第20話 私のせいにすることは諦めたようです

「なお、奇跡的にお前たちの首など不要という話になった場合だが」


 父の存在に気付き、それは悔しそうに顔を歪めていた公爵様に、議長様は言いました。

 公爵様は立ち上がる気力も残っていないのでしょうか。床にへたり込んだまま立とうとはされません。


「それでも我が国として公爵家の取り潰し、および公爵領の返還は決定事項であり、それだけは翻ることがないから心しておくように。領民たちについては、我が国の民として王家が責任を持って対応するから安心せよ」


「そんなっ。殿下、どうかご慈悲を。あれは息子が勝手にしていたことで……私は何も、本当に何も知らなかったのです!それにこのこむっ……ギルバリー侯爵令嬢に婚約破棄を命じられたのも王女殿下でございましょう!」


 床に座ったまま必死に命乞いをするバウゼン公爵様は、とても見ていて気分の良いお姿をされておりませんでした。

 あちこちで皆様が公爵様から顔を背けておられます。


「お前は公爵で、さらに父親なのだぞ?本当に知らなかったとすれば、それはそれで罪となるのだ。よもやそんなことも分からぬと言うのなら、それこそお前を公爵位に留まらせるわけにはいかない。もうその身は諦めよ」


「さ、されど!息子は王女殿下にそそのかされて!若くまだ女性を知らない息子でしたから、ついそちらにふらふらと……それは仕方のないところもございましょう!それに王女殿下に言われてしまえば、息子には断る術もありませんし。ですから我が家は被害者でありまして……その点を踏まえ今一度処分の見直しをご検討ください!」


「愚妹がそそのかしたと。自分は何も知らなかったと言いながら、どうしてそれは確かだと分かるのだ?」


「そ……そうでなければ、おかしいからです!私が育てた息子は、あの若さで公爵領の大事な仕事を任せられるほどに立派に育ち、由緒正しき歴史ある公爵家の後継としての良識も十分に備えています!誰かにそそのかされなければ、自らの意志で婚約破棄を望むはずがありません!」


 相応しい言い訳を思い付かなかったのでしょう。

 そこで王女殿下へとすべての罪をなすりつけようと考えられたことは分かります。

 今さら私のせいにしては、大変分が悪いことも理解されているのでしょうね。


 けれどもこのご発言によって、ご自身の首を絞めることになるとはお気付きになれなかったようです。

 少し前まで完全に切り捨てていた令息様を育てた責が自分にある旨、公爵様は宣言されてしまいました。


 議長様の横顔を見ますと、小馬鹿にするよう口角を上げて笑っておられます。

 その横顔に誰かに似たものを感じまして、私は心底想いました。


 お可哀想に──。



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