やってきた星三つ依頼


 冒険者が嫌々ながらその洞窟に辿り着いたのは、それから三日後の事だった。


 いつものように朝から冒険者ギルドに顔を出して初心者推奨依頼を受けようとしたところ、既に先約が殺到していて初心者推奨依頼が無いと言われる。

 ギルドが発足されて数十年、危険な面も偽りなく明らかにされた最近じゃ新たな冒険者志望なんて現れていなかったのに、あの金髪の冒険者が色んなところで数々の体験談を話すものだから新たな冒険者志望が増加してしまったらしい。

 酒場だけに止めとけばいいものを、中央広場でそれこそ吟遊詩人みたいに話すものだから夢憧れる若者から夢捨てた中年まで看過されてしまったらしい。


 そんなわけで、星一つの依頼はもちろん、星二つの依頼すら受けることが出来ず、冒険者は渋々星三つの依頼を受けることにした。


 キャスリンの言う通りに実は冒険者にとって星三つの依頼はこなせないものではなかった。

 ただ楽をしたかったのが本音だ。

 商売人が性に合わないと思っていた冒険者は、どうにか楽に稼げる方法はないかと常に探していた。

 慎重にやれば傷一つ無く、平均日当を三、四時間で稼げるのだ。

 そうして毎日の食事はしっかり取れるわけだから、無理して危険な目にあう必要も無かった。


 なのに、噂の十五階層洞窟にやって来てしまった。

 トロールが現れた時には星四つとして依頼が出されていたが、その後始末として依頼された今回は星三つだ。

 中級以上の魔物が発生した場所は危険とみなし、王宮所属の神官がその魔素を霧散させ封印するのだが、中級もの魔物を生み出す魔素が完全に消え去るまで時間がかかる。

 神官の力によって薄れゆく魔素からも低級以上中級未満の魔物が発生するので、その討伐を冒険者ギルドは受けていた。

 ちなみに魔物の級判定はギルドが勝手に決めている上に、匙加減は結構曖昧だった。


 ガン、っと音をたて白骨死体スケルトンに鉄の剣がぶつかる。

 旅商人から安く買い叩いた鉄の剣の刃が少しかける。

 斬りつけるというより叩きつけた剣撃がスケルトンの頭蓋骨を砕いた。

 糸の切れた操り人形のように、スケルトンは足から折れて崩れていく。


「はぁはぁ、これだから、星三つの依頼は嫌なんだよ。コイツで何体目なんだっつうの! ていうか、今何階!? あー、疲れた、腹減った!」


 討伐依頼の達成を告げる伝書烏の姿が見えない。

 どんな場所にも現れてカァーっとなく様には安心感すらあるのだが、今のところ出てくる素振りすらない。


 やっぱりまだ奥に行かなきゃダメか、と冒険者は諦めて歩を進めた。

 その際に持っていた刃こぼれた鉄の剣を投げ捨てて、落ちていた誰のものかわからない鋼の剣を拾った。



 何階層まで降りたのかわからないが、先程スケルトンを倒した階層からは少なくとも二階層は降りただろう。

 あれからスケルトンとは遭遇しなくなって、猪頭鬼オークが代わりによく出るようになっていた。

 オークが低級魔物だったか、中級魔物だったか覚えていなかったが冒険者はどうにか退治し続けていた。


 洞窟内は先に訪れた冒険者や神官たちによって設置された方術に保護された松明が照らしていて、やたらと広いけれど迷うことは無かった。


 迷うことなく進めるけれど、しかし松明に照らされた洞窟の風景にあまり変化はなく時間の感覚が損なわれた。


 どれほど時間が経ったのだろうか?

 空腹を誤魔化す非常食は底を尽きた。

 金髪の冒険者の話を聞いて、重たくなるのを覚悟の上余分に持ってきたぐらいだったのだが、元より歩みの遅い進行ゆえに消費は想定より早かった。

 空腹が冒険者を襲う。

 眠気が来ないのは、まだそこまで時間が経ってないのか、緊張と興奮がかき消してるのか。


 ジリジリと進む歩み。

 グーグーとなるお腹。


 そんな冒険者の前に、ついにその姿が現れた。


 深奥にいる討伐対象ではなく、依頼達成を告げる漆黒の烏ではなく、緑色の肌をした小鬼。


 頭に布を巻いて、腕組みをし仁王立ちで屋台の前に構えているゴブリンの姿が現れた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る