第2話 大分から山口の山の中に

親は心配するのが仕事?ホントかそれ?

そんな仕事いらないので、早く子離れして欲しい。


熊本からそのまま日本一周に出発しようと思ったが、

熊本から本州方面に向かうには途中に実家の大分がある。

ココで何も言わずに旅行に出たまま連絡しないと、これまた後で面倒そうだ。

実家に一泊してから本格的に出発することにした。


父親曰く…


「基本的に反対だ。しかしどうしても行きたいなら毎日必ず電話しろ!

もし電話がなかったら警察に連絡して見つかったら連れて帰る。」


は?


いやいや、俺は野宿に行くんだし、

それも林道などの山の中で泊まることもあるので、

毎日電話は無理。

電話がないところだってあるんだ。


「お爺ちゃんやお婆ちゃん、お母さんがどれだけ心配しているか分かってるのか?

たったそれくらいのことが出来ないのなら、最初から行くな!」


熊本で一人暮らしさせといて、毎日連絡求めないのに何だそれ。


こういうことは昔にもあった。

友人から自転車で遠出を誘われ、言わなきゃいいのに、夕飯の時間にポロっと話してしまった。その時の父親の反応が


「そんなことしてる暇あったら勉強しろ、遠出などダメだ」


しかし翌日、祖母にはちょっと街に行ってくると嘘をついて輪行を強行。

結果、途中脱水症状になり、距離が稼げず思った以上に時間がかかり帰宅は夜半、

途中の山の下りで派手にすっ転んで太ももを全面的に擦りむき


ズタボロになってしまったため嘘が露呈。


当然の如く父親からはこっ酷く説教をくらったが、疲れから意識は朦朧としており、

何を言われたのか全く覚えていない。

覚えているのは


「あそこから反抗するなんて、中々ホネがあるじゃん、見直したよ。」


という母親の言葉だけ。

笑顔で太ももを治療してくれた。


今回は母親はどんな顔をしているのか。

父親の向こうにいる母親を盗み見る。

なんだかニヤニヤしながらコッチを見ている。

ま、コレなら大丈夫かな。


不承不承、毎日電話連絡をすることに同意した。

相当面倒だと思ったが、

結果として野宿日本一周の企画を潰されなかったことには安堵した。


以前の例もあり、ダメだと言ってもどうせ勝手にやるのだろう、

それなら管理下においてやらせた方が得策だという、

父親の諦めの気持ちもあったと思うが、

これで親への仁義も通して正々堂々、出発できることになったのだ。


そんなこんなで、7月も終わりかけのよく晴れた暑い日に、

大分の自宅を朝早く出発した。


相棒のXLR250BAJAトンボくんは、キック1発で目覚め、とても快調である。

400ccクラスのビッグシングルになるとキックも重くなり、

キック1発では始動のきっかけ、

つまりピストンが上死点にきてプラグが発火するタイミングが1、2度くらいしかないので、


キックレバーを踏みつつ、

圧縮のかかり具合などを探りながらキックするテクニックも必要だが、

トンボくんの250ccでは困ったことがない。


オートデコンプが付いているからか、単に新しくて調子が良いからかは不明だが、

何れにしても始動で困ったことはない。


自宅は大分の北の端にあるため、九州脱出は造作もない。

関門海峡までは100キロもないのだ。せいぜい3時間である。

絵になるのは橋での海峡越えだが、関門橋は高速道路であり、

今回の自分ルールでは走れない。


下道である関門トンネルを使って山口県下関市に渡った。


実は山口県は道路の舗装率が非常に高い。

幕末薩長の流れから多く生まれた山口県出身の政治家が、

土建政策を重ねた結果こうなったと聞いたことがあるが

正しいところは知らない。


そんなことはどちらでもいいのだが、問題は未舗装の林道が少ないことである。

未舗装路走行は今回の目的の1つである。

電線のない夜空を見ながら独りで過ごす時間は素晴らしい。


少しだけ未舗装が残っているらしい秋吉台の辺りを今夜の宿と決めて、

山の方に向かった。

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