18. ギルド設立

「——以上が今回ダンジョン内に出現した変異種ミノタウロスの報告です」

「うむ。報告ありがとう」

「いえ、お礼は俺の方こそ伝えるべきでしょう。留美奈が危険な状態かもしれないと教えてくださって、ありがとうございました。——獅子王会長」



 黒ミノタウロス騒動から数日が経ち、俺は一連の報告をするため獅子王会長の元を訪れていた。


 あの日、俺は二刀流S級プレイヤーである凌師匠の元で修行しており、卒業試験の最中だった。


 卒業試験に合格すれば、二刀流究極の極意を伝授する。

 そういう約束だったが、終える前に獅子王会長からダンジョンの件で連絡をもらったのだ。


 探索を進めることでダンジョンの危険度レベルが跳ね上がることは、最近になり頻繁に起こるようになっている。

 死者が出る事も多々あったため、留美奈がその状況に巻き込まれていると知れば行かない訳がない。


 修行放棄とみなされ師匠からは破門にすると告げられたが、俺は大切なものを守るために修行をしていたのであって守れないなら意味がない。


 究極の極意は惜しいが、迷う事なく留美奈を選択したのだった。


「留美奈くんを含め、今回攻略に参加したプレイヤーの健康状態は異常なしだそうだ。剣士の北野プレイヤーは精神面ではかなりショックを受けたみたいだがね……」

「毎回被害が出るようになってますし、会長へのバッシングも増えてるみたいですね」


 獅子王会長は困ったように笑う。

 どうやら思っている以上に、厳しい世間の目に晒されているらしい。


「まぁ、対策を考えるのは協会の仕事だからね。それより……ギルド設立の件だけどね、明日正式に許可が降りるよ」


 獅子王会長との二つ目の約束——ギルド設立。

 俺自身が壊滅に追い込んだと言っても過言ではない、『煉獄の赤龍』の穴を埋めるというのも理由の一つだ。


 ギルドマスターは俺。

 そして、サブマスターは——留美奈だ。


 かねてより留美奈には話を持ちかけていた。

 最初は戸惑いを見せていたが、A級プレイヤーに昇格したことで自信が付いたのか今では前向きにやる気を見せてくれている。


「明日から始動とは言え、まだギルドメンバーは俺と留美奈の二人ですけどね。少数精鋭で行こうと思うので、少しずつ増やせたらいいかなって思ってます」

「ん、二人? ……まだ話を聞いてなかったのかい?」

「何のことですか?」

「いやいや、その内話があるだろうし今のは忘れてくれ。それよりも楽しみにしているよ。ギルド——『スター・ルミナス』のこれからの活躍を……」


 獅子王会長がチラつかせた話と含みを持つような笑みから予測すると、ギルドへの加入希望者でもいるのだろうか。

 気になるところだが、これ以上追求しても答えてくれないだろう。

 そう考えた俺は、一旦は心の中に仕舞い込んでおくことにする。



 そして——。



 ◇




 ——翌日を迎える。


 ネットニュースや新聞の一面は、新ギルド『スター・ルミナス』設立の件で話題が持ちきりになった。


 とてもめでたい日であり、本当ならパーッとお祝いでもしたいところ……なのだが……。


 救出作戦に加え、三ヶ月に渡る修行の日々。

 プレイヤーであると同時に学生でもあるにも関わらず、授業にすら出ていなかったツケが回ってきていた。

 教授から『今日の授業に参加しないなら単位は与えん!』と言われてしまったのだ。


 プレイヤー協会直属の大学に通っていればこんなことは起こらない。

 でも俺が大学受験をした時には、当然スキル無し。

 受験希望は一般の大学にしか出せなかったため、私立大学に通っている。


「S級プレイヤーにもなって、大学に通うってのもなぁ。でもだからって辞めたら、それまでの時間が無駄になっちゃうしな……」


 もやもやした気持ちを抱きながら、大学の正門をくぐる。


 すると——。


「あれって、星歌様じゃない?」

「何言ってるのよ。そんなわけ……せ、せせせ星歌様ッ!?」


 これまで大学生活をする中で、誰からも見向きされることなんてなかった。

 だが、俺の存在に気付いた女子生徒たちは我先にと目の色を変えて近寄って来る。


 その様子を見た他の生徒たちも集まり、いつの間にか俺は数え切れない女の子たちに囲まれていた。


「ちょっと、私が星歌様と話するから!」

「抜け駆けしないでよ。私が先だってば!!」


 嬉しいような、嬉しくないような……。

 ある意味、これまでで一番の壮絶な争いが目の前で繰り広げられている。

 争いは次第に加熱していき、歯止めが効かなくなる。


 俺はその場を後にするため抜け出す。

 すると、女の子たちは全速力で追いかけてくるという謎の構図が生まれた。


 さながら生きた人間を見つけたゾンビかのように、その数は時間を追うごとに増していく。


 大学の校舎は広い。

 そのため逃げ道はいくらでもあるが……。


「これは、さすがに多すぎだろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ———————ッ!!」


 このままでは捕まるのも時間の問題だ。

適切にルートを確保して、みんなの裏をかく必要がある。

 そんな時に便利なスキルを俺は持っているのだ。

 【スマートスキル】の一つである《マップ》を使用する。


 学園内で起きている状況がリアルタイムで表示されるため、どの道に誰がいて、どの部屋で何が行われているのかまで詳細がきっちり把握できる。


「どこか隠れることができそうな所は……」


 良く見ると、東棟の校舎周辺は生徒が少ない。

 ここならしばらくの間、隠れても見つからなさそうだ。

 後続の女の子たちの視線から外れるためにも、一度全力疾走し突き放す。


「よし、このまま東棟へ向かえば——ん?」


 俺が疑問を抱いたのは《マップ》に表示されているに対してだった。

 東棟校舎周辺に、何故かダンジョンの入り口——ゲートが表示されているのだ。


「何で大学にゲートが!? こんなことは今まで一度も——ッ!」


 そして俺は更に驚愕する。

 ゲートからモンスターが出てきているという事実に!

《マップ》の表示が正しければ、とんでもないことが起きていることは明白だった。


『きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ————————ッ!!』


 何かの間違いであって欲しいという願いは、湧き上がる悲鳴によって無慈悲にも打ち砕かれる。


 モンスターたちがダンジョン外に出てくる事で、プレイヤーでない一般人や非戦闘員を巻き込む最悪の事態。


 その現象は——"ダンジョンブレイク" と呼ばれる。


 日本でも過去に二度起こり、両方とも甚大な被害がもたらされ、死者も多数出すという最悪の歴史を経験している。


 もちろんたった一体のモンスターに、それだけの被害が起こせるはずがない。

 ダンジョンブレイクが起きる時は決まって、数十体以上のモンスターが溢れていたのだ。


 そして——それは、今回も同じだった。


 ゴブリンキングと同格の強さと言われるオーガ。

 更にその上位種であり、たった一体で『道行く場所は、地獄への入り口となる』とまで言われる、災厄の存在——ヘルオーガ。


《マップ》情報によると、今回ダンジョンブレイクを起こしているのはこのヘルオーガらしい。


 そして俺が現場に到着した時には、既に百体近い数になってしまっていた。





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