第44話

 会場の外、中、どこを見ても姉さんの姿が無くなったことに安堵しながら、次戦の畳に上がった。相手はかなり強いと噂のある僕と同い年の男だった。引き手も釣手も強力なだけでなく組手も上手い隙のない奴でどう勝ち筋を作るか迷いながら【始め】のコールが会場に響く。


 こちらから攻めてやろうと思い切って足を踏み出すと、奴は一歩足を引きこちらを誘うように組手の姿勢に入った。


 奴の範囲にいけば持っていかれてしまうかもしれないという恐怖が一瞬にして襲う。だがここで引いて負けてしまえば意味が無い。思い切って相手のテリトリー内に入り込むと一気に奥襟、そして脇近くの袖を掴まれ内股、払腰、跳腰どれをやられてもおかしくない状況に追い込まれる。


 どうにかして逃げないと。


 そう考えながら上手く相手の技を避けていく。


 二分ほど粘りきった後にチャンスが訪れた。

 小技を仕掛けてきた相手の足に上手くタイミングを合わせてこちらも足を飛ばす。すると相手は思わず尻もちをつく。


 このまま押し倒してポイントを取れればでかい。一気にパワーを解放し背中をつけさせる。


【技あり!】


 審判の声が響いた。


 そのまま試合は僕のペースに進んで行って勝ちをもぎとった。このまま順当にいけば残り三試合で決勝に届く。


 そんなふうに考え事をしながら自席に戻って水をがぶ飲みしていた。


 ふと、試合終わりに我に返ると茉莉姉さんはどうなっているのか少し心配になっていた。


 ☆☆☆


「お姉ちゃんはりゅーくんを逃がさないから」


 私は彼に嫌われてなんか居ない。私は大丈夫。私はヤンデレなんかじゃない。ただりゅーくんが好きなだけ。


 私は彼を逃がさない。彼は私がいないとダメだから。


 私はただ応援したくて会場に来ただけ。追い返されるのはおかしいと思っていたけれど、急に来たら恥ずかしくなるよね。だってこんな美人のが現れたら、私取られちゃうかもしれないもんね。


 でも大丈夫だよ。りゅーくんしか愛せないから。

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