第10話 念願の図書館の入場許可を手に入れたぞ!

 はふぅ、と読み終わった本を閉じ、右側へと積み上げた。

 

 今私は図書館を利用できる幸せを噛み締めていた。

 最初こそ独自の言語に戸惑いを見せたものの、知力を上げればあげるほどに理解力が増えていく。

 しかし私は筋力特化。

 だが本を読む時は例の指輪を嵌めることで知力に変換されるのですらすら読めると言うわけである。

 まさに知的欲求を満たすのに読書というのは優れていた。

 

 図書館には私と似たような見た目のダークエルフが大勢。

 エルフや人間も多くいるが、その中でもダークエルフ率が多くを占めていた。

 このゲームは種族によって選べる武器や扱える魔法が異なるのもあり、本の扱いが得意なプレイヤーが多いのだと思う。

 そこで私は一度見かけた事のあるプレイヤーの姿を見かけて声をかけていた。


「チャーシューさん」


「あ、確かレミアちゃんと一緒に居た子?」


「はい。あの時はお世話になりました~」


 一度見たら忘れられない。

 豚耳のヘアバンドにブタの着ぐるみスーツを着込んだ女の子……と言って良いのか?

 仲が良さそうだったからきっと同じくらいの年齢。年上だと思う。けど私より背が低いから年下に見えちゃうんだよね。


「良いの良いの。大型オーブはネタで作ってた所もあるし、あれは売れずにホコリかぶってたし」


「ありゃ、オーブって意外に売れないんですね」


「ファストじゃ仕方ないよ。近辺に大型種居ないもん」


 確かに。先程読破した『大陸に生息するモンスター達<上巻>』ではこの大陸には四つの町があると記されていた。


 今いる始まりの町ファスト。

 北の砂地をまっすぐいったサース王国。

 東にまっすぐ進めば坑道の町セカン

 サース王国の東に位置するフォスの港町だ。


 大体英数字順に覚えていけば良い。

 街の数字の規模が増えるにつれてモンスターも強くなるらしい。

 そこでは砂漠地帯の推奨難易度は30~となっていた。

 受付のお姉さんが驚くわけである。よく生きていたなと自分で自分を褒めてあげたい。


「それにしても……」


「マールです」


「マールちゃん」


「はい」


「もうランクDになったんだ?」


「本を読むために頑張りました」


「レミアちゃんが知ったらきっと驚く。あの子、3回くらい昇格試練落ちてるから」


「スコルピオン討伐ですよね? あれは辛かった」


「違うよ。むしろ初めて聞いたんだけど?」


「えっ」


 チャーシューさんはジトりと私の顔を覗き込んだ。


「マールちゃん、召喚師だったよね?」


「特別どれだー、とは決めてませんけど。ヌシ様との契約は約束でしたので」


「じゃあ魔法も使うんだ?」


「いえ、使いませんね」


「じゃあどうやって攻撃するの? 本を武器にしているということは補助魔法は使うんだろうけど」


「拳ですね」


 拳をグッと握って鼻息を荒くすると、呆れたと言わんばかりの顔になった。


「レミアちゃんが必死になるのが分かった気がする。マールちゃんて見た目以上にダークエルフしてないよね」


「えー、そうですか?」


 心外だ。


「普通、オーブと本装備なら攻撃は召喚獣に任せてサポートに回るプレイヤーが多い中、マールちゃんは格闘一本で、スコルピオンまで倒しちゃう」


「殆どヌシ様がやっつけちゃったんですけどね」


「だとしてもだよ。従来の私達の戦いじゃない。うん、面白い。私も興味出てきた。ね、杖は使わないの? 魔法も楽しいよ?」


「使っては見たいんですけど、現状魔力が一杯一杯で」


「今いくつ?」


「250ですね」


「それでいっぱいいっぱいなの?」


「ヌシ様が一回の召喚で150使うので」


 私の受け答えに、チャーシューさんはギョッとした。

 今まで眠たげだった瞳がぱっちりと開き、一瞬で目が覚めたって顔になる。


 余程ショックだったのだろう。レミアさんも言ってたけど、他のプレイヤーさんは普段受付のお姉さんにお世話にならないのだろうか?


「待って。大型というからジャイアントビートルかそこら辺だと思ってた。それなら40位で召喚出来るから。でも150となると二つ目の大陸のシクスの水辺にいるグレーター系しか思い浮かばないわ」


「ヌシ様はグレータースネークって呼ばれてますね」


「なんでそんなのがファストにいるの!?」


「図書館内ではお静かに」


 とうとう声量を我慢できなくなったチャーシューさんが司書さんに窘められた。

 そうだよ、図書館はお話しする所じゃなくて本を読む所なんだから。


「取り敢えずここではいちいち驚けないから外に出ましょうか。あ、時間平気?」


「大丈夫です。図書館の本もあらかた読破しましたので」


「ランクDだと20冊もないしね」


 そうなの。悲しいことに重要書類はランクCからとなっており、途中でお預け状態。

 ちょっとしたアイディアレシピだったり、ポーションの作り方、はたまた織物の歴史など多岐にわたるこのゲーム内の歴史を紐解いた私はもっと読みたい欲に駆られまくっていた。

 その為にはランク上げなきゃ、というスパイラルに陥ってしまうのでした。やるせない。


 場所を変え、チャーシューさんのお店へ。

 ここなら人通りも少ないし、レミアさんが連れてこない限りはお客さんがこないらしい。

 それ、お店として大丈夫です?


「じゃあこの中から面白そうな装備があったら選んでみて。全部杖だから」


 私はチャーシューさんが何を言っているのかさっぱりと分からなかった。

 杖ってどこが?

 今目の前に並べられた商品名を左から順に答えるなら『バングル』『ネックレス』『イヤリング』『ブーツ』だった。



◆魔法のバングル★★

装備部位:装飾

知力+10、器用+5

:本来杖となる筈だった素材が突然変異で腕輪になった。

魔法セット数2


◆魔法のネックレス★★

装備部位:装飾

知力+11、精神+9

:本来杖となる筈だった素材が突然変異で首飾りになった。

魔法セット数2


◆魔法のイヤリング★★

装備部位:装飾

知力+9、敏捷+7

:本来杖となる筈だった素材が突然変異で耳飾りになった。

魔法セット数2


◆魔法のブーツ★★★

装備部位:装飾

知力+20

:本来杖となる筈だった素材が突然変異でブーツになった。

魔法セット数3


 手にとってみたのはバングルとブーツだ。


「お、お目が高い」


「杖としての効果を持ちながら、何故か武器扱いじゃなくなった装備なんてあるんですね」


「これがまた錬金術師泣かせでさ。しかもその装備、セット出来ても近い場所、または触れていないと魔法が発動しないのよ」


「良いことばかりじゃないんだ」


「ちなみにどうしてバングルとブーツを選んだの?」


「殴った時や蹴ったときに魔法が発動したらカッコいいと思って」


「やっぱり! 普通私達って肉弾戦は苦手なイメージがあるのよ。だから使ってみたいってプレイヤーが居なかったの。よかったら使って貰える?」


「ただじゃ受け取れません。ちゃんとお金払いますから」


「在庫整理だと思ってさ。これがいつまでもあると私も次の商品を作れないの。なんだったらバングルとブーツだけでも良いから貰ってくれる? そしてついでに地に落ちたダークエルフの評判を上げてくれたら言うことなし」


「そんなにダークエルフって評判悪いんです?」


「悪いよー。特に人間に嫌われてるね。なんでかよくわかんないんだけど、ほら。私達って変な子多いから馬が合わないんだよきっと」


 じゃあこの前の喧嘩もそれが原因か。

 聴けば聴くほど言いがかりに近い気もするけど、多くのプレイヤーが迷惑してるみたいだった。


「分かりました。この杖を使って魔法使いとしての活動する私を見ててくださいね!」


「うん、頑張って。あ、魔法を売ってるお店の場所はわかる?」


「図書館で一応は頭にたたき込んだつもりです」


 むふん、と鼻息を鳴らす私に、チャーシューさんは流石と答えた。さて、どんな魔法を選ぼうかな。



 ◇



 決して安くない新しい魔法と魔法薬を仕入れた私は早速狩場へと来ていた。

 勿論スコルピオンに下克上である。


 あの時は逃げることしかできなかったけど、今日はヌシ様抜きで退治してみせる!


 早速足場の砂が盛り上がる。ぴょいとバックステップして奇襲を回避すると、ファイティングポーズで私は真正面にスコルピオンを捉えた。


|スコルピオンが現れた

|スコルピオンの先制攻撃!

|ミス、マールはひらりと身を躱した

|マールの正拳突き!アイスジャベリンが発動!

|会心の一撃!

|スコルピオンに70ポイントのダメージ!


 うわ、えぐいダメージ入った!

 素手よりも明らかに手応えがある。

 けど、倒し切れないということは?


|スコルピオンは仲間を呼んだ

|スコルピオンBが現れた

|スコルピオンCが現れた

|スコルピオンDが現れた

|スコルピオンEが現れた


 やっぱりかー。

 ならこっち!


「でえぇええええい!」


|マールの回し蹴り!エアスライサーが発動!

|スコルピオンAに30ポイントのダメージ!

|スコルピオンAをやっつけた

|スコルピオンBに30ポイントのダメージ!

|スコルピオンCに30ポイントのダメージ!

|スコルピオンDに30ポイントのダメージ!

|スコルピオンEに30ポイントのダメージ!


 よし!

 これなら戦える!

 勝てる!

 砂漠地帯に魔法は最適。

 戦闘スタイルは変えずに、物理か魔法のスイッチで対応するのが今後の私のスタイルになりそうだった。


 その日は20体のスコルピオンの討伐を終え、レベルを24まで上げた。

 さすが推奨レベル30~というだけある。

 レベルがガンガン上がったので、ここで私は溜めに溜めたステータスポイントを全部筋力にガン振りして更なる力を得るのだった。


 なお、素手で討伐するよりドロップは悪かったので、金策をするなら素手の方が良いのかなーと思ったのは内緒である。


 ──────────────

 プレイヤーネーム:マール

 種族:ダークエルフ

 種族適性:魔法攻撃力+10%、水泳補正+10%


 冒険者ランク:D

 LV:24/40

 依頼達成回数:7回

 称号:『蛮族』

 資金:56,620G


 生命: 70/240

 魔力: 10/240[+50]

 

 筋力:146[-146]

 耐久:0[+15]

 知力:6[+177]

 精神:0[+31]

 器用:0[+5]

 敏捷:0

 幸運:0

 割り振り可能ステータスポイント:0


 武器1:初心者の本★[知力、精神+1]

 武器2:太陽のオーブ★[精神+20、魔力+50]

 体上:タランチュラベスト[耐久+15、精神+10]

 体下:初心者のスカート

 装飾1:変換の指輪[装備時、割り振りステータスを知力に置き換え]

 装飾2:魔法のバングル★★[知力+10、器用+5]

 装飾3:魔法のブーツ★★★[知力+20]


 ◾️戦闘スタイル【ダークエルフ】

 <物理/素手>苦手:威力20%ダウン

 気合の咆哮

 ジャストカウンター

 飛び蹴り

 正拳突き

 羽交い締め

 超直感

 朧車

 集気法

 回し蹴り


 <魔法/杖>得意:威力10%アップ

 Eファイアジャベリン/単体【8】

 Eアイスジャベリン/単体【8】

 Eエアスライサー/グループ【10】

 Eチェインライトニング/グループ【20】

 Eブリザード/グループ【12】

 

 <補助/本>

 Eパニック/グループ【15】

 ストーン/単体【10】

 パラライズ/単体【5】


 <召喚/オーブ>

 ヌシ様/グレータースネイク【150】

 ───────────────────


装備の★の数によってセットできる魔法の数が変わる

【】内は消費魔力量

Eは装備済みの意味

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る