第9話

 3時間後、タイマーが鳴り響く。汗だくになった僕と、その汗を拭いてくれる義妹の梨々花ちゃんの2人だけの世界が完成していると、タイマーの音がかなり響いてしまったのか、バタバタと音を立てながら茉莉姉さんが現れる。


「な、何かあったの?!」

「あ、タイマーの音です」

「そ、そう。良かった」

「茉莉姉さん今度は姉さんが手伝ってください」

「え、いいの?」

「はい!」


 茉莉姉さんと笑顔で会話をしていると、この二人きりの空間を邪魔されたからなのか、梨々花ちゃんは怒りながら部屋から出て行ってしまい、自室で大声で叫びながら言った。


「邪魔すんなよ!」


 その声に僕は驚いてしまって、急いで梨々花ちゃんの元へ行こうとすると茉莉姉さんは僕の身体を強く押し倒しながら、僕の汗を拭き始めた。


「さっき梨々花と2人きりだったでしょ。今度は私と2人きりになろっ」

「あ、えっと」

「梨々花は大丈夫だから」


 茉莉姉さんはそういうと立ち上がり、僕の部屋に簡易的な鍵装置を作ってドアが開かないようにしていた。


「ね、姉さん?」

「ねぇ。龍介くん」

「は、はい」

「私ね。龍介くんと住めて嬉しいんだよ?」

「えっと」

「ふふっ。困ってるの可愛いね」

「い、いや。茉莉姉さんも高校生だったら僕みたいなガキより同じ年頃の男の方がカッコいいんじゃないかなって」

「なんでそんなこと言うかな。私は龍介くんが好きなの。できるだけでいいから2人きりで居たいの!」


 茉莉姉さんは拭く力がとても強くなり、痛みが走る。


 思わず「いたっっ!」と声を上げてしまった途端、茉莉姉さんは顔を青くして謝りたおしてくる。


「ごめんなさいごめんなさい!!」

「え、いや大丈夫ですよ。僕も大袈裟でしたから」

「ごめんなさい。ほんとにごめんなさい」

「い、いいですから!」


 茉莉姉さんはかなり極端な性格のせいなのか、次はこちょばしさしかない弱い力で拭き始める。考えれば僕が僕の身体を拭いていない事が間違っていた。


 だが、今更退けてほしいなんて言えず我慢して茉莉姉さんが拭き終わるのを待っていると、数分後完了したのか、茉莉姉さんはにこっと天使のような微笑みで、僕に言う。


「終わったよ。ほんとにごめんね」

「大丈夫ですから。シャワー入ります」

「一緒に入る?」

「……いや大丈夫です!」

「ツッコミ遅かったね//////」

「ほんと大丈夫ですから!」


 僕は走りながら風呂場へと向かった。


 ☆☆☆


 シャワー音が鳴り響く風呂場で、全て邪悪な考えを消し去ろうと頭から数分間ずっと水を被っていると急に梨々花ちゃんと茉莉姉さんの大声で喧嘩する声が聞こえて来る。


 またくだらない喧嘩だろうと思っていたが、喧嘩の内容が聞こえてきてしまい、僕は驚いて風呂場から出た。


 2人の元へ向かって喧嘩を止めようと割り込もうとしたが2人には僕の声は届かなかった。


「お兄ちゃんも、姉ちゃんの元カレも、友達もみんな私のモノなの!」

「龍介くんのためにならなんでも出来るし、龍介くん以外私は見てないもん。龍介くん以外に目移りするくらいなら、龍介くんは私がずっと一緒に居るの!」

「うるさい!!!」


 そう。2人の喧嘩は僕の取り合いだった。梨々花ちゃんに至っては自己中心的であり、独り占めしたい対象が様々だった。


 こんな土曜日あってたまるか!


 そう思い、僕は2人の喧嘩を止めることなく、ただ自室にこもりイヤフォンで耳栓するような形で2人の喧嘩の声を聴かないようにしていた。


 これが僕の茉莉姉さんと梨々花ちゃんとの初めての土曜日だった。


 明日は日曜日僕が出る柔道の大会があるのだが、このままの体調で僕は大丈夫なんだろうか。


 不安が残ったまま僕は目を瞑り寝に落ちた。


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