寄りだ。

 同じ親から生まれたとは言え、顔つきは結構違う。

 だからこそ双子で同じ高校に通いながら、正体が知られる事なく一年以上生活できているのだ。


 と、そんな会話をしていた時だった。

 噂をすればなんとやら。


「……」


 丁度信号待ちの際に向かいの道路に妹がいた。

 隣には運動部の陽キャっぽい女子を連れている。

 彼女は一瞬俺と横の瑠汰を見て目を見開いたが、すぐに平静を装って隣の女子との談笑に戻った。


 妹とすれ違いながら横断歩道を渡り、事なきを得る。

 ちなみに家と逆方向へ向かっていたため、あいつの今日の帰宅は遅れそうだ。


「あの女子昼もいたよね」

「ん?」

「ほら、ショートカットの可愛い子」

「……」


 無駄な記憶力を発揮する瑠汰。


「ああいう清楚風な感じの髪型女子って意外と裏がヤバかったりするんだよなー。怖い怖い、睨まれないようにしなきゃ」


 実にピンポイントな指摘に吹き出しそうになる。

 確かにあいつは猫かぶりだし、裏表で性格が全く違うからな。

 まぁその裏表ってのは家と学校での話で、恐らく学校ではボロを出さないんだろうが。


 しかし、瑠汰は続けて信じられない事を言った。


「でもあの子、なんか鋭登に似てるかも」

「はぁ!?」

「何大声出して、びっくりした」

「ご、ごめん。でも似てるって、どこが?」

「纏ってるオーラの系統? 同じ穴の狢っていうか。あ、これあんまいい意味じゃないか」

「……」

「鋭登?」


 俺は今心臓バクバクだ。

 高校に入って俺と萌夏を似ているだなんていう馬鹿にはであったことがなかった。

 スクールカーストやコミュ力に天と地ほどの差がある俺達に共通点なんて見いだせる奴は存在しないと思っていた。

 しかし、なんだかんだ元カノか。


「え、もしかしてあの子がふたg—―」

「やめてくれ」


 核心に触れそうな瑠汰を制した。


「何も言えないんだ。事情があるから」

「う、うん」


 意識していなかったが、意外と強く言ってしまったらしい。

 いつも強気な瑠汰には珍しく尻込みする。



 そのまま俺達は無言で帰宅した。


 夏の灼熱の中、双子の平和な高校生活に終止符が打たれる可能性を感じながら。

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