第二章 chapter2-4

「結局、昨日は殆ど何も判らなかったね」

「話がなんだか妙な方向に進んじゃったしね」

 私とみかさは登校する途中からため息を吐き合っていた。

 しばらく二人は無言で歩いていたが、横断歩道の赤信号で歩を止めたタイミングで揃って声を上げた。

「「そ、そういえばさ……」」

 声が重なりばつが悪そうに二人は話を続けるのをやめる。

「あはは」

「みかさの方からで良いよ。私のはそこまでたいした話でもないし……」

「私のもそこまでたいした話ではないと思うけど……。雪声さんってさ、どこかずれてると思わない?昨日話して思ったんだけど……」

「みかさもそう思った?実は私が話そうと思ったのもそれに似た様なことなんだよね。芸能人だからなのかな」

「少し雪声さんは取っつきにくい感じはあるけど……、そういう話でもないと思うんだよね」

「私がどうかしましたか?」

 二人は登校途中の生徒がまばらに待っている交差点で青になるのを待っていた。

 そして二人が青になった信号を見て歩き出したところで突然、話題にしていた雪声本人が後ろから話しかけてきた。

「おはよう」

「お、おはよう」

 まさか雪声の方から話しかけてくるとは思わず、二人はうわずった声で返事を返した。

 明らかに挙動不審に見えたが、当の雪声自身は意にもかいしていないように見えた。

「……桜夜、今日は良い天気ね」

「そ、そうね」

 突然雪声に天気のことを話題にされて私は面をくらいみかさと顔を見合わす。

「そ、そうだね。確かに今日は良い天気ね、だよね、みかさ」

「そうだね。桜夜ちゃん」

 どう返して良いか判らなかった二人はそう返すが、その二人を見て雪声は不思議そうに聞いてくる。

「一般的な話題をしてみたのだけど、何かおかしかったですか?」

 まじめな表情でそう聞いてきた雪声に、二人は吹き出してしまう。

 先ほど話しておいたどこかずれた程度ではない何かがそこにはあった。

「待って雪声さん、それは真剣にそう言ってるんですか?

「はい、何かおかしいですか?」

「おかしいっていう訳じゃ無いけど……、あ、でもいきなり朝会っていきなり天気を聞いてくる人を私はあまり知らないかな」

「では桜夜は普段どういう事を話しているんですか?」

「……普段?」

「はい」

 真顔で聞いてくる雪声に私は改めて困惑する。

「改めて聞かれると困るけど……、例えば昨日見たテレビの話だったりとか、好きなアーティストの話とか日常の話とか……」

「日常の話ですか……、じゃあさっきまで二人はどういう事を話していたんですか?」

「え、そ、それは……」

 さすがに先ほどまで話していた内容を話すわけにもいかず、慌てて何とか誤魔化して話題を変えられないかと必死に考える。

「そ、そういえばなんで今日は雪声さんの方から声を掛けてきたんですか?珍しいですね」

「あなたの姿を見つけたから、それだけです」

「え、えーと……」

 にべもなく返された言葉に、再び私は言葉に詰まる。

 さすがにこれでは話が進まないと感じたみかさが二人の間に割って入る。

「そ、そう言えば何で雪声さんは転校してきたんですか?自己紹介の時も特にそれには触れなかったですし……。私、気になります」

「私が転校してきた理由?そんな事を聞いてどうするの?」

「え、えーと、雪声さんともっと仲良くなりたい……からかな?」

「それを聞けば仲が良くなるの?」

「絶対になれる訳じゃ無いけど……」

「仲良くなれないのに仲良くなるために転校理由を聞くの?」

 からかう様子でもなく、真剣に聞いてきた雪声にみかさは困惑する。

「仲良くなれないかもしれないけど、仲良くなろうとしてるって事よ」

 みかさが間に入ってくれたことで、余裕が持てた私が今度は会話に割って入る。

「つまり可能性を増やすということ?」

「それが近いかな」

「……普通の話題ってこういう事?」

 私には昨日話したときとは違い、雪声が必死に何か話題を作ろうとしてるように見えた。

「なんで雪声さんは今日私達に話しかけてきたの?昨日までと違って随分積極的に見えるんだけど」

 聞きながら『話すべき事もないのに』という最後の言葉を私は飲み込んでいた。

それは……そうする必要が出来たから」

「そうする必要?」

「……あ……、なんでもない……」

 雪声の言葉が気に掛かりはしたが、俯いた雪声を見てこれ以上聞いても返事は返ってこないだろうと思い、私は話題を切り替えた。

「さっきもみかさが聞いたけど、私達も雪声さんともっと仲良くなりたいから雪声さんのことを知りたいと思ったんだよ。だから何か雪声さんのことを聞かせてもらえないかな?昨日私の事を聞いたんでしょ?その代わりにって事で」

「……私自身のこと?」

「そうそう、アイドルじゃない雪声さん自身のこと、ダメかな?」

 そうこうする内に三人は校門までたどり着いた。

 私の言葉を聞いてどう答えるか考えている雪声を見て私はこう言った。

「昼休みにお昼を食べながら話すって事でどうかな?嫌だったらその時に言って貰えればいいから」

「……考えさせて貰うわ」

「じゃあ昨日と同じ場所で私達は待ってるから」

「判った……」

「よろしく、そういえば気になっていたんだけど雪声さんっていうのも余所余所しいから雪声って呼んでもいい?雪声さん私の事も名前で呼んでるし」

「……構わないわ、好きに呼んで」

「ありがとう、それじゃこれからよろしくね、雪声」

 私は雪声の背中をそう言いながら軽く叩くと、校舎へと入っていった。



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