第15話 お互いのメリット

「実を言うと私も彼らと同じように、君に惹かれている」


 ダルセル様は自分の気持ちについて打ち明けた。とても真剣な表情で、私のことを見つめながら。


「この感情の変化は原因不明。こうなった理由について解明したい。そのためには、君に協力してもらう必要がある」

「私の協力?」

「そうだ。本来ならば、あの令嬢が愛されていたはずだったのかもしれない。王子は物語の通りになった。それなのに他の者たちは、愛する対象が君に変わった。物語の主人公が君に成り代わった。本来あるべき立ち位置が逆転した。それは、なぜだ?」


 私に聞かれても、そんなの分からない。ダルセル様も、その答えを見つけていないようだけど。そんなの、本当に答えがあるのかしら。


「今の状況で物語を進めた場合、どうなるのか詳しく見ていきたい」

「それで、私と結婚するのですか?」

「まぁ、それは建前だな」

「建前?」

「君が他の男と結婚するのを見たくない。だから誰よりも先に私が、君と結婚する。この気持ちも原因不明だが、抗うことは出来そうにない」

「……」


 結局、ダルセル様の目的は私と結婚することらしい。正直に話してくれたのはいいけれど、そんな理由で結婚したいと言われても。だけど、彼の苦しそうな表情を見てしまうと、本気なんだと伝わってくる。


「私と婚約すれば、今後は婚約を迫ってくる他の者たちの牽制にも使えるだろう」


 まぁ、それは確かにありがたいかもしれない。断る理由に使えるのは確かだ。あの嫌な面会も避けることが出来るのね。


「それに、妻となったら全力で君のことを守ることを約束しよう。こう見えて、私は家族を大事にする方だからな」


 宮廷魔術師長であるダルセル様が守ってくれるのなら心強い。次々と挙げる利点を聞いているうちに、心が揺さぶられる。


「この世界で、君のことを一番理解しているのは私だと自負している」


 今まで誰にも話せずに抱えてきたあの光景について話せるのは、ダルセル様ぐらいだろう。


「けれど私は、貴方のことを愛していませんよ」

「それでもいい。私は自分のために、君と結婚したい。一緒になれば、決して後悔はさせない」


 椅子から立ち上がって、私の目の前に手を差し伸べるダルセル様。


 私の選べる道は、それほど多くはない。彼の婚約の申し込みを受けるか、それとも断るのか。


 あの光景を思い出して、今も彼のことは怖いと感じている。そんな人物と結婚して幸せになれるのか。


 考えてみると、貴族の娘である私が望んだ結婚ができる可能性なんて低いだろう。貴族なら、家の利益のために当人たちの意向を無視してさせる結婚も多いと聞く。


 色々と考えた結果、私も椅子から立ち上がった。そして、彼の差し出した手を握ることにした。


「わかりました。これから、よろしくおねがいします」

「あぁ。よろしく頼む」

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