■■■■〚殺し屋たちの競い場〛■■■■

 多少危ないところがあったけど無事、ターゲットに〚仕事〛を果たせた私達は拠点である〚カフェ〛に戻ってきていた。


「…それにしても今回は危なかったわねぇ、ルシア。…日頃からのイメージトレーニングが足りてないのよ。」


 オーナーの言葉にもちろん私はなにも言い返せない。


 今回、ココアがいなかったら私はターゲットに射殺されてたのは間違いない。


 …銃を持った相手の目の前でしゃがむなんて今思っても危険すぎる。


「…そんなに気にしなくていいよ、ルシア。そういうのをカバーするために僕たちは二人組なんだ。…今回はむしろ、お互いの仕事を果たせたと考えていいと思う。」


 落ち込んでいる私をココアが励ましてくれる。


「…あ…ありがとぉう…」


 特に悲しいことがあるわけでもないのに涙が出てきた。


 オーナーはそんな私たちを見て心なしな嬉しそうに笑った。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「…はっ!!…明日は〚キラー・トーナメント〛の日だったわ!!」


 さっきの軽いお説教から数時間後、カフェの立て看板を〚オープン〛から〚クローズ〛にしていると…オーナーが急に何か言いだす。



「〚キラー・トーナメント〛ってなんのことですか?」


 私はカフェの外からオーナーに問いかける。


 ココアも作業を止めてオーナーのところを見てるから、ココアも興味があるんだと思う。


「あぁ、あなた達二人はまだ知らなかったわね。これまであまり詳しくこの世界について話してこなかったけど、ついでに話しちゃおうかしら。…まぁ中に座って?」


 オーナーは私たちをカウンター席に座らせると話し始めた。


「私達〚死刑執行人〛は互いに裏世界で生きるため組織を作ったの。…組織の名前は〚キラーズ・マギア〛。〚キラーズ・マギア〛では組織の中でターゲットの情報を共有しあったりしてるんだけど、年に一度殺し屋の技量を競う大会があるのよ。…それが〚キラー・トーナメント〛」


 オーナーはいつの間にか自分の分だけコーヒーを用意していて、それを一口飲んでから続けた。


「私も昔は出たことがあるんだけどもう年だから最近は出てなかったし、申し込みが面倒だって言う理由であなた達を参加させてこなかったの。」


 …面倒だっていうのは百歩譲るとしてオーナー、あなたそんな年とってるわけじゃ

ないでしょうよ!!(心の中でのツッコミ)


「でも、最近はあなた達の力もついてきたし今年からあなた達が希望したら参加させてもいいかな~っと思っていたのだけど、すっかり忘れてたわ…」


 私はココアと顔を見合わせて「じゃあ今年の参加はさすがに無理か…」と呟く。


 …ところが!!


「いや、参加申し込みは前日の深夜まで…あと二時間ぐらいあるわね。だから、あなた達が参加したいって思うのなら今から申し込むけど…どうするの?」


 …大会前夜に参加するか否かってなかなかに唐突な話だけど……でも、


「オーナー、私、参加できるんだったら参加したいです!その…〚キラーなんちゃら〛っていうやつ。」


 私が恐るおそるココアの方を見るとココアもどこか目を輝かせて、


「…僕も参加したいです。」


 と小さく呟いた。


「じゃあ、決定ね。早速申し込んでおくわ………というわけで今日は明日に備えて、寝ないで訓練してもらおうかしら。」


 オーナーの言葉に命の危機を感じたレベルで血の気が引いた(気がする)。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 深夜のキツイキツイ特訓を脳死寸前で乗り越えた私は朝から頭がガンガンしているし、ココアも目がうつろですんごいボーっとしてる感じがする。


 今、私たちはオーナーが運転する車に揺られながら〚キラー・トーナメント〛の会場に移動している。


 オーナーが運転してるところなんて見たことが無かったから運転できるなんて知らなかったし、なによりも驚いたのはオーナーの愛車が渋い緑色の〚ジープ〛だったってこと。



 元々超一流の〚死刑執行人〛なんだからこういうミリタリーな車に乗っていてもなんら問題は無いんだけど、オーナーが女性ということもあってか違和感がすごい。

「さぁ着いたわ、ここが〚キラー・トーナメント〛の会場、〚キラーズ・コロッセオ〛よ。」


 車に乗ってから四時間、着いた場所は………


「…本当にここが会場なんですか?」


 …車を降りてあたりを見回すと大きなパーキングエリア、近くにある有名なショッピングモールの物だけど、〚殺し屋が腕を競い合う場所〛にしてはやけに目立つ。


「あぁ、ごめんなさい。正確に言えばここはまだ〚キラーズ・コロッセオ〛までの道のりに過ぎないわね。…久しぶりに来たことも相まってうっかりしちゃったわ。」


 オーナーが私たちを先導するように歩き始めるとそのうちショッピングモールの脇の路地裏に入っていった。


 私とココアもついていくけど、あたりの雰囲気は普通の路地裏。(路地裏になれている私達ぐらいにしか通じなさそう)


 少し歩くとそこにあったのはウチのカフェみたいな雰囲気がある〚喫茶店〛。


 中に入ると白髪の混じった男の人がいてオーナーに話しかけてきた。


「おや、コードネーム〚死神〛、来たのか。最近は中々来なかったから次会う時は君に命を狙われた時ぐらいかと思っていたよ。君の場合、参加すると言っても冷やかしの可能性もあり得るからねぇ。」


「えぇ、久しぶりね〚教頭〛まぁ参加するのはこの子たちだけど…。」


 オーナーの手招きに私たちは男の人の前に出る


 やせ型の体系に年齢は60歳ぐらい鼻まで下げた小さな眼鏡を通さずにオーナーを見る眼つきは優しいけど、なにか深いものがあるような…。


 オーナーを〚昔の名前〛で呼んでるんだからこの人も多分〚死刑執行人〛だ。


「…オーナー、この人は?」


 男の人を失礼なくらいジロジロ見ていたココアが、オーナーに聞いた。


「…彼はコードネーム〚教頭〛。もともと、とある高校の教頭先生と〚死刑執行人〛を兼任していた異常な経歴からこの名前を周囲がつけたのよ。…私も現役時代にかなりお世話になったわ。私にとっても本当に〚先生〛みたいな感じね。」


「君にそういって言ってもらえるとは嬉しい限りだね。」


 男の人…改め〚教頭〛さんは嬉しそうに眼を細める。


 …って、いやいや!!


 教頭先生が殺し屋やってちゃダメでしょ!?



 私の講義の視線は受け入れられることなく、オーナーが話を進める。


「じゃあ早速〚キラーズ・コロッセオ〛に案内してもらえるかしら?この子たちに早く現場慣れさせてあげたいのよ。」


 教頭さんはクレジットカードみたいな物をポケットから出してレジに通した。


『コードを承認いたしました。…モード・オープン。それでは戦いをお楽しみください。」


 暗い女の人の電子音声が聞こえてくると教頭さんのうしろの壁が左右にパカっと開いた。


 …そこに現れたのは…………エレベーター!?


「…このエレベーター、懐かしいわ。」


 オーナーが普段見せない、しんみりとした顔をしながら「さぁ乗りましょう」と言った。


 私達四人がエレベーターに乗ると『それでは、したへ参ります」っていうアナウンスが入った後、体が浮くような感覚と共にエレベーターが下に急降下する。


 三十秒ぐらい落ち続けて下の階に到着するとドアが開きそれと同時に「今度こそ、本当に〚キラーズ・コロッセオ〛よ」とオーナーが呟いた。


 ドアが開いた先に広がっていたのは、(私は通ったことが無いけど)学校の体育館の何倍も広い場所であちらこちらでピピピって音がしたり青白いライトが光っていた。


 真ん中にはボクシングのリングみたいなものがあってその中で二人の男の人がナイフで切りあっている…あれ?


「あのナイフ、やけに刃先が揺れているような…。」


「…動きを見る限り、ゴム製だね。」

 

 私のつぶやきに答えたのはここにきてからほとんど言葉を発していなかったココアだ。

 

「そりゃあもちろん、本気で殺し合いをさせたら無秩序で大変なことになっちゃうからねぇ」


 教頭さんが口の端を吊り上げながら、卑しい目をしたのを私は見逃さなかった。




 


 

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