第15話

 冴香ちゃんを撫でながら2時間目が始まる5分前のことだった。保健室の先生は僕の元へやってきて言った。


「良いよ。もう」

「あ、はい」

「緒方先生も了解してくれていたし、冴香さんもこんなにぐっすり寝れているから。それと保護者の方にも連絡取れたしね」

「じゃあ戻ります」

「えぇ、ありがとね」


 僕は少し小走りになりながら教室に戻った。次の授業の準備のために机の上に教科書を出そうとした瞬間5分が既に経ってしまっていたのか、次の教科の教師が入ってきてしまった。


「おーい金沢、お前なんで用意出来てねーんだよ」

「す、すみません」

「チッ。これだからガキは嫌いなんだ」


 教師とは思えない言動をする奴に僕は少しイラッとしながらも、授業道具を出し真面目に受けようと一生懸命授業に望むが、教師は先程の僕の準備不足の嫌がらせか、授業中僕に当ててくるようになった。


「おい。金沢これの答えは?」

「X=2です」

「ふーん。まぁお前のくせによくわかったな。まぁ座れ」


 教師のイラつく態度が続き、僕は途中で腹痛だといい保健室へ逃げ込んだ。


「あ、金沢くんどうしたの?」

「すみません。永見先生がちょっと」

「あぁ。ゆっくり休んでおいき。冴香ちゃんは今起きてるけどね」

「あれ、保護者の方が」

「それがね。途中でタイヤがパンクしちゃったらしくて、お迎えが来れなくなったみたいでね」


 僕は冴香ちゃんが心配になり、冴香ちゃんの元へ行こうとベッドまで近づくと啜り泣く声が聞こえる。


「さ、冴香ちゃん?」

「へ?!」

「大丈夫?」

「べ、別に」

「そう。ならいいんだけどね」

「ねぇ。龍介くん」

「ん?」

「あ、あのさっきの言葉」

「あぁ。りゅーくんりゅーくんって呼んでたやつ?」

「そ、そっちじゃない!」


 冴香ちゃんは少し声を荒らげたが、その後に謝りながら僕に言った。


「龍介くん。坂上くんが私の事好きだって話結構前から聞いてて、でもさ。でも」

「ん?」

「私は」

「うん。それ以上は言わないで」


 僕は冴香ちゃんの言葉を止めた。それ以上言われると坂上に合わせる顔がないこと、そして梨々花ちゃんや茉莉姉さんがどう思うか分からないこと、そして今僕の状態で冴香ちゃんの言葉がちゃんと受け止められないと思ったからだ。


「ねぇ。龍介くん」

「うんごめんね」

「ううん。あの、明日私体調が良くなったら放課後遊びたい」

「そ、それはいいよ」

「ありがと」


 冴香ちゃんと放課後に遊ぶ約束を取り付けて、僕は2時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ったところで教室にゆっくりと戻りながら3時間目、4時間目のためにジャージを持ち体育館へ向かった。

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