ローマでお買いもの!(第七部)

第二十五章 きらめき

水しぶきを上げて、たくましい男の腕がプール・エンドにタッチした。

男はプールをはい上がり、水をしたたらせてデッキチェアーの所に近づいてくる。


さゆりはイエローのビキニから長い手足をスラリと伸ばして、デッキチェアーに横たわっていた。

中央に寄せられた水着から、バストの谷間が見え隠れしている。


男に微笑みながら起き上がると、テーブルに置いてあるジュースを手渡しながら言った。


「上手なのね、泳ぎ・・・・。

あとで、私にも教えてね」


男は女の水着姿を眩しそうに眺めながら、ジュースをうまそうに飲んだ。

今日はどこにも出かけず、ホテルでゆっくり過ごす事にした。


ジムで汗を流し、スカッシュをしたあとプールに来ている。

やはり身体を動かすと気持ちがいいと、男は思った。


「そういえば高田さん達、どうしているかしら。

まったく不思議なオジさんよね。

ただのスケベかと思ったら、あんなに泳ぎはうまいし。

イタリア語だってペラペラなんだもの」


ストローをもてあそびながら、さゆりが言った。


「でも考えてみたら、卓也さんも最初はひどかったもんね、ふふっ」


さゆりは何やら思い出して、一人クスクス笑っている。

男は顔を赤らめると、倒れるようにしてデッキチェアーに横たわった。


女は男を見ながら、まだ楽しそうに笑っている。

男は手を頭に組み、感慨深げに言った。


「そーだなあ、もし高田さんや広子さんがいなかったら、

こうして二人でプールサイドにいるなんて事、なかったろうな・・・」


「そうよー・・・・。

私だってあんなサングラスかけてオールバックのヤクザみたいな男の人なんて

ごめんだったわ・・・。

しかも、あのスーツの色・・・」


さゆりは又、声をあげて笑い出した。

目から涙がにじんでくる。


男は顔を赤くしながらも、女を愛しそうに見つめている。

本当にそうだ。


よく、この天使の心を手に入れられたものだと思っている。

高田に、広子に、イタリアの神様に、感謝したいと思った。


今度、教会に寄ってゆっくりお祈りしようと思った。

そして、この二人の旅が終わるまで、自分をまだ元気にしていてくれと願う。


卓也の真剣な眼差しに気づいて、さゆりは笑うのをやめて見つめ返していた。

プールの中の嬌声が館内にこだましている。


午後の日差しが強く照らし、水面に白いループを幾つも作っている。

ローマ、三日目の午後はプールサイドで過ごしている。


室内プールの暖房が二人を暖かく包み込んでいた。

二人は手をとったまま立ち上がるとプールに向かって歩いていき、ゆっくりと身体を沈め泳ぎ出した。


水面のループが小さな光に散乱しキラキラと輝かせている。

女の黄色い水着が水の色を通して、薄いグリーンに変わる。


無数の空気の粒が女の身体にまとわり付いている。

男はゴーグル越しに女を見つめながら、後ろを泳いでいく。


あとわずかに残された時間を惜しむように、卓也は生きていく。

たとえ死んでもこうしていつも、さゆりを追いかけていきたいと思った。


明日はどこへ行こうか。


そう思うと、男はフッと水の中で微笑みを泡にした。

どこへ行こうと、女と共にいるのだ。


どこでも良い。

こうして女の後ろをついて行ければ。


女は水の中で立ち上がり、ゴーグルを取って白い歯をこぼした。

横からの日差しが女と水を照らし、キラキラ輝かせている。


水に濡れた短い髪が女の頬にまとわりついている。

男はゴーグルを外さずに女を見つめていた。


自分のうろたえた瞳を見せたくはなかった。

今さらながら女の美しさに震えている自分を。


今度は男が水に潜り逃げていった。

女は頬を膨らませると、ゴーグルをつけ男を追いかけた。


ローマ、三日目の午後が楽しく過ぎていく。

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