第13話 戦い方 

 「ぎゃあああああああ」

 「あああああああああ」

 銃を構えていた兵士たちが悲鳴を上げ倒れていく。そのこめかみに、寸分の狂いなく彼等の撃った弾がめり込んでいる。後列に控えていた兵士たちがどよめく。


それでも、


「ひ、ひるむな! 俺たちの総大将が誰か忘れたのか! 撃てえ!」


という指令に動かされ、銃を撃ってくる。


また同じだ。俺の「リンク」で、飛んでくる弾を奴らそれぞれの額直前に瞬間移動させる。弾はその軌道のまま狙撃手のもとに帰っていく。また兵士たちが絶叫と共に消えていく。


二度同じ惨劇が起きたことで、指令を出していた者は目を見開き、口をパクパクとさせる。兵士たちも、消えゆく味方の遺体を目の前に動けなくなった。


「2人とも、一回ストップ」


インカムから隊長の声がして、俺たちは隊長の方を向いた。彼女は俺たちより更に高い位置から全体を見下ろしている。


「数を稼いで、とは言ったけど、最初から飛ばしすぎよ。銃を構えられてるって言ったの、聞こえてなかったでしょ。ちゃんと相手を見て。あっちも空中での動き方に慣れてきた。よほど戦慣れしているか、相当優秀な指揮官がボスにいる。もしくはその両方かな」


ダガーをくるくると弄びながら、エマは


「でもこのまま全員倒せば勝ちだよ?」


と言った。まだ興奮冷めやらない、といった感じだ。俺の手も、早く次の獲物を狩りたいと疼いていた。


隊長が指をさす。その先では、先ほどの鉄砲を持った隊が向こうに走っていっていた。


「あちらはいったん引いた。日本の歴史小説から来たボツキャラなら、この後降伏してくるか、作戦を練りなおしてくる。数に差があるから挟み撃ちされるか、別の奇襲かってところね」


と言い顎に手を当てる隊長に、俺は


「降伏されたって奇襲されたって変わらない。全員削除だ!」


と怒鳴る。


隊長は困った顔をした。


「それはわかってる。でも数が多すぎるのよね。なるべく二人には無傷でいてほしいの。ここは、先にボスを殺りましょう。それで総崩れ、ってパターンもあるわ。私がボスを特定してくるから、それまで待っててね」


「はあ!? 待つ!?」


思わずまた怒鳴る。


「隊長命令! すぐだから!」


と言って、彼女はボツキャラたちの方に上から飛んでいった。



「……僕、待つの嫌いだなあ」


ちらりとエマがこちらを見てくる。


 その時、前方から残ったボツキャラの半分もが一気に攻めこんできた。


「ああ、俺もだ」


エマと目が合う。彼は笑っていた。俺も笑っていたのだろう。


 向かってくる一団に、俺たちの方から突っ込んでいく。


その距離が近づいてきた瞬間、相手陣が散開した。右に、左に、下に、上に、そして俺たちを飛び越え背後に。「スカイハイ」を使いこなしている。


目の前のボツキャラに手をかけた間に、俺たちは四方八方を固められていた。球状になった兵士の檻に囲まれる。奴らは殺気を滾らせ、総出で俺たちに武器を突き付けてきた。


「王手」と言いたげな顔だ。


だが、



「ごめんね」



エマが笑顔でつぶやく。


次の瞬間、俺とエマは「リンク」で兵士たちの外側に瞬間移動した。


後ろで彼らの驚きの声を聞きながら、俺たちは開けた空をまっすぐ突っ切った。奥にボスを守るために残されたらしい兵士たちが、今度は長い槍を持って突っ込んできた。鉄砲は効かないと学習したか。


「鉄砲も槍も同じだ」


俺は走ってくる前列の兵士をすべて視界に収め、「リンク」させた。


後列の兵士のすぐ前に。


再び絶命の叫びがこだまする。兵士たちはお互いを槍で突き刺しあって倒れた。


「ひー君。ひー君がボス削除してきて。ここらへんの残りは僕がやる」


更にこちらに向かってくる残兵を前に、エマは心躍るのを隠せない様子で宣言した。


「俺がボス殺っていいのか?」


ニッと歯を見せて笑い、エマは言った。


「僕、数多い方が好きだから」


俺も笑む。


「了解。任せろ」


迫りくる一群を跳躍して躱し、ボスを探す。


それはすぐに見つかった。少し離れたところに、数人が固まっている。皆、先ほどまでの兵士たちより華美な甲冑を纏っている。突如現れた俺に、奴らはさほど驚かない。予想はついていたのだろう。ちらと上空を確認すれば、隊長の姿も確認できた。インカムから何やら言っているが、要はこいつがボスなわけだろう。


「ここは我々が!」

「お逃げください、殿!」


こちらに刀を抜く兵士たち。


その中で一人、座ったまま動かない者がいた。鋭い目つきをもち、気迫にあふれる男だ。


「ボスは手前か」


立ちふさがる奴らの刀をいったん避け、後回しにする。


動かないその男の前に降り立った。


男はおもむろに立ち上がる。


「小僧、名は何と申す」

「名? 柊だ」

「そうか、では柊」


男は腰から日本刀を抜く。陽光を受け、刀身がまばゆく目に映える。


「私が受けて立つ。ここでさらばだ」


周りの兵士が驚き、口々にボスを止めた。しかし彼は刀を収めない。


「話が早くて助かるよ」


そう言って、俺は一気に奴の首目がけてダガーを振った。


が、手ごたえが違う。


ダガーを刀で受けられたのだ。「スカイハイ」を使った自分の速さについてこられた奴はいつぶりだろうか。


男はにやりと笑い、そのまま刀を振った。


強い力だ。


跳ね返される。


が、すぐに静止し、もう一度奴に迫る。男もこちらに跳んでくる。すっかり「スカイハイ」の扱いを覚えたようだ。


刀が振りかざされる。俺もダガーを振り上げる。どちらが早いか。一発勝負というわけだ。



ざくっ



刺さった。



男のうなじに俺のダガーが。



「さらばだ」



そのままダガーを横に引く。血が噴き出し、男は文字となってゆく。


正面から勝負などせずとも、「リンク」で背後にさえ回れば、相手が誰であろうと俺の勝ちなのだ。


男の体が傾き、文字になりながら地面に落下していく。周りの兵士たちがその男の名を叫び、俺に強烈な殺気を向けた。雄たけびを上げ一斉に斬りかかってくる。


俺はゆっくりと天を仰いだ。



「空気が澄んでる」




「ねえ! 待ってて、て言ったじゃん! 途中からインカムの指揮も全部無視だし!」


全ボツキャラ削除後、隊長はまた怒っていた。俺たちはかすり傷程度しか負わずに済んだのだが。


「相手にボスの死という動揺を与えれば、より安全に任務ができたでしょ? あんな数相手にしたのはさすがに初めてなんだし、もうちょっと自分の安全も考えてよ!」


「ごめんって~」


額の前で両手を合わせ、エマは苦笑する。


「初めてだったからこそ、興奮したというか、楽しかったというか……」


「楽しくても無茶しちゃダメ! 柊も! エマを一人にしたら、エマに『リンク』使えなくなっちゃうんだから!」


「……悪い」


 その後も隊長の説教は暫く続いたが、内容はあまり覚えていない。いつも同じことを言うし、別にいいだろう。隊長が言いたいのは指揮を聞け、無茶するな、の2点だけだ。


 説教時、エマはしょげているが、一度寝たら忘れるタイプなので改善されない。俺は戦果を出せているのだからいいだろう、と思っているので改善する気もない。


 要するに、白虎隊の戦い方はこれからも変わらないだろう、ということだ。




あとがき

私文系なのですが、日本史も世界史も大嫌いでした。知るのは好きだけど暗記は嫌い。ですので、今回必死にネットで調べました。大丈夫かな……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る