第8話 河原の猫耳少女

宿の窓から外を眺める。

元ジェレイン大公国の王都なので遠くに城が見える。

今は役所などが集まる総合施設になっているらしい。

宿の目の前には、都市の中央を横断するように流れる川が見える。

川に沿うように花が植えられていたり、アーチ状の橋がかかっていたりと映える街並みだ。

建物の形や色合いはグランと変わらないが、心なしかグランより明るい町に見える。


川の対岸に目をやると斜面にひとりの女の子が座っていた。

尻尾があるから獣人族ビーストだ。

その女の子は急に右手を振り上げた。

すると木の板や石の板が宙に5枚も浮いた。


「おいおい!なんだよあれ。」


俺は慌てて窓を開け、カメラを回した。

アップにしてよく見ると、背が低く、赤と黒が混じった髪色の短髪猫耳少女だ。

右腕には魔陣のようなものが見える。

女の子の声は聞こえない。

だが、何かを言ったあと背後に魔術陣が5個展開され、そこから色とりどりの液体が板に向かって射出された。

女の子は驚くべきことに魔術を使って絵を描いていた。

しかも、綺麗な風景画だ。

画家だろうか?

そんなことはどうでもいい。

店長の魔術を見た時より衝撃的だ。

そうそう!ファンタジーってのはこういうことを言うんですよ。

ひとしきり描き終えると首を傾げ不満げな表情を浮かべていた。

カメラ越しだがとんでもないインパクト。

だが魔術を使い行ったことはとんでもなく繊細な芸術。

あいつをどうにかして俺たちの仲間にできないだろうか。

こんなチャンス……もう無いかもしれない。

夢中でカメラを回していると、その女の子がこっちを見た気がした。

すると右手の指をこちらに向けた。

その指に魔術陣が現れ、水弾が近づいてきた。


「どわぁ!」


カメラがきれいに撃ち抜かれた。

とんでもねぇ……。

カメラは……一応無事か。

せっかく撮ったこんな貴重な映像失ってたまるか。

すると女の子は水面を全力で走ってきて、俺が泊まってる2階の部屋に窓から飛び込んできた。

魔術ってこんなこともできるのか。

俺が知る人間の動きを完全に超越してる。

そんな超人猫耳娘は俺の胸ぐらを掴みブチ切れた。


「おい!一体何のつもりだ!この変態。」

「あ……いやその……すげー魔術だなぁと思いまして……。」

「あぁ?とりあえずそのカメラのデータぶっ壊してやるよ。」

「……はい。」


勢いが凄すぎて取り付く島も無い。

その女の子はカメラを拾い上げ、魔術をとなえた。


展開エクスパン。」

「……はい?」


彼女の詠唱と同時にカメラから無数の魔術陣と今まで撮った映像が宙に現れた。

どういうことだ?

カメラの映像を確認する時は横のボタンを押して一つ一つ見るんじゃないのか?

こんな操作方法知らないぞ。

まるで魔術でカメラが動く原理そのものをいじっているように見える。

これは……国家魔術師レベルということの証明ではないか?


「私は優しいからあんたの他の思い出は消さないでおいてあげる。……ん?」


自分が写っている動画を探している時、その女の子の手が止まった。

それはハンナさんが料理をしている動画だ。

このカメラを初めて買った時に撮った動画だ。

盗撮気味に撮ってたらジト目で変態とシンプルに言われた。

人によってはご褒美だろう。

女の子は再度俺の胸ぐらを掴み直し


「おい!ハンナとはどんな関係だ!」

「いやそのー……今は私の使用人としてですね……。」

「使用人だと!あの女は国王直下のハウスメイドだろうが!」

「色々ありまして……。」


ハンナさんと知り合いか。

すごいチャンスだと思ったけど、こんな状態のやつどうやって誘えばいいんだよ。


「なんの騒ぎだ!!おっ!!白昼堂々と女とイチャコラとは隅に置けないな!!」

「……店長!」


最高のタイミングで店長だ。

お願いします。助けてください。

この女凍らしちゃってください。

凍らしてそのままさらってやろうかな……。

女の子は人殺しの目で店長を睨む。


「ハンナさんという人がおりながら!!浮気者が!!」


このじじい……。

火に油を注ぎやがって。

しかしその女の子は少し顔を赤らめて


「先越された……。」

「はい?」

「この変態!!」


俺はとんでもない威力の腹パンを食らった。

女の子の……いや俺が知る人間の威力じゃない。

俺は気が遠くなった。

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