第19話

 翌朝眠い目をこすりながら起き上がると、若干身体に重みを感じる。ふと横を見ると、梨々花ちゃんがスヤスヤと寝息を立てながら、僕の身体に抱きつきながら寝ていた。


 僕は思わず二度見して、そして大きく声を上げてしまった。


「なっ?!」

「んぅ……」

「り、梨々花ちゃん?!」


 僕は梨々花ちゃんを揺すりながら起こしていると、僕の先程の大声で何かを察知した茉莉姉さんがバタバタと音を立てながら僕の部屋まで走ってくる。


「ど、どうしたの?!」

「ま、茉莉姉さん……」

「横に居るの、梨々花?」

「は、はい。どうやら僕が寝た後に忍び込んだみたいで」


 茉莉姉さんからとてつもないほどの殺気が放たれていた。恐ろしくなり、僕は急いで梨々花ちゃんを起こそうと先程の何倍も強く揺する。


「な、なぁにー?」

「梨々花ちゃん!」

「あ、お兄ちゃんおはよぉ」


 梨々花ちゃんは寝ぼけているのか、僕の頬にキスをしようと強く迫ってくる。これ以上茉莉姉さんを刺激しては僕が死んでしまう。そう思うくらいに茉莉姉さんは厳しい表情を浮かべていた。


 そして数十秒後、決壊した。


「私のりゅーすけくんなのにぃぃぃ!」


 茉莉姉さんは泣き始めた。僕はただポカンと口を開けたまま何も言えなかった。


 梨々花ちゃんというと、茉莉姉さんが泣き始めた瞬間、ため息をついて一言。


「まーた始まった」

「梨々花が悪いんじゃぁぁん」

「うるさいなぁ。あんたみたいなガキ臭い女がお兄ちゃんの心を捕まえられると思ってんの?」

「梨々花のばかああああ」


 僕は少し可愛いなと思いながら、どうにか茉莉姉さんを慰めようと頭を撫でると、茉莉姉さんは嬉しそうに微笑みながら僕の唇めがけて顔を近づけてくる。


 僕は思わず後ろに引くと、茉莉姉さんは再び泣きながら言った。


「私はりゅーすけくんのこと好きなの……ねぇ、りゅーすけくん……」

「ま、茉莉姉さん……」


 梨々花ちゃんをちらっと見ると、茉莉姉さんの泣き姿にため息と、そして何故か怒ったような表情を浮かべ、朝の可愛い寝ぼけ姿が全く無かった。


 こんな朝のスタートなんかあるかよ。

 そう思いながら僕は久しぶりのランニングへ行こうとジャージ一式を持ってトイレにこもった。


 トイレにこもったはいいものの、茉莉姉さんや梨々花ちゃんはドンドンッと扉を叩きながら言う。


「ねぇ、出てきてよ!」と茉莉姉さん。

「お兄ちゃんなんでトイレ行くの!」と梨々花ちゃん。


 ジャージに着替え終わり、トイレから出た瞬間が勝負だ。バッと扉を開けて2人に捕まらないよう外に出る。


「りゅーすけくぅぅん!」


 一生の別れかのように茉莉姉さんは声を荒らげ泣き叫ぶ。これが次大学生に上がる女性の姿なのかと疑いながら、いつも通りの道でランニングし始めた。

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