このみさんのスウィートグラタン

「一番手は恭、お前だぁ!」

「はいはい」


復活の夏介がモンスター召喚! みたいなポーズを取ると恭はゆっくり椅子から立った。

 恭。彼は非常に温厚でマイペース、癒し系オーラに満ちていると評判の男子だ。しかしインターハイ常連の白鶴拳はっかくけん部でエースを張るだけあって体躯は割と細マッチョ。風紀委員長のあずさにも「あなたは歩く凶器だから」とマークされている。

その要素の悪魔合体か、大らかな性格なのではなく部活で殴り合い過ぎて脳みそ壊れてるだけ説がある。

そんな彼のカノジョは、


「僕のカノジョのさんだけど」

「おう、このみな」

「どんなイメージがある?」

「お菓子だ」

「お菓子ですね」

「お菓子よな」


満場一致のお菓子女子である。カバンの中はお菓子でいっぱい、頭の中もお菓子でいっぱい、「おはよう」より先に「お菓子をあげましょ〜」が出て来る恭にお似合いのぽやぽや系お菓子の塊である。

クラスでは「前世は絶対『ヘンゼルとグレーテル』の魔女」と評判で風紀委員長の梓からは「なんで太らないのよ女の敵」と睨まれている。

ちなみに恭が白鶴拳を始めたのはご近所どころか本人の両親からも「こういう子が危ない大人にイタズラされる」とか言われ放題だった、このお隣に住む一歳歳下の幼馴染を守るためだったりする。


「というわけでこのみさんのイメージ料理『このみさんのスウィートグラタン』を作りたいと思います」

「おぉー」

「良いぞ良いぞ」

「もちっと奇をてらってもいいんだぜ?」


恭はマカロニを茹でながらソースに取り掛かる。


「ご存じこのみさんは女子というかお菓子なので、料理ながらそういうテイストを入れたいと思います」

「そなたら夜もスウィーティなのか?」


「……」

「うわぁ……」


口中くちじゅうに茹でる前のマカロニを詰められた百合から桃子は少し距離を取った。


「えー、まずホワイトソースの代わりにサワークリームとヨーグルトを延ばしたソースを用意します」

「クラッカーに付けて食いてぇ感じだな」


恭は茹で上がったマカロニの水気を切ると、ソースとえて耐熱皿に盛った。そして順当にシュレッドチーズを乗せると、


「グラタンってスプーンを入れた時に表面がサクッとしていると嬉しいよね」

「パン粉とか散らしてるアレですね」

「というわけでこれ、チーズスナックとコンソメポテトチップス」


恭はそれらを袋に入れて麺棒で細かく砕くとグラタンの上にまぶした。


「なるほど。チーズスナックはチーズ感の増強だとして、コンソメポテチでコクと塩味の増強を図ろうってハラだな? 考えるじゃねぇか」

「いや、昨日このみさんがコンソメポテチ食べてたからなんとなく」

「なんだよ!」

「あとはオーブンでいい感じに焼きます。スナック焦げ過ぎないように気に掛けてね」


グラタンが焼けるまでの間、三人は百合の口からマカロニを取り出しながら時間を潰した。

そして、


「焼けたよ」

「ヒャッホウ! 実食だぜ!」

「匂いはマトモですねぇ」

「マカロニ拷問とは酷いではないか!」


早速チーズの膜にスプーンを入れると、


「おっ、いいなこれ。チーズが伸びるってだけで食いもんは三割増で美味そうに見えるよな」

「あちっ、あちっ」

「うむ! チーズが濃厚にしてヨーグルトが甘く乳製品のコクが強いが、コンソメの塩味とサワークリームの酸味が上手いこと締めるではないか。これはサワークリームとヨーグルトを混ぜるバランスが出来栄えを分けるであろう」

「甘くし過ぎると重くなるからヨーグルトは控えめにしたけど、多分このみさんならヨーグルト多めにするんだろうね」

「どころかマカロニの代わりにマシュマロ入れるんじゃないですか?」

「恭……、死ぬなよ」

「なんでグラタンのコメントが僕の生き死になんだ……」

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