第六章 chapter6-6

「あのドアを出ればみかさの待っている車まですぐなんだね?」

「うん、あの扉から出られるはず……なんだけど」


 私は雪声に確認をしたが、目の前にある扉の前にいる男の姿に通路の両端の柱にそれぞれ屈んで隠れながら顔を見合わせる。

 通路の先にはどこかで見た顔、私のことを誘拐したファビオの姿があった。


「あいつは……、性懲りもなく……」


 先ほど気絶させたはずのその姿を見て雪声は歯ぎしりをする。


「……雪声?」


 自分に起きたことの記憶がない私には雪声が憤っている理由がわからずに困惑していた。


「あいつが桜夜のことを浚ってここに連れてきたのよ。さっき気絶させてやったはずなのにまたいけしゃあしゃあと……」

「で、でもそれは雪声の身代わりだったらからで……、決して私の事を浚おうとか思ってやった事じゃ……あれ?」


 そこまで口にしてから自分の言葉の違和感に気がついた。


「ひょっとして、雪声は私の事をそこまで心配して……?」

「そ、そうじゃないわよ……。いや心配してない訳じゃ無いけど……」


 自分でも何を言ってるのか判らなくなった雪声の言葉は別の方向から遮られた。


「あーあーお嬢ちゃん達、そこに隠れているのはわかっているんだ。おとなしく出てきてくれたらお兄さん嬉しいんだけどね」


 扉の前に立つファビオが二人がいることをわかっていると声を掛ける。


「まー出てこなくてもいいんだけど、その場合はちょっと手荒いことをしなければいけないかもしれないんだ。出来ればそれはしたくないんでね」


 手にした拳大程の物を弄りながらファビオは二人に言葉を続けた。


「あれは……手榴弾?」


 雪声はさすがにアレを投げられてはどうしようもないと諦める。


「動いたらきっと活路も見えると思うし、それに……」


 そこまで言って雪声は立ち上がりファビオに向かって話しかける。


「あなた達の目的は私なんでしょう?桜夜は関係ないはず、だから彼女だけでも……」

「雪声!!何を言って……」

 雪声のその言葉を聞いて私も思わず立ち上がる。


 二人がいるのを確認するとファビオはおもむろに手にした手榴弾らしき物に手をかけた。


「桜夜!!」


 雪声は私のことを庇うように押し倒したが、想像したような衝撃はいつまで待ってもやってこなかった。


「取りあえず信じて貰おうかと思ってな、手にしたこれはただの缶ジュースさ。遠目には手榴弾に見えたかもしれないけどな」


 そう言ってファビオは飲み終わった缶を投げ捨てる。

 足元に転がってきた缶を見ながら雪声はファビオが何をしたいのか、その真意が読めなかった。


「……一体何がしたいの?私達の邪魔をしたいならもっと違うやり方を取りそうだし……」

「ん?お兄さんは邪魔しようだなんて思って無いよ。単に君達に無事に逃げて欲しいと思ってるだけだよ」

「なんで?そんな事をするの?信じられない、少し前まで私の事を浚おうとしていた癖に……」

「理由はちょっと言えないけどね、信じて貰えないなら、これで信じて貰えるかな?」


 ファビオはそう言ってポケットから携帯電話を取りだし、通話ボタンに指をかける


「じゃあノエル、さっき言ったとおりに頼むよ」

『本当にいいんですか?兄貴……、どうなるかわからないですよ』

「まぁ、後は何とかなるようになるさ」


 ファビオはそう言って携帯電話を持ったまま両手を上に上げて見えるように通話ボタンを切った。

 そしてその瞬間、離れた所で声が聞こえてきた。


「侵入者は向こうに逃げたぞ~、みんな来てくれ」


 遠くから聞こえてきたのはノエルの声で、今いる場所から他の人間を引き離そうとしているかのようだった。


「まー取りあえず今はこれで信じて貰えると嬉しいんだけどね」


 ファビオはそう言って自分の後ろにある扉を開けると、二人に道を譲るように脇へとどいた。


「桜夜……どうする?」

「わからない……でも、今ここでこれ以上疑っても仕方ないし、今は信じても良いんじゃないかな?って思うけど……」

「それはそうなんだけど……」


 まだいぶかしがっている雪声の手を私は取って歩き始める。


「ちょ……」

「こうしてても仕方ないって、行くだけ行ってみよう」


 そして私はまっすぐにドアまで歩いてく、隣に立つファビオが何かをしてくるかと雪声は身構えるが何もせずに通り過ぎることが出来た。

 意外な程あっさりと何も起こらずに扉までたどりついた。

 あまりのあっけなさに二人の方が逆に拍子抜けしてしまった。


「それじゃあ、また縁があったらなお嬢ちゃん達」


 そう言ったファビオが扉を閉めてロックする音が聞こえた。


「雪声、それでどっちに行けばいいの?」

「それは……こっちよ、ついてきて」


 雪声はそう言って走り始め、それに私はついていった。

 先を走る雪声の足が凄く軽やかに私には思えたのだった。

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