2.無双生首

 峠を越える細い道に入った時だった。急に林からむさい男たちがソフィーの前に躍り出た。

「お嬢ちゃん、朝早くからどこ行くんだい?」

「ひぃ! 山賊!」

 ソフィーは急いで逃げようと振り向くと、そこにもボサボサの髪をした不潔な男が剣を手にニヤニヤして立っていた。

「ひ、ひぃ!」

 ソフィーは真っ青になって動けなくなる。

「ほう、まだ青いが……結構な上玉じゃねーか。これは朝から拾いもんだな」

 リーダー格の筋肉質の男はソフィーに迫りながら言った。

「なに、コイツら? 倒しちゃっていいの?」

 上着のすき間から様子を見ていたシアンが言う。

「た、倒すって、できるの?」

「誰としゃべってんだ?」

 上着をのぞき込んだリーダーだったが、直後、ヒュンと地面の中へと落ちて行った。

「へ?」

 その場にいた誰もが目を疑った。

 すると、他の男たちの足元にも黒い円が広がり、次々とその円の中へと落ちて行く。

 ウワァァ、ヒィィィ、ぐわぁぁ……。

 森の一本道には山賊たちの悲痛な叫びがこだまし、穴が消えるとまた静けさが戻ってきた。

「これでヨシ! さぁ、行こう」

 シアンはうれしそうに言う。

「えっ? あの人たちどこ行ったの?」

「うーん、分かんない! きゃははは!」

 ソフィーは何と雑なやり方だろうかと気が遠くなったが、山賊の心配をするほど余裕がないのも事実だった。

 ふぅとため息をつき、山賊の無事を女神様に祈ると、またソフィーは緩やかな上り坂の一本道を歩き始めた。


        ◇


 峠のところにベンチが置いてあったので、ソフィーはそこにドサッと腰を掛け、

「ちょっと休憩させてね」

 そう言ってパンと水筒を出した。

「急いでないからゆっくり休んで。ふわぁぁぁ」

 シアンは大きくあくびする。

「あ、シアンも食べる?」

 パンを食べながら聞くと、

「うーん、お腹すかないんだよね。だってお腹ないからね。きゃははは!」

 と、笑えない自虐ギャグを楽しそうにかます。

 ソフィーは苦笑いするしかなかった。


 澄み渡る青空に穏やかな日差し。ソフィーは大きく息を吸って、王都に着いたら何をしようかとウキウキしながら考えていた。


 その時だった、向こうのやぶがガサガサっと動いた。

「え?」

 ソフィーが目を凝らして藪を見ると、緑色の肌をした小人が棍棒を持って何匹も飛び出してきた。

 そして、ソフィーを見つけると、ギャッギャッ! と鳴き声を上げながら駆けてくる。

 キャ――――!

 ソフィーはパンを放り投げ、逃げ出す。

 しかし、ゴブリンたちの方が足は速い。追いつかれるのも時間の問題だった。

「ふわぁぁ……。何? あいつら悪い奴?」

 シアンは緊張感のかけらもない声で聞いてくる。

「悪い奴! シアンお願いよぉ!」

 ソフィーは必死に駆けながら叫んだ。

「分かったよ! ソイヤー!」

 シアンがそう掛け声をかけると、にわかに空がかき曇り、暗雲が上空に立ち込め、雷鳴が響いた。直後、ビルくらいの大きさはあろうかと言う半透明の巨大なこぶしが漆黒の雲からニョキっと現れ、そのまま背後のゴブリンたちの上に落ちてくる。

 ギャッギャッ!

 ゴブリンがそう叫んだ直後、


 ブチュッ! ズーン! と嫌な音が響き、ゴブリンは緑色の液体をまき散らしながら潰され、緑色の魔石となって転がった。

 その様子を振り返りながら見たソフィーはゾッとして、

「ひぃ!」

 と、叫び声をあげた。

「これでいい?」

 シアンはうれしそうに言った。

 その時だった。今度は前方のゴブリンの群れが現れた。

「ひゃぁ!」

 ソフィーは急いで向きを変え、必死に逃げ始める。

 ギュァァァ! ギャッ!

 仲間を殺されたゴブリンの怒りはすさまじく、棍棒を高く掲げ、目を血走らせながら追いかけてくる。

「これはキリがないなぁ……。ん……?」

 シアンがそう言った直後、ソフィーの身体が緑色の光に包まれる。そして、そのまま一気に上空へと舞い上がったのだ。

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