前のエピソード――第17話　やっと気付いてくださったようです

「あなたとの将来についてよく話し合うためにも。急ぎこの場を収めると約束します。申し訳ありませんが、もうしばしこの茶番にお付き合い願えますか、ギルバリー侯爵令嬢殿」

　相手によって議長様の態度がころころと変わっていることは気になりますが。

　この場で私が議長様のお願いを断れるはずはありません。

　素直に頷きますと、議長様はまた公爵様の方を見て、そして顔付きを別人のように変えられました。

「元々お前たちの首は、謝罪の意として帝国へと差し出す予定を組んでいた」

「は……い……？」

　公爵様のお顔から、怖ろしい速さで血の気が引いていきました。

　やはり王家の皆様は、公爵家を切り捨てる方向で考えられていたようです。

「お、お、お、お待ちください。お前たちとは一体誰のことでしょうか？」

「なんだ。息子の命だけは助けてください、とでも願うつもりか？」

　議長様が先を予測して言いますと、何故か公爵様は口を噤んでしまいました。

　どうやら答えは議長様が予測したものと違っていたようです。

「逆か。息子の命ひとつでどうか許してくれ、と」

　嘲るようにして議長様が仰いますと、公爵様は少しの間を置いてから、恥ずかし気もなくそれを肯定してみせたのです。

「……此度の問題を起こしたのは息子でありますが、その息子も……王女殿下にそそのかされた被害者だと言えます。息子に何の責もないとは言いませんが、此度の婚約破棄については、すべては王女殿下のご命令から始まったことであり、私のあずかり知らぬこと。私はあの園遊会にも参加しておりません」

　本当に凄い方ですね。

　王女殿下の首こそ差し出すべきではないか、そのように王女殿下の兄上様である議長様に言われたのです。

　自身の首が掛かっていれば、もう怖いものなど何もないということでしょうか。

　ところが議長様は、不敬だと怒ることもなく、身内に言及されて焦ることもなく、淡々と驚くべきことを言いました。

「無論、最初からそのつもりだ。愚妹の首で済むのなら、喜んで差し出そう」

　ほんの少し前に淑女であろうと固く決意しておきながら、私は信じられないという気持ちを視線に乗せて、しばらくの間、議長様の横顔を見詰めてしまいました。

　けれども議長様はあえてなのか、私の視線には気付かなかったご様子で、こちらを見ずに公爵様へと伝えます。

「陛下とて同じ気持ちにあるはずだ。王家とは本来そのようにあるべきものだからな」

　そう言った議長様のお言葉は、不自然に一部が強調されておりました。

　確か誰よりも陛下が王女殿下を溺愛されていると聞き及んでおりましたから、さすがにこの議長様のご意見には陛下も抵抗なされたのではないでしょうか？

　それでも「はず」で「べき」だから、それを通した、いいえ、通すということなのでしょう。

　この議長様、第五王子でいらっしゃいますが、王家では強い権限をお持ちのようです。

　何かそこに秘密でもあるのでしょうか？

「だが愚妹の教育に失敗した、という意味では陛下も含め、王家全体で何らかの責を取らねばならないだろう。それについては、まだ話し合っている段階だ。国の問題となるからには、かの帝国の皇帝陛下にもお伺いを立てねばならん。そしてそんな王家よりも身分の低いお前たちが、責を取らずに済むはずがないことは分かろうな？特にお前は、公爵として、父親として、息子をあのように育て放置した重い罪がある」

　議長様はどこまでも無慈悲に最後までお言葉を続けました。

「王家が先に切るべき札が何か、頭の弱いお前でも分かろうな？おや、分からぬか？ならばはっきりと言ってやろう。急ぎ我が国の誠意を示すためにも、お前とお前の息子の首は必然だ」