第2話 ここはラノベの聖地なのか 大吉堂・後編 

 本日の目的である『俺の足にはえらがある』は無事確保した。『絶望同盟』という、なかなか興味深い作品も確保したことだし、『ガンパレード・マーチ』の44巻セットも見られた。この時点で充分満足している。しかし、大吉堂の棚はまだまだ続くのである......


 アニメノベライズ棚の左横はSF中心。新井素子のコバルトシリーズ作品が並んでいる。『星へ行く船』シリーズに『いつか猫になる日まで』、『扉を開けて』もある。これらを他のコバルト文庫が並んでいるところでなく、SFを集めた棚に並べているのがいいね。


 60~70年代のSFもたくさんではないが、それなりにある。古書店では定番の筒井康隆がたくさんあるのは当然。昨年ドラマ『日本沈没』で話題になった小松左京の本も、少しだがある。小松左京は長編作は今でも出版されているが、短編集はそれほどなくて、古書店でもなかなか見かけない。豊田有恒なんかもあるが、これは懐かしい。父親の本棚に『タイムスリップ大戦争』なんかが並んでいて、中学生くらいのときに読んだはずだ。表紙が和田誠のイラストで味わいがある。平井和正『狼の紋章』に、眉村卓のジュブナイルSFも並んでいる。眉村ジュブナイルは私のコレクションの対象だが、並んでいる角川文庫のものはすでに持っている。コバルトシリーズから出版されたものがあれば欲しいのだが、なかなか見かけない。


 80~90年代のSF作品もなかなかのもの。火浦功や岬兄悟、笹本祐一、菅浩江の作品などが結構ある。それら以外にもソノラマ文庫の高千穂遙『クラッシャージョウ 連帯惑星ピザンの危機』(緑色の背表紙!)や斉藤英一朗『ハイスピード・ジェシー』シリーズなんかもある。どちらもソノラマ文庫を代表するスペースオペラといっても良い。私も中高生の頃には、ずいぶんと楽しませてもらった。それにしてもクラッシャージョウはハヤカワ文庫に移って、現在も続いているのだからすごい。


 残念なのは、草上仁や東野司がないことか。草上仁の短編はSFマガジンによく載っていて好きだった。短編集は表紙が吾妻ひでおだったり、横山えいじだったりでこれも好きなイラストだった。東野司はやっぱり『ミルキーピア』シリーズだろう。ネットに意識を潜らせて、そこで探偵活動をするような内容だったはず。第1巻はネット上の架空キャラクターがサーバーから家出するという、今でも充分に通用する斬新さだった。ブックオフや一般の古書店でもあまり見かけないこれらも、見つけたら買いたいと思っている。海外SFもそれなりに並んでいるが、こちらは興味がないのでパスだ。


 SFの次は、少しばかりのホラーがあって、ミステリがこれまたたくさん並んでいる。創元推理文庫の日本人作家作品がしっかりと揃っている。これだけ揃っていると、あの独特のクリーム色の背表紙がよく目立つのである。ラノベ好きとしては、谷原秋桜子の『美波の事件簿』シリーズが揃っているのを見逃さない。もともと富士見ミステリー文庫でスタートしたシリーズだ。


 富士見ミステリー文庫は「存在自体がミステリー」などと揶揄されていた、ミステリー文庫なのにミステリー作品が少ないライトノベルレーベル。2000年から2009年までの出版で、途中からミステリー路線はやめてしまい、青春・恋愛路線になった(これは帯にでっかくL・O・V・Eと書かれていたことから、ラブ寄せと言われている)。桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』は、最初は富士見ミステリー文庫から出版された作品だったというのは有名だろう。


 ミステリーもそれなりに読むが、それほど詳しくないのでタイトルに反応するものはそれほどない。京極夏彦や森博嗣なんかが並んでいるが、いまいちよくわからないのである。江戸川乱歩作品がそれなりに揃っているのや、横溝正史作品はちょっと少ないとわかるくらい。珍しいところでは、創元推理文庫版の辻真先『仮題・中学殺人事件』がある。2020年の『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』で、国内のミステリーランキング1位を取るなど、御年90歳にてまだまだ現役バリバリ作家のデビュー作品だ。これも元はソノラマ文庫から出ていたはずだ。


 ミステリーの棚で大吉堂の主な棚は終了。いやもうタイトルを眺めるだけでもお腹いっぱい。残る真ん中の島には一般書籍やアニメ・ライトノベルに関する雑誌やムックが並んでいる。今回は文庫を求めてきているので、この辺はサラッと流す。100円均一のコーナーもサラッと流す。ここにはライトノベルはなさそう。あとは委託ボックスのみだ。


 委託ボックスは大吉堂ではなく、他の書店や個人が間借りしているスペース。30cm四方の棚に本だけでなく、CDや手作り雑貨のようなものも並んでいる。実はお店に入ったときから、目に入った本があった。左上の棚に並んでいるそれは、1冊だけ表紙を向けて飾られている。その本が石津嵐『宇宙戦艦ヤマト』だった。


 1969年生まれの私にとって、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」は小学校低学年のときにブームになった作品だ。父親が好きで、人類絶滅の日まであと◯〇〇日という、最後のナレーションの日数を当てるゲームを親子揃ってやっていた。当たると10円くらいの小遣いがもらえるというものだ。映画「さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち」もTV放送でみて、それなりに感動した。アンドロメダの拡散波動砲がかっこよくて、バンダイからでていた100円プラモなんかもよく買っていた。でも、そこで終わっていればよかったのに「宇宙戦艦ヤマト 新たなる旅立ち」が放送。しらけてしまった記憶がある。世の中の流れも、ヤマトより999といったところだったろうか。その後の、「機動戦士ガンダム」の大ブームで、愛やロマンを語る「宇宙戦艦ヤマト」はさらに古臭いものとなってしまった。


 というわけで、「宇宙戦艦ヤマト」にはそれほど思い入れはない。なので、コバルトシリーズから出ていた、若桜木虔『宇宙戦艦ヤマト』シリーズには心はときめかない。しかし、石津嵐『宇宙戦艦ヤマト』はちょっと違う。


 もともと『宇宙戦艦ヤマト 地球滅亡編』と『 宇宙戦艦ヤマト 地球復活編』の2冊で朝日ソノラマからハードカバーで出版されたもの。著者は石津嵐で、原案が豊田有恒。発売日は『地球滅亡編』が1974年10月20日、『地球復活編』が1975年2月3日とのことだ。1974年10月というとTVアニメ放映開始とほぼ同時であり、地球復活編が発売された時はまだ放映終了前ということになる。アニメ、マンガ、小説と同時進行であったようで、メディアをミックスして展開されていたということだ。


 内容も豊田有恒が原案ということで、企画段階で没とされた案を元に構成されているらしい。アニメ版と全く違うようで、スターシアが〇〇○〇〇○で、デスラーは〇〇○〇、キャプテン・ハーロックが登場する等など。Wikipediaに記載されている内容を見る限り、”愛とロマン”よりモロにSFっていう感じなのである。これら「地球滅亡編」と「地球復活編」を併せたものが、1975年ソノラマ文庫からレーベルの第1巻目として発売。アニメ自体も社会的な影響を与えたが、ソノラマ文庫のこの「ヤマト」も影響は大きかったようで、ソノラマ文庫ではSFが大きな柱になったとのこと。このあたりについては、作家早見裕司(現・早見慎司)の「ジュニアの系譜」というサイトが詳しい。


 このアニメと全く違うという、石津嵐『宇宙戦艦ヤマト』の話は以前から聞いていた。一度は読んでみたいと思っていたが、なかなかのプレミア価格で手が出なかった本だ。こちらでは、はたしていくらなのだろうか。値札を見る、500円。うむ、ぎりぎり出しても良い金額だ。メルカリだと結構安く出ることもあるが、ヤフオクやamazonなんかだと、1,000円を超えることが多いのでこれは安いと言えるだろう。買いだ。


 それにしても他の委託ボックスは一般書籍が多いのに、この左上の棚だけライトノベルが充実している。『紫色のクオリア』に『旅に出よう、滅びゆく世界の果てまで。』、『食前絶後くうぜんぜつご』なんてのもある。どれも名作単巻ラノベとして、よく名前が挙がる作品だ。もちろん私も持っている。それ以外にも眉村ジュブナイルにソノラマ文庫の菊地秀行の初期作品、『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』は富士見ミステリー文庫版と角川文庫版が並んでいる。なかなか分かっているな。右上についているPOPには、しいたけ堂とある。これは私と同じく、ラノベマニアなんだろうな。


 しかし、今回この委託ボックスで買うのは、『宇宙戦艦ヤマト』だけだ。興味深いものもあるけれど、まだこのあとに立ち寄るところもある。いずれまた来たときに検討しよう。本日の購入は『絶望同盟』『俺の足にはえらがある』『宇宙戦艦ヤマト』の3冊、合計で1,150円。会計は奥に行って支払う。そこで店主と色々と話すことになったが、このあともまだ行くところがあるので、そこそこに切り上げた。多分、ここにはいずれまた訪れるだろう。


 DATA

 大吉堂

 〒545-0021 大阪府大阪市阿倍野区阪南町3-12-23

 営業時間:11:00 〜 19:00、不定休

 地下鉄 御堂筋線 昭和町駅4番出口より徒歩10分

 阪堺電鉄 東天下茶屋駅より徒歩10分


※登場する書籍や値段は、私が訪れた時の記憶に基づいています。在庫や値段は古書店なので変化している場合がありますので、ご注意ください。

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