第22話 最後のお別れ(3)人形

 翌日、畑中家の葬儀は執り行われ、夢運は無事にお骨になって両親と家に帰った。

 蒼龍と向里はそれを見送りながら話をしていた。

「まあ、無事に終わって良かったな」

「そうだな。報道陣の数は凄かったけど、今日は中に侵入してくるやつもいなかったし」

「ああ。遺族があんまりだ」

 そう言い、しばらくぼんやりとする。

「出なかったよ」

 向里が言うと、蒼龍もそれが何なのかはすぐにわかった。

「そうか」

「あいつが次に出る場所がわからんな」

 嘆息する向里に、やや迷ってから蒼龍が言う。

「魂魄鬼については本山も躍起になってる。それで、罠を張っておびき寄せられないものかと考えてるんだけど、どうすれば罠を張れるのかがわからないで困っているそうだ」

 向里はそれに苦笑し、

「それがわかればなあ」

と言ってから、真顔になった。

「待てよ。もしかして、俺がエサになれるのか?」

 蒼龍は眉をひそめた。

「……危険すぎるだろ」

 向里は蒼龍を睨んだ。

「お前」

「教えたらそう言うだろう?」

「当たり前だろう」

「だから言わなかったんだ」

 向里は無言で蒼龍をじっと見、それに耐えかねたように蒼龍が口を開く。

「うまく行くかもわからないのに、死んで囮になるとかおかしいだろ」

「やっぱり、囮は死体になるか」

「魂をコレクションしたがる以上は、そうだろう?」

「死んで、それで魂魄鬼が来なかったら、ただの死に損だもんなあ」

 2人は揃って溜め息をついた。


 青年は、公園のベンチに座って遊ぶ子供達を眺めていた。

(あの子は大きすぎる。あの子はちょっと好みじゃない。あの子は泣きすぎる。

 ああ。あの子は好みだったけど、惜しかったなあ)

 人形遊びをしたくて手に入れた女の子を思い出す。

 小さい頃、女の子とばかり遊んでいるのを心配した両親や祖父母に女の子と遊ぶのを禁止され、男の子と遊ぶように強制された。

 しかし彼は、鬼ごっこやミニカーに楽しさは感じられず、ままごとや人形遊びに興味があった。

 クリスマスプレゼントで、彼はラジコンカーを貰ったが、それよりも姉が貰った大きな人形が羨ましかった。

「いつか自分で人形を手に入れよう」

 そう彼が決心したのはその頃だ。

 彼が高校生の頃に祖母が亡くなり、大学生の時に祖父も亡くなり、続いて父も亡くなった。

 それで彼は思い切って人形を買ってみたが、思うように動かないし、硬いし、冷たいしと不満で、子供の頃に遊んでいた人形はもっと素晴らしかったように思えた。

 そこで、暖かくて柔らかな素材を使って、好みの人形を作る事にした。

 学校帰りの子供を車に引きずり込み、家に連れ帰ったのはいいが、うるさいし、泣くし、逃げようとする。なので、黙らせたら動かなくなった。だから関節で切断して操り人形にしたのだが、だんだん硬く、冷たくなった。その上、色も悪くなってきたので、新しいものを作ることにして捨てたのだ。

(ああ。あの子なんていいなあ。逃げる事もなさそうだし、軽そうだし。

 うん。小学生はちょっと重かった)

 彼はベビーカーの乳児に目を留めていた。

 母親は近くにいたが、上の子であるらしい男の子がジャングルジムから落ちたのであわてて駆け寄り、ベビーカーの方を見る人はいなくなった。

 それをチャンスと、彼は素早く立ち上がってベビーカーに近付いて行った。

 そして、中の乳児に手をのばす。

「あ!?何をしているんですか!?」

 ママ友なのか、ほかの女性に見つかり、彼は焦った。そして、公園を飛び出して行く。

 飛び出したが、運悪くそこで作業をしていたクレーンにぶつかり、力なく地面に叩きつけられる。そしてその上にバラバラとガラス板が降り注ぐ。

 頭、足、腕が切断されて即死に近い死ではあったが、彼は確かに見た。自作の人形第一号である畑中夢運が自分を見下ろしている姿を──。


 その数日後、向里は全ての有給休暇をまとめて取りたいと申請を出した。







 

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