第3話 『元』彼女であるということ

 朱坂瑠汰と付き合っていたのは、互いがまだ中学二年生の時。

 ゲームをきっかけに実際に会い、たまたま近くの県に住んでいたため会う頻度は増えた。

 そして回数をこなす度に仲は深まり、気付いたら付き合っていたというわけだ。


 告白だとか、そういう儀式はしていない。

 ただ気づいた時には自然とそんな事になっていた。

 きっかけがあったような気もするが、いまいち覚えていない。


「立ち入り禁止じゃない屋上って今のご時世存在したんだ」

「うちの高校の偏差値は74。優等生な君たちなら問題は起こさないだろうって事さ」

「その割に人いないけど」

「優等生を期待され過ぎて、何かあった際に袋叩きにされるのが怖いから人は寄り付かない」


 ここの学校の生徒たちはプライドが高い。

 光南高校は当然県内一位の進学校であり、自らをブランド品と思っている節がある。

 そのためアクシデントを嫌う傾向が強く、優等生ムーブが加速しているのだ。


「髪の毛どうしたんだ」

「ん? やっぱ気になる?」

「そりゃそうだろ」


 瑠汰はツインテールにした髪を触る。

 艶やかな黒髪に以前のブランドカラーの面影は感じられない。


「目立つと嫌だから染めた。目もカラコン入れて誤魔化してる。アタシの美貌で男子たちを虜にしちゃうかもしれないからさ!」

「はいはい」

「何その反応。イラつく」

「仕方ないだろ。否定するところないし」

「えっそれって」

「あ」


 急に顔を真っ赤に染める瑠汰。

 可愛いって言ったのも同然だったからな。


「へ、変な目で見てくるなよ!」

「別に普通の目だけど」

「……ッ! キモい! 生意気! 陰キャの癖に!」

「そこまで言うなよ。泣くぞ」

「べ、別に照れ隠しじゃないし? でもごめん」


 容姿はだいぶ変わったが、中身の方はあまり変わっていないらしい。

 中学二年から高校二年の間で成長していないというのは少し心配だ。

 そもそもうちの高校は偏差値高いし、どうやって編入したのだろうか。

 地頭と成績は別だが。


「で、どうして転校?」

「お母さんの転勤」

「へぇ」

「興味ないなら聞くなし」


 元々瑠汰は隣県に住んでいた。

 しかし親の都合で日本の北端に移動。

 それを機に会うことは無くなった。


 俺達の関係の終わりは自然消滅みたいなものだった。

 彼女が去ると同時期にゲームもサービス終了し、疎遠になったのだ。

 連絡を取る手段は一応あったが、受験期と重なったため連絡を取り合うことはなかった。


 時が経てばよりを戻すのは気まずくなる。

 嫌いになったわけではなかったが、どうしていいか分からずに関係を放置。


「一応聞いておくけど、アタシ達って別れてるんだよな?」

「少なくとも俺はそういう認識だったけど」

「そっか……」


 曖昧に始まった彼氏彼女の関係は終わる時も曖昧。

 そんなもんだ。


「鋭登はあれから彼女できたの?」

「はぁ?」


 意味の分からない質問をされ、俺は鼻で笑う。


「友達すらできないのに彼女なんてできるはずがない」

「そ、そうだよな!」

「何でうれしそうなんだよ」

「嬉しそうじゃねーし。だっせーなって馬鹿にしてるだけだし」


 プンスカと怒られて少し萎える。

 先日妹につけられた傷をさらに抉られた。

 まぁこんな見た目の瑠汰からすれば、俺の現状はダサいのかもしれない。

 元カノに言われるとかなりクルものがあるが。


「お前は可愛いし、彼氏の一人や二人くらいいたんだろうな。羨ましいよ」

「そんなわけ。アタシはずっとフリー」

「え? マジ? ってことは今も?」

「うん」


 顔を赤らめて頷く瑠汰。

 何だよその反応。


「アタシ達、どっちも恋人なし?」

「らしいな」

「ふ、ふぅん?」


 だからなんなんだその目は!

 チラチラと横目で見てきやがって。


 と、横から見ると凄い胸だな。

 三年前はロリボディ、まな板もいいところだったのが、あっという間にこれか……

 恐ろしい。

 視線が吸い付いてしまう。

 思考力まで奪われる魔性の身体だ。


 何より本人は特に気付いていない様子。

 腕を組んでより胸が強調される。

 いや、わざとやってるのか?

 まるで手のひらで踊らされているようだ。


「えへへ」

「……」


 そんなこんなで昼休みは終わった。

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