第2話 郡山合戦

気が付くと、目の前には甲冑武者がいた。

「え!?」

だが、彼らの悠月の姿は見えないようだ。

甲冑武者たちは悠月の前を素通りしていく。

貫通していくものもいる。


「なんか、変な感じだな……。ドラマの撮影ってわけじゃなさそうだ。そもそも、登山中に目の前が真っ暗になったら甲冑武者がいるっておかしな話だし」

甲冑姿を見ていながら、うーんと唸る。

立派な甲冑を身に着けた男がいた。

「もしかして、これは戦国時代にタイムスリップしてるのかね?」

答えは出ないが、一応見守ろうと思った悠月である。


「あれは……、毛利元就か!?」

傍に控えた男は恐らく宍戸ししど隆家たかいえだろうか。


ちなみに、宍戸隆家は、毛利元就の次女、五龍ごりゅうのつぼねの夫である。

元々は毛利家も宍戸家も安芸の国人として争っていたが、隆家と五龍局の婚姻を機に隆家は元就に仕えるようになったという。

宍戸家は、毛利家臣一門衆でも筆頭格とされているほどだ。


「隆家、五龍城ごりゅうじょうの守りはいかがとなっておる?」

「はっ! 五龍城は祖父が留守居をしておりまする」


五龍城は、吉田郡山城から少し離れたところにある山城だ。

まだ、足を踏み入れたことはない。

だが、知人によるとなぜか鹿の角らしきものが落ちていたのを目撃した、という話を悠月は聞いたことがあった。

山、というよりは森に近い印象であった、と知人は言っていたことを改めて思い出す。

そして、吉田郡山城登城後に五龍城に向かったが、五龍城の敷地内には宍戸神社という物があり、そこを参拝しただけで体力的な限界で撤退した、と語っていた。


「うわっ、あちっ!」

よく見ると、火が放たれている!

所謂火刑、というやつか……。としみじみ思ってしまう。


「ああ、尼子あまご方が……、って、尼子方!?」

つまり、この場はやがて合戦状になることを示している。

「熱さがヤケにリアルだし、ここにこのままいたら、巻き込まれそうだな……」

悠月は身を隠そうとしてどこにいるべきか悩む。

「いや、だが元就ははかりがみだ! どうするか見守ろうか」


元就は采配を振るう。

そして、最初に多治比川を渡って突進させた足軽30人程度をすぐに退却させた。

「撤退するか! 臆病者めが!」

尼子軍は追撃をかけようと追っていく。


「なるほど、誘引しているんだな……」

ふむふむ、と悠月は頷いた。

確かに、毛利元就の策ならそう言ったものはお手の物だろう。

「となると、誘引された尼子勢は伏兵にやられる、というのがセオリーかね」

悠月の言う通りだった。

毛利家臣が茂みから出て、誘引された尼子勢を攻撃している。


罠に陥った尼子方は、高橋元綱や本城信濃守らを含む数十名が討死する。

「敵を討ち取ったぞ!」

尼子方は敗走していく。

毛利方の勝鬨の声が勢いよく湧き上がった!


戦いは城の南西付近で行われたが、同じ日には城の南側正面にあたる広修寺や祇園の縄手でも激戦が繰り広げられている、と史実で伝えられている。

いずれも尼子軍は撃退されており、風越山の尼子本陣に撤退している。


「だが、郡山合戦はこれで終わらないんだよな……」

その通りである。

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